【地上の星】 P3 (啓X拓)  さあ、砂吐く覚悟は出来たかしら?(笑)

(SCENE 2 温もりの場所)

 1番高い展望台の柵に足をかけて、うんと高い位置から拓海は地上を見下ろした。
家の灯りは消えかけてまばらであったが、街灯がそこかしこに光りを灯している。
 走っている車のランプは、まるで蛍か何かのようで、町の喧噪がまるでウソのような美しい夜景であった。

「マジ…キレイだなぁー…」
拓海は思わず感嘆の声をあげて、目を輝かせてその様子に見入っていた。

・・・気に入ったらしーな。
 夜景に目を奪われている拓海の嬉しそうな様子に、啓介は微笑んだ。
キツイ印象の瞳が、嬉しそうに細められる。
そうすると、彼のイメージはガラリと変わってしまう。
情の厚い、優しい部分が表に現れてくるのである。
今の啓介は、拓海が見ていないのが残念なくらいの表情だ。

「あれ?…啓介さんは登らないんですか?」
 柵から身を乗り出して地上を眺める拓海に、啓介は苦笑した。
「ああ…」
 小さく答えて、啓介はさりげなく拓海の体を支えるように手を回す。

 めずらしく、拓海はすぐに啓介の行動に気がついた。
そんなことしなくても大丈夫だから…と拓海が言おうとする前に、啓介は言葉を継ぎ足してくる。
「こっからでも十分キレイに見えるからな。」

 いつも、啓介はこうだ。ぶっきらぼうに見えて、意外と気が付く。
そして、こんなふうにさりげない優しさを与えてくれるのだ。
 出会った頃は反発ばかりしていたけど、啓介のこんな優しさに気付いた時、拓海は彼を見直して……そして、いつの間にかその気持ちが恋になっていた。

「気に入ったみたいだな。」
 ニッと啓介が笑みを見せた。
 きっとココは、彼のお気に入りの場所なんだろう。
少しずつ少しずつ、啓介はこうして自分の事を拓海に教えてくれるのだ。
拓海には、それがどんな些細な事でも、いつだってとても嬉しかった。

「もちろんですよ。…それに…」
 口元に笑みを刻んで、拓海は嬉しさを隠さない表情で啓介に返事を返す。
拓海が啓介の笑顔が好きのに負けないくらい、啓介も拓海のこの表情が大好きだ。

 言葉を止めて、また夜景を見つめる拓海の姿に啓介は見とれた。
風をはらんだ白い上着が、はためきながら拓海の体を包んでいる。
 その姿に、何故か拓海が遠い場所に居るような感じがして、啓介は淋しい気持ちになってしまった。───拓海は手を伸ばせば届く距離に、確かに居るのに。
 結局、啓介は自分以外の何かに拓海が心奪われているのはイヤなのである。
ワガママな気持ちだと解ってはいるけれど、だからと言って何とか出来るようならば、それはきっと恋じゃナイ。

「それに……何だよ?」
 無意識に、啓介は促す言葉を紡いでいた。意識はもちろん拓海に釘付けだ。
なんだか、目を離すと拓海を風に浚われてしまうかのような気分になっていて、とても目が離せない。
 柵の上に登ったままで、拓海はくるりと啓介に向き直った。
啓介の不安なんか露ほども感じずに、ニコニコと嬉しそうに笑っている。

「なんか…まるで星みたいだと思いません?」
「え…?!」
 照れくさそうに言う拓海のセリフの意味が掴めずに、啓介が拓海に聞き返す。
すると、拓海は子供が自分の宝物を紹介する時みたいに笑ったのだ。
「ほら!アレ…」
 言いながら、拓海が指さしたのは地上の方。
・・・ああ、そーいう事か。
 指差された場所に目をやって、啓介はすぐに拓海の言いたいことに気が付いた。

───地上にまたたく街の灯り。
 確かに、星に負けない輝きである。

「なるほどなぁ。…結構言うじゃねぇか、お前。」
 ククッと小さく啓介は笑った。
「何ですよぅ〜!……もー、笑わなくてもいいのに!!」
 折角の大発見を笑われた拓海は唇をとがらせて、ぷいっと横を向いてしまった。
「悪ィ。…んなつもりじゃねーって。」
 そんな様すら可愛くて、啓介は尚更笑みを深めながら拓海をなだめる。

 拓海はもう答えない。
ぷーっと頬を膨らましたまま、また地上を見下ろし始めた。
 啓介は苦笑して、そんな拓海を見つめていた。
こんなトコすら愛おしいと思うのだから、自分は相当重症である。

 又してもぶわっと強風が吹いて、拓海の白い上着が大きくはためく。
一瞬それが、まるで羽のように見えて、啓介は咄嗟に拓海の手を掴んだ。

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