【地上の星】 P2 (啓X拓)  さあ、砂吐く覚悟は出来たかしら?(笑)

 ある山の麓の駐車場に、啓介は車を止めた。
「着いたぜ。…こっからはアレに乗ってくからな。」
 啓介は自分もシートから降りて、ウインク付きで拓海にある場所を親指で示した。
拓海もナビシートを降りて、啓介の指差したほうに視線を向ける。

「何ですか?アレ?」
 見上げた先には、白い大きな建物。山の中に、其処だけ煌々と灯りがついている。
何だか、駅のような建物だ。

・・・こんな山ん中に?線路とか見当たらなかったしなー?
 コトリと首を傾げて不思議そうにしている拓海を、啓介は微笑いながら見ていた。

「……あ!何だ、あれの駅だったんだ。…えーっと、何だっけ。リフトだっけ?」
 山の上から四角い大きな箱のようなモノが降りてくる。
それを見て、やっと拓海は合点がいった。でも、どうにも咄嗟に名前が出てこない。
 う〜ん、う〜んと唸っている拓海を見て、啓介はぷっと吹き出した。
「リフトは違うだろーが…。アレはロープウェイだろ?」
 ウインク付きで、おどけたようにそう言う啓介に、拓海はムッとした顔をむけた。
こういう言動がまだまだ子供で、つい啓介は拓海をからかってしまう。
但し、余りやりすぎると地雷を踏んだみたいな大惨事になるので注意が必要だ。

「ちょっと言葉が出てこなかっただけですっ!」
「はいはい、解ってるって…。んな可愛いツラしてんじゃねーよ?」
 むーっと唇を尖らせて拗ねる拓海に、ちゅっと軽いキスを頬に落として、啓介はロープウェイの駅へと拓海を促した。
 不意打ちのキスに、拓海は頬を染めながらキョロキョロと周りを見回す。
どうやら誰にも気づかれなかったらしい。拓海はホッと息をついた。

・・・もー、人前でこーいうコトすんなっていっつも言ってんのに、どーしてするかな?この人は!

 歩きながら、拓海は自分より少し上にある啓介の顔を軽く睨んだ。
 シャープな輪郭とキツイ目、高い鼻、引き締まった口元。
明るく色を抜いて立たせた髪がとてもよく似合っている。
啓介は男の自分から見ても、本当にカッコイイ男だ。
 一見、強面に見えるその顔が、自分を見た時に嬉しそうに綻ぶ。
その時の啓介の表情を思い出してしまって、拓海はもう睨んでは居られなくなった。

「何だよ?じっと見て。…何?俺に見とれてんの?」
 建物の階段の所で拓海の視線に気づいた啓介は、からかうようにそう言った。
「そうだと言ったらどうします?」
 実は図星だが、そんな事は絶対ぜーったい、ナイショである。
「キスする。」
「じゃ、違います!」
 啓介の即答に、拓海も即答で返した。
ハハハッと啓介は声を上げて笑うと、建物のドアを開けて拓海に入るよう促した。

 降りてきたロープウェイから、たくさんの人が降りてくる。
もう時間も遅いので、今から登る人の方が少ないようだ。

「オレ、ロープウェイって初めて乗るかも…。」
 べたっと窓の所に貼り付いて、拓海は外を眺めた。
駅の灯りが、どんどん離れていく。
「外から見るよりも、ずっとスピード速いんですねー。」
 感心したように言う拓海に、啓介はまた吹き出した。
「何言ってんだか…あのハチロク乗ってるお前が言うかー?」
 確かに啓介の言うとおりである。
意外性で言えば、ロープウェイなど『秋名のハチロク』の比ではないだろう。
「オレ、自分が走ってるトコなんて外から見たことナイですから!」
ぷいっと顔を背ける拓海は、啓介の言葉に又拗ねてしまったようである。

・・・あーあ、しょーがねぇなぁ・・・コイツは。
 心の呟きを裏切って、啓介の顔は笑ってしまっている。
拗ねている時の拓海は、また格別に可愛いのだ。
好きな子ほど苛めてしまうバカヤロウの気持ちが、最近よく解ってしまう啓介だった。

 そうこうしている間に、ロープウェイは山頂に着いた。
拓海は待ちきれない子供のように、啓介を置いて飛び出してしまう。
だが、降りた先は、まだ建物の中だった。
景色がよく見える大きなガラス張りになっていて、ベンチなんかも置いてある。

「?」
 ここが展望台なのは解るが、建物の中から眺めるものなのだろうか?
アレ〜?と首を傾げていた拓海の頭に、啓介がポンと手を置いた。
「啓介さん。」
 頭に置かれた手に手を重ねて、拓海は啓介を見上げる。
どうやら、もう機嫌は直っているようだ。

「んなツラしなくても、ちゃんと外に出れるぞ?ホラ、こっち来な。」
 そう言って、啓介は細い階段へと拓海を連れていく。
そのまま、上へ登っていくと、外から吹き込む風が体に当たった。

 出口を出る時、思わぬ突風に見まわれて、拓海の体が傾いだ。
もちろん、後に続いた啓介がその体を支える。
「び…びっくりしたー。」
 呆然とした顔で拓海は呟いた。
「ココはいつも、風めちゃくちゃ強いからなー。大丈夫だったか?」
 拓海はコクリと啓介の言葉に頷いて、へへっと小さく笑うと、他の人を同じように広い展望台へと足を向けようとした。

 だが、くいっと啓介に腕を引かれて、足を止めてしまう。
「え?…啓介さん?」
驚いて見上げてくる拓海に、啓介はニッと笑いかけた。
「こっち。この上の絶対イイって。」

 自分たちが今居る場所より少し下に広い展望台がある。
望遠鏡とかが置いてある普通の展望台だ。
そして、啓介が示した場所にも小さな展望台がある。
こちらは望遠鏡もベンチもなくて、柵も綺麗に舗装されていないので、余り人気が無いのか誰も居ない。

「目は悪くねーだろ?こっちのが高くて絶景なんだ。」
 啓介の言葉に頷いた拓海は、逆に啓介の腕を引いて階段を上っていった。
さっき窓から見たあの景色を、早く山の上から眺めてみたかったのである。

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