【Flower】 P1 (啓X拓) 可愛い話を書きたいのー(>_<) 頑張るっす!
(SCENE 1 神様のきまぐれ)
───今日は2人にとって、とってもラッキーな1日・・・になるハズだった。
★☆★☆★
事の始まりは、ホントに偶然だった。
その日、啓介はヤボ用で渋川を通りかかった。帰りに拓海がバイトしてるスタンドに寄って、ちょっとくらい会ってこよう…とホンの少しの打算も合って、そのヤボ用を引き受けたのだ。
・・・あー…でも、アイツ、今日バイト出てんのかなぁ?
しまった、訊いとけばよかった…と、今更思うあたり、ちょっと押しが足りない啓介である。だが、・・・ま、いっか。行ったら解るしな…と、案外あっさり考えを切り替えて、啓介はご機嫌で愛車FDを走らせていた。
同じ頃、拓海は本屋へ向かってブラブラ歩いていた。
特にするコトもなくて、いつもならゴロゴロと過ごすとこだが、珍しく今は眠くない。
イツキでも誘ってゲーセンに…とも思ったが、あいにくイツキはバイトの日だ。
・・・一人でゲーセンは流石に虚しいしなー。本屋でも行くかぁ。
本屋なんて、拓海には余り縁がない場所だった。少なくとも、去年までは。
だが、近頃の拓海はちょっと違う。知りたいコトがいっぱい有るのだ。・・・車について色々と。
最近、やっと慣れてきた新しい車。外見は変わらずボロだけど、拓海にとってはどの車よりもイイ車だ。そう・・・今の自分たちは、来るべき未来にエンジンを暖めて待っているような、そんなカンジだった。
イツキや池谷、もっと身近には父親とか、車について知りたいコトを訊ける人はたくさん居る。これまで余り意識したコトなかったけれど、車に詳しい人間が自分の周りにはたくさん居る。
だけど、それだけじゃなくて。教えてもらうだけじゃなくて、自分でも知りたくて。
拓海は今までイツキのつきあい程度にしか訪れなかった本屋に、度々足を向けるようになっていた。
あんまり沢山の本は買えないし、買ってもどうせ読めないし覚えられない。だけど、車の用語くらい、もう少し解るようになりたい。もう少し、まともに話が出来るくらいには色々なことを知りたい。
そんなこんなで、ヒマを持て余した拓海は、最近の暇つぶしである本屋へ向けて足を進めていた。
───そして、偶然が訪れる。
2人とも、思ってもみなかったその偶然はきっと、運命の神様のきまぐれのようなモノだったのだろう。
★☆★☆★
2台の車を挟んで、啓介の駆るFDは信号待ちをしていた。止まってる車。エンジン音が鳴り響いているワケでもない。それなのに・・・
・・・ん?…あ、アレ!
いつもなら前しか見て渡らないのに、風に誘われるままに振り向いた拓海は、偶然その車を見つけた。持ち主をそのまま表現するかのような、強いインパクトのある車を。
『ち、信号かー』
別に急ぐ用でもない。でも、この信号待ちの分、拓海に会える時間が減ってしまう。
この時点で啓介は、会えないかもしれないという可能性を完全に忘れさっていた。
これは勘か、それともただ会えると信じたいだけか?
でも、何となく、今日は会えるという不思議な確信のようなモノが、啓介にはあった。何が何でも会ってやるという、意気込みなのかもしれないけれど・・・。
ホンのちょっとイラつきながら、啓介は前で光ってる赤信号を睨んでやろうと顔を上げた。睨んでも信号が変わるワケじゃないが、それでもしてしまうのは、まあ誰にも覚えのあることだろう。
その時、啓介は偶然気がついた。
その信号の下、見慣れた柔らかな茶色の髪が歩調に合わせてフワフワと撥ねているコトに。
啓介は思わず、目を見張った。…と同時に、拓海が啓介の方を振り向いた。
その瞬間、互いが互いに気づいたコトに気がついた。だって、2人、同じ顔をしてたから。目を開けて、口を『あ』の形に開いて・・・。
プップッーと、FDの前に止まってる車に鳴らされて、止まっていた2人の時間が再び動く。いつの間にか、信号は変わってしまっていたのだ。
慌てて走って横断歩道を渡り終えた拓海は、左に曲がるはずだった道を右に曲がった。その先の横道に、啓介のFDがスルリと飛び込んでくる。
「よう!藤原。」
口の端をニッと持ち上げる、らしい強気な笑顔と片手の合図で啓介は挨拶をした。でもその瞳は嬉しさにほんの少し細められていた。
「こん…ちわっす。」
いつもなら、啓介と会う時は『こんばんは』なので、ほんの一瞬どもって拓海は挨拶をした。間違えそうになった自分に恥ずかしそうに頬を染めるその姿に啓介は小さな笑みを誘われた。こういう時、特に、拓海を可愛いと思ってしまうのだ。
「めずらしいトコで会うな?」
啓介は声を掛けながら、ドアを開けて車を降りた。
「ソレはオレのセリフっすよ。」
拓海が返したその返事に、それもそーかと答えて、啓介はまた笑った。偶然の嬉しさに顔が綻ぶのを止められない。
「どっか行くのか?」
「いえ…バイトねーし、ヒマだから、本屋でも行こうかなーって。啓介さんは?」
走るにはまだ日が高いし、啓介がココに居ること自体が、拓海には不思議なカンジだった。
「おつかい。」
「・・・は?」
「この先まで、ちょっと届けモン。」
もしかして、自分に用かな?とほんの少し思ったので、その啓介の返答に拓海は内心ほんの少しガッカリした。そんな拓海をヨソに、啓介の言葉は続く。
「でも、良かったー。」
「・・・え?」
再び首を傾げて自分を見る拓海に、啓介はまた笑った。多分、この笑顔は無意識のモノ。無意識だからこそ1番強力な、そんな笑顔で、拓海は一瞬視線を奪われた。
「後でスタンド寄ろうと思ってたんだ。無駄足になるトコだったぜ。」
「・・・俺に何か用っすか?」
「別に。・・・お前の顔、見たかっただけ。」
啓介の言葉に、拓海はまた頬を染めた。拓海には恥ずかしくて言えないようなセリフを、啓介はいつもスゴクあっさりと言ってくる。でもイヤじゃない。言われると恥ずかしいけど、嬉しくて、何だか不思議な気持ちになるのだ。
染まった頬を見られまいと俯く拓海の頬を軽くポンポンを叩いて上向かせると、啓介は言葉を続けた。
「お前、ヒマなんだろ?つき合えよ。どっか飯でも食いに行こーぜ。」
「え?…で、でも・・・」
自分と違って、啓介は用事の最中ではなかっただろうか?拓海は疑問符を顔全体に浮かべた。
「届けモンはすぐ済むからさ、つき合えよ。」
もう1度誘われて、拓海は嬉しそうに笑って頷いた。
「よっし。んじゃ、横乗れよ。」
「はい。」
言われる前にもう、拓海の足は歩を進めていた。
拓海がシートベルトを付けたのを目で確認すると、啓介はFDを前に進める。
軽やかな音を立てて、2人を乗せた車はその場を走り去って行った。
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