【暁の協定2】P6 (涼X拓&啓X拓? )タイトルに偽り有り(笑)

 涼介はメンバーが持ってきた水を拓海の足にかけて、丁寧にハンカチで拭ってやった。
そして、啓介の持ってきた救急箱から必要な物を取り出すと、まるで魔法のように鮮やかな手並みでさっさと応急処置を終えてしまった。
さすが、未来のお医者様である。
「あ・・・ありがとうございます。」
立ち上がった涼介に、拓海は素直に礼を述べた。
「どういたしまして。でも、あんまりムリはするんじゃないぞ?」
軽く拓海の頭を撫でながら、涼介は微笑んだ。

「どうだ?様子は……」
 見守っていたメンバーの中から、史浩が声をかける。
「大したこと無い。だが、今日はこれで上がるぞ。」
涼介のこの指示で、周りのメンバーも後始末のため方々に散って行った。
 ぼーっと周りを見ていた拓海に啓介がゆっくりと近づく。
コツンと額を拓海に合わせて、小声で呟いた。
「ゴメンな、拓海。・・・オレ、すぐに気付いてやれなかった。」
 また兄に後れをとったと、啓介は少し悔しかった。
ちなみに、彼もこういう時だけ名前で呼ぶのだ。無意識に。
拓海はキョトンとして、すぐに顔を綻ばした。
「啓介さんも、有り難うございました。」
「え?」
「救急箱、持ってきてくれたじゃないですか。」
ね?と言うように、拓海は啓介の顔を覗き込んでくる。
「拓海・・・」
 そんな拓海を抱きしめようと手を伸ばした啓介を、又しても涼介の声が止める。
「啓介。」
ちっ。今度はホントに舌打ちした。
「何だよ、兄貴」
「何だよ、じゃない。さっさと帰るぞ。」
「藤原、どーすんだよ。又、送ってくか?」
 ケガをしたのは右足だ。とても車の運転などさせられない。
「バカ、このまま帰せるワケないだろう。」
「?んじゃ、どーすんだ?」
「今日はウチに泊める。足、ちゃんと手当しないとクセになるからな。」
 家に帰っても、拓海が自分でちゃんと手当するとはとても思えない。
その辺り、涼介はきちんと拓海の性格を見抜いていたのだ。

 この涼介の言葉に慌てたのは拓海の方だ。
ボーっと2人の話し合いを眺めていたのだが、イキナリ口を挟んだ。
「あ…あの、オレ、大丈夫です。自分で帰れます。…明日、配達あるし。」
高橋家に泊まるなんてトンデモナイ。ブンブンと首を振りながら言った拓海のこの言葉は、
「だめだ。」
2人ハモってあっさりと却下された。

「バカ言ってんな!その足で配達なんて、出来るワケねーだろーが!」
 啓介が拓海を説得しているそのスキに、涼介は携帯を取り出しさっさとボタンを押していた。
「こんばんは、高橋ですが…。実は拓海君にケガをさせてしまって、・・・いえ、大した事はないのですが、手当もしたいので今夜はウチでお預かりしようと・・・」
 どうやらTELの相手は文太らしい。
「り・・・涼介さんっ!・・・オヤジッ、オレ、帰るからっ・・・ん、ムーッ!」
 驚いた拓海は電話口の文太に届くよう大声で叫んでいたが、その声はすぐに妙な擬音に変わってしまった。───啓介の手が拓海の口をふさいだのだ。
「・・・では、そういう事ですので・・・失礼します。」
その間に涼介は素早くTELを切ってしまう。
 ───流石は高橋兄弟。相変わらず絶妙のコンビネーションである。
「むーむーー!」
 口を塞がれた拓海は、それでもまだ、むなしく叫んでいた。


(SCENE 4 ボーダーライン)

───そういうワケで高橋家である。

 拓海の意見は完全ムシで、結局お泊まりは決定した。
拓海は初め、かなりヘソを曲げていたのだが、2人の熱心な説得に結局あきらめる事にしたようだ。
 ちなみに、啓介の部屋は超汚いので、涼介の部屋に泊める事になった。
もちろん、啓介は最後まで駄々をこねていたのだが・・・。

「アニキ、フロ上がったぞ・・・と、コイツ、また寝てんのか?」
 フロから上がった啓介は、ソッコーで兄の部屋に向かった。その髪からは、まだ水滴が滴っている。
涼介は振り向いて、口元にそっと人差し指を立てた。
 啓介が覗き込むと、すっかりベッドに横になった拓海が丸まって眠っていた。
 涼介はその端に腰掛けて、拓海の頭を撫でながらそのあどけない寝顔を楽しんでいたのだが・・・、
「・・・じゃ、オレも入ってくるから。」
小声でそう言うと、ゆっくりとベッドから離れようとする。

「・・・う・・・ん・・」
 途端に、失った温もりを探すように拓海が手をあちこちに動かし始めた。
クスリと涼介は微笑んで、啓介に先程自分が座ってた場所を指で示す。
啓介はちゃっかり、その場所を陣取った。
ヒラヒラと兄に手を振ってみせる。早く行けという事なのだろう。
涼介は苦笑しつつ、部屋を出た。・・・少し惜しかったかなと思いながら。

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