【地上の星】 P1 (啓X拓) さあ、砂吐く覚悟は出来たかしら?(笑)
(SCENE 1 2人の約束 )
「なぁ、拓海。あのさ…」
いつもの週末。
一緒に走り終えた後、啓介が拓海に呼びかけた。
こうして週末に2人で過ごすのはいつもの事。
住んでる場所も遠いし、いつも時間もすれ違う。
彼らにとっては貴重な時間だ。
…だから、時々は朝まで一緒に居たりもする。
そうすると、次の日の朝が辛いのだが、解っていても一緒に居たい夜もあるのだ。
「何ですか?」
珍しく歯切れの悪い啓介に、拓海が首を傾げてみせる。
その瞬間、ふわりと拓海の髪が宙に舞って、啓介は思わず目を奪われた。
・・・まずっ、又キスしそーになったぜ…。
野外で不意打ちのキスをする度に、いつも拓海に殴られている啓介だ。
しかも、意識してではなくて無意識にしてしまってる辺り、困った男である。
コホンッとわざとらしく咳をした啓介に、拓海は尚更首を傾げた。
・・・何でコイツはいつも、こうカワイイかなー?…おっと、んな事考えてる場合じゃねぇ!
「あのさー…」
ドコ見てんだ、お前は…というほど明後日な方向を向きながら啓介は言葉を続ける。
「はい?」
「来週の日曜、配達休めねぇ?」
「はぁ?」
啓介の珍しい問いかけに、拓海は素っ頓狂な声を上げた。
拓海が責任感が強く、病気でもないのに簡単に配達をさぼるような人間でない事は、誰よりも啓介が知っているはずなのに。
「連れて行きたいトコあんだよ。…でも、ちょっと遠いしな。」
「帰って来れない程、遠いトコ行くんですか?」
「………」
拓海に至極まともに返されて、啓介は言葉に詰まった。
・・・やっぱり、解んねぇかなー、こいつには・・・
はぁーっと心の中で拓海に解らないように溜息をつきながら、啓介は言葉を補足する。
「だから……たまには朝までつき合えって言ってんだよ。ったく、お前、相変わらず鈍いなー。ちっとは何とかならねぇのかよ?」
「何とかしろって何を……?……あっ…そ、いう事…っすか?」
又しても、聞き返そうとして、不意に啓介の誘いの意味に気づいた拓海は真っ赤になってしまった。
「そーいう事だよ。やっと気づいたんか。お前は…」
はぁーっと啓介は今度はホントに溜息をついた。
拓海を誘うのはなかなか、骨がいる作業なのである。
「ハッキリ言わないから……そんなん、解んないっすよ。」
ぶつぶつ言う拓海は、啓介に「んじゃ、ハッキリ言ったら誘いに乗るか?お前?」
と返されて、言葉に詰まった。
───それはあんまり自信がない。
自分が非常に照れ屋である事は、拓海だってよく解っているのだ。
解っているからと言って、どうにかなるものでもないのだけれど。
「〜〜じゃあ、連れて行きたいトコってのは?…ウソなんですか?」
赤い顔で睨み付けてきた拓海に、啓介は首を振った。
「いや、それもホント。…でも俺、ご褒美も一緒に欲しいから…な。」
そう言って、ニヤリと笑う。
・・・全くこの人はぬけぬけと・・・!
どうにも、こういう面では拓海は啓介に遅れを取ってしまう。
かと言って、勝っても困るが、振り回されてるのはあまり面白くない。
客観的に見て、振り回されてるのは啓介の方だと思うのだが、拓海はそうは思っていないようである。
「う〜……じゃ、オレがご褒美あげる気にならなかったらどーするんですか?」
意趣返しのつもりで言った拓海の一言に、啓介はさらっと微笑した。
「そん時は、一緒に居てくれるだけでいいからさ…」
言いながら、啓介は拓海を軽く抱きしめる。
「来週……つき合えよ。」
耳元で吐息交じりに甘く囁かれて、拓海の体は啓介の腕の中で小さく震えた。
人前で何すんですか!と言いたいところだが、生憎今は自分たち2人しか居ない。
状況は完璧に啓介の味方である。
・・・ったく、この人はこーいうトコ、上手いっていうか狡いよなー。
「一応、オヤジに頼んでみますケド……」
そんな風に思いながらも、拓海は啓介の言葉に逆らわない。
行きたくないわけではないのだ。拓海だって啓介と一緒に居るのは楽しい。
あいまいな言い方をしつつも、既に頭の中では『来週の配達は風呂掃除で手を打ってもらおう』と算段をつけていた拓海であった。
運命の女神はどうやら啓介の味方であったらしい。
次の週の夜、拓海はしっかりFDのナビシートに納まっていた。
何処に連れていってくれるつもりなのかは知らないが、啓介はご機嫌である。
何も言わなくても、顔を見ればすぐに分かる。
拓海は窓の外を眺めてる振りをして、窓ガラスに映る彼の横顔を飽きるともなく眺めていた。
啓介の嬉しそうな表情は、実は拓海の1番のお気に入りである。
言ったら絶対つけあがるので、啓介にはナイショなのだ。
FDは、そのまま3時間ほど走り続けた。
窓に映る啓介の横顔や、その向こうに流れる見慣れない景色…そして、時々は外の空気を入れたりなんかして、拓海はこのドライブを楽しんでいた。
気づかないうちに、もう夜の10時を過ぎている。
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