【Flower】 P2 (啓X拓)  可愛い話を書きたいのー(>_<) 頑張るっす!

(SCENE 2 感情の名前 )

「まだ、ちっと早ぇかなー?」
と言いながら、2人してレストランのドアを潜った。
 そして2人でひとしきり…というか、思う存分食べて、いろんな話をした。
最近の近況とか、学校のコト、バイトのコトとか友達のコト。話すことが少し苦手な拓海から、啓介は次々と言葉を引きだした。
 もちろん、ムリヤリみたいなカンジでなく、世間話のように。自分のコトも話しながら、タイミングを計って拓海に話を振る。そうすると、拓海はポロポロと自分のコトを話し始めるのだ。

───知りたい。もっと、ずっと、拓海のコトを。

 心の奥にいつもあるこの欲求の出所が恋愛感情であることに、啓介はもう気づいていた。拓海の方は、どうなのだろう?…と思わないコトもないが、今はこの時間がとても楽しいのだ。
 もっとも、そんな風に思えるようになるまでには、啓介にも色々と、心の葛藤があったのである。

★☆★☆★

 出会った当初、啓介には拓海という人間が全然解らなかった。ボーッとして掴みどころがない。まるで糠に釘を挿してるみたいで、当たって砕けるコトすら出来ない。
余りの反応の無さに腹をたてて、ヤなヤローって呟いたのも一度や二度じゃなかった。

 でも、知っていた。ホントはいつだって、頭では解っていた。
ムカついたのは拓海にじゃない。拓海と自分の間の埋まらない『距離』にムカついてたのだというコトを・・・。

 拓海はものすごく速かった。あっと言う間に離れていくあの車の後ろ姿は、啓介の脳裏に今も焼き付いている。忘れられない光景だ。
そしてその距離と比例するかと思うほどに、拓海という存在はドコか遠かった。気安く話をする機会も与えられなくて、イライラした。そして、我慢限界で待ち伏せなんかやった日には、何故かケンカ別れのようになってしまって、どっぷり落ち込んだモノである。

「合わねーのかなぁ・・・」
 世の中には、フィーリングの合わない人間っていうものが居るモノだ。もしかしたら、アイツにとっての自分はそうなのかもしれないと、啓介はその日、どっぷりと落ち込んだ。ちょっと・・・いや、かなり、ショックだった。こんな気持ちは初めてだった。
 誰に言うともなく溜息混じりで呟いた啓介の言葉は、傍に座っていた涼介の耳にも届いた。
意気揚々と朝早くから出かけた弟が、荒れた様子で帰って来て、今度は叱られた犬のように落ち込んでいる。
 何があったか問うまでもない、分かりやすいその姿に、涼介はフッと小さく微笑った。
「ケンカしたのか?お前は短気だからな。」
クスクスと楽しげに笑う涼介に、啓介はムッとした顔を見せた。
「フンッ……ケンカにもなりゃしねーよ。」
ぷいっとそっぽむく弟はまるで拗ねた子供のようで、涼介はまた声をたてて笑った。
「ずいぶん、気に入ったんだな、アイツが。お前にしては、珍しいな。」
 今、啓介の心を占めているだろう少年に、涼介は好奇心をくすぐられた。啓介をここまで惹きつけるほどの何かが、あの少年にあるのだろうか?と。
「別に…そーいうワケじゃねーヨ…」
 言いながら、嘘だと、自分で解っていた。多分、兄にも気づかれただろう。
啓介はバツが悪くて、涼介と視線を合わせず、小さく唇を噛みしめた。
「まぁ、そう焦るなよ、啓介。」
「え?」
「諦めたくないんだろ?……じゃあ、じっくり行け。」
 微笑いながらそう言って、手にしていた本の角でコツンと啓介の頭をこづくと、涼介はその場を後にした。
「うるせー。言われなくても、そのつもりだよ。」
 こづかれた場所をさすりながら、啓介は立ち去った兄の後を目で追った。

・・・アニキなら…どーなんのかな?

 自分と全然違うあの兄なら、もっと上手く拓海に近づけるかも…とほんの少し考えて、啓介はブンブンと頭を振ってその感情を自分の中から払った。
「考えてもしょーがねぇ。俺は俺だもんな。」
 そう。本当の自分で、ぶつかるしかない。1度でダメなら2度でも3度でも。

・・・峠を攻めんのと同じように、何度でもやってやるゼ。

 こうと決めたら、ガンガン行く…がモットーの啓介は、根気よく拓海との接触を図った。その努力の甲斐もあってか、拓海の態度もゆっくりと砕け、2人の間の距離は今ではかなり縮まっている。

 途中で、自分の中の感情の名前が『友情』から『愛情』に変わっていってしまったが、啓介にとってはそんなのは大した問題ではなかった。
 このままゆっくり、攻めてやる…と、啓介の心はもう真っ直ぐに決まっていたから。

★☆★☆★

 楽しい時間は、あっと言う間に過ぎていった。時間だけで言ったら、普段よりずっと長く傍に居るのに。
 2人きりで過ごすこの時間は余りにも楽しくて、その分だけ別れる時が近づく寂しさがほんの少し2人の心を掠めていた。

───あともうちょっと、一緒に居たい。

 狭い車の中、ただ優しく流れる時間に身を任せながら、啓介と拓海は同じコトを思っていた。・・・お互いの気持ちに気づいてはいなかったけれど。

「満足したかー?」
 あの食いっぷりでは確認するまでもないコトだが、満腹になったかどうかと尋ねる啓介に、拓海はニコッと小さく笑った。
「はい。ごっそーさんです。…あ、でも、次は俺が奢りますから!」
 これは最近の拓海の口癖だ。奢られるばかりじゃ気に入らないらしく、おっとりした目を少し強めて言ってくる。拓海の気持ちも分からないコトはないので、啓介は反論しないようにしていた。それに、コレを言う時の拓海の表情が、実は結構お気に入りなのだ。

「おう。頼むな。」
 快く返事を返しつつ赤信号で車を停めると、啓介は煙草を1本取り出した。仕種で『吸っていいか?』と了承を取ってから、火を付ける。
窓を3分の1程開いて、外に煙を吐き出しながら、啓介は再びアクセルを踏みこんだ。

 スムーズにスタートして・・・でも、スピードは余り上げない。
いつもよりゆっくりと走るFDのスピードは、一緒に居たいと思う啓介の感情の表れであった。

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