【暁の協定2】P5 (涼X拓&啓X拓? )タイトルに偽り有り(笑)

「あの・・・」
 たぶん、女の友人なのだろう。申し訳なさそうな顔をしながら、ギャラリーの中から進み出てくる人物が居た。
そのまま、固まっている女に近寄り、涼介に捕らわれていない方の腕を掴む。
「すいません。この子・・・啓介さんのファンで・・・あの、その、最近ハチロクの子が来てから『前よりもっと自分たちの相手をしてくれなくなった』って怒っていたから・・・それで・・・。あの、ホントにご免なさい!」
 しどろもどろにそう言うと、勢い良く頭を下げた。

 涼介は呆れたとばかりに大きな溜息をついて、掴んでいた女の手を離した。
その腕はダランと下がってしまう。女はもう口も利けない人形のようだ。
「ファンだからとか、好きだからとかで、何をしても許される訳ではないだろう?それに、啓介の態度に腹がたつなら本人に怒ればいい。藤原は関係ないだろう?」
 至極、もっともな意見である。
「まぁ、そちらの彼女も、自分のした事くらい判っているだろうし、今日はもう帰るんだな。」
「おい、待てよ。アニキ・・・一言くらい謝らせたって・・」
ハッキリしないのはキライなんだ。悪いもんは悪いだろーが。
 異議を申し立てようとする啓介の腕を、又しても拓海が引っ張った。
「・・・イイです。オレ、・・・別に気にしてないし。それに、・・・女の子にぶつかられたくらいで倒れるなんて・・・オレってスゲー情けねーかも。」
 啓介の服の裾をぎゅっと掴みながら、拓海がそう言うので、
「・・・藤原。・・・まぁ、お前がいいってんなら・・・」
でも何だか納得いかねーって顔しながら、それでも啓介は引き下がった。
「あ…有り難うございます。もう二度とさせませんから。じゃ、失礼します。」
 ペコリと頭を下げて、友人は女を連れ去って行く。
女はもうぴくりともしない。諦めたのだろう。俯いて促されるまま歩いて行った。


「何で、お前、怒んねーんだよ!」
 やはりどうにも納得いかなくて、啓介は拓海に問いかける。
「・・・だって、別に大したことじゃないし・・・・それに・・・」
 そのまま、拓海は黙り込んでしまった。
そんな拓海を、啓介は強い視線で促す。
しょーがなく、拓海は、ぼそぼそと話しにくそうに続けた。
「・・・俺も、悪かったのかな?・・・なんて・・・」
 新参者のクセに確かに厚かましかったかも。
この赤城では、この2人はスーパースターなのだと、以前ココに連れてきてくれた先輩に教えてもらっていたのに。
 拓海は二人の優しさに甘えていた自分が、何だかとても恥ずかしかった。

「何で?どーしてお前が悪いんだよ!どう考えたってあっちが一方的に悪いゼ?」
 啓介はつい語調がキツクなってしまう。…が、涼介は黙って傍観していた。
ここは任せるつもりのようだ。
「・・・いや、その・・・厚かましかったかなぁって。俺、新入りなのに、いつも啓介さんや涼介さんに教えてもらってるし・・・その、2人はココじゃスーパースターだって以前聞いたことあったのに・・・」
 ボソボソと言い募る拓海の頬を、啓介は軽くつねりあげた。
「まーったく、いーかげんにしやがれ!…イイか?んな事ぁ誰かに指図されるもんじゃねーだろーが?オレは教えたいヤツにしか教えねぇし、走りたいヤツとしか走んねぇよ。…それ以上言ったら、マジで怒んぞ、オレは…」
 ぽかんと拓海は啓介を見つめる。
「大体、何だよスーパースターって。俺たちが赤城のスーパースターなら、お前は群馬のスーパースターだろーが。もっと堂々としてればイイんだよ。それに、お前にこのチームに入れっつったのも教えるっつったのも、アニキじゃねーか。」
 何でお前がんな事気にすんだよ、と呟きながら、意外なほど優しい腕で、啓介は拓海を抱き締めた。

「・・・ごめんな。・・・ヤな思い、させちまって・・・」
 自分が悪いワケじゃない。・・・でも、ここに居る誰かがコイツに謝るとしたら、それはやっぱり自分だろうと啓介は思ったのだ。
「そんな・・・啓介さんは全然悪くないですよ!…ご免なさい。オレ、つまんないコト言っちゃって・・・」
 慌てて拓海は首を振って啓介の言葉を否定し、そしてニコリと微笑いかけた。
・・・まるで花が綻ぶような、そんな微笑みだった。
「藤原・・・」
そのまま、啓介は拓海をもっと強く抱きしめようとしたのだが・・・
「その辺にしておけ。公衆の面前だぜ?」
 からかうように告げると、涼介が啓介と拓海を引き剥がした。
ちっ、やっぱジャマしやがったか!と、心で毒づく啓介であったが、拓海は真っ赤になって慌てて啓介から離れてしまう。
クスリと涼介は小さく笑うと、
「冗談だよ。」と困っている拓海の耳元でそう囁いた。

 そのまま、皆、とりあえずハチロクの方まで移動する。・・・が、その時、拓海の動きが少しおかしいことに涼介はすぐに気がついた。
「藤原。」
呼びかけて、振り向かせる。
「足、どうかしたのか?」
 その言葉に啓介は驚きながら拓海の足を眺め、涼介同様、その顔を見つめた。
「・・・え?・・な・・何でもナイです。」
 ブンブンと首を横に振りながら拓海はそう言うが、嘘がホントに下手である。
誰が見ても『何でもナイ』というその言葉が嘘である事は、バレバレだった。

 涼介はふぅっと大きく溜息をつくと、拓海の腰に腕を回してヒョイと片手でその体を抱えてしまった。
そのまま、ハチロクのボンネットに拓海を座らせると、両手を拓海の腿の横につく。
拓海が逃げられないようにしながら、顔を近づけて、真っ直ぐにその目を見つめ、
「本当に?」
 全てお見通しであるという顔で、涼介は拓海に詰め寄った。
こんな彼に逆らえる人がこの世に何人いるのだろう。
まったく、イイ男というのは得なものである。
 拓海はさっさと降参することにした。
「・・・右足首が、少し・・・。転んだ時、捻ったみたいで。」
 ぼそりと観念したようにそう告げた。

「ちくしょう、あの女・・・お前も何で早く言わねぇんだよ!」
 啓介は収まった怒りが再びあふれ出していた。そんな啓介を後目に、涼介は拓海の足下に跪くと
「少し触るぞ。じっとしてろよ。」
 そう言って、拓海の靴を脱がし手早く靴下も取ってしまった。
「え?・・っ、だ、大丈夫ですって。」
「大丈夫じゃない。・・・啓介、救急箱!」
「あ・・・ああ。」
 啓介は慌てて救急箱を取りに向かった。確かBOXカーに積んでいるハズだ。
「あ・・・あの、ホントに平気ですから。」
 掴まれた足を何とか引こうとする拓海に涼介の軽い叱咤が飛ぶ。
「拓海!」
 ただ静かに名前を呼ぶだけ。───でもこんな時だけ名前で呼ぶのだ。
ビクリと拓海は怯えたように小さく身を竦ませた。
涼介はクスリと笑うと、表情を和らげる。
「別に怒ってるワケじゃないぞ?・・・でも、大人しくしててくれないか?」
拓海はコクンと頷いた。優しいクセに強引な、この人に勝てた事など1度も無い。

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