【暁の協定2】P4 (涼X拓&啓X拓? )タイトルに偽り有り(笑)

「ケンタさん?・・・ケンタさん?」
「・・・え?・・うわ!」
 すっかり自分の世界に入っていたケンタは、拓海が近くにいる事に全然気づいていなかった。
声が聞こえたと思ったら、じーっと大きな瞳が、自分の顔を覗き込んでいたのだ。
そのケンタの大仰な反応に、拓海はビックリする。
・・・オレ、何か悪いコト、したんかな?
拓海は戸惑ったような顔をしてケンタを見つめた。
「あ・・・や・・その、ちょっと考え事してただけだっ!・・・」
 しどろもどろに、ケンタは言い訳のような言葉を口にする。
だが、拓海にはケンタが何やら怒っているように聞こえてしまった。
しゅんと悲しげに俯くと、
「・・・ごめんなさい。邪魔っすよね・・・オレ・・・」
そう言って、小走りにケンタから離れていってしまったのだ。

ボォン、ボォンブォー・・・───
 ややあって、啓介のFDが戻ってきた。
車を降りた啓介は、自分の方に近づいてくる拓海を目敏く見つける。
だが、何だか元気のなさそうなその様子に怪訝な顔をした。
 ・・・あれ?何だぁ?さっきは調子よさそうだったんだが・・・
上手く走れなかった時なんか、拓海はよくあんな風に落ち込むのだ。
 ・・・にしても、1人にすんなって言ってあったのに。しょーがねえな。
「おい、藤原!」
 啓介は軽く片手をあげて拓海に合図した。
とぼとぼ…と、やはり元気ない足取りで拓海が側に寄ってくる。
「?・・・何、しょぼくれてんだ?お前。」
 思わず笑みを漏らしながら、ぽんぽんと拓海の頭を軽く叩く。
すると、少しムッとして
「・・・別に・・・しょぼくれてなんていませんよ。」
思った通りの反応だ。それでも少し元気が出たらしい。
ムッとしたときに唇を尖らせる、拓海のこんな表情も啓介は大好きだった。
(だから、それは私ですぅ〜(>_<))

 そのまま、しばらく啓介と拓海は2人で楽しげに話をしていた。
たわいのないおしゃべりだ。---車のこと、天気のこと、友達の話なんかもする。
こんな時、他のメンバーは余り近づかない。
なぜなら、啓介が不機嫌になるからだ。この辺り、まだまだ人間が出来ていない。
よーするに、一人占めしたいのだ。この男は。
わがままな男だが、何故だか憎めない。----高橋啓介。何とも得な男である。

 ───しかし、啓介が居れば大丈夫だろうと、皆が思っていたその時に・・・・
 予期せぬトラブルが訪れたのである───


 ───ドンッ…といきなり強い衝撃を感じたと思ったら、えっ?と、思う間もなく拓海の体は傾いでいた。ドサッっとカッコ悪くも尻餅をついて転んでしまう。
「拓海?!」
「藤原!」
 見ると先程まで拓海がいた場所に、一人の女が立っていて、当の拓海は、驚いた顔でジッとその女を見上げていた。
 慌てたのは、周りの方だ。ワラワラと他のメンバーが集まってくる。
「何するんだよ、お前!」
 メンバーの一人が、なおも拓海に掴みかかろうとした女を拘束した。
以前からよく顔を見かける、啓介の熱心なファンの女だ。(ちなみに彼のキライなタイプだ)
 あろうことか、この女、イキナリ拓海に体当たりしてきたのである。
拓海はまだ呆然としたまま、その女を眺めていた。かなり困惑した表情だ。

「大丈夫か?藤原!」
 啓介が拓海を助け起こす。一瞬、拓海は顔をしかめたが、啓介は気づかなかった。
「・・・はあ。まぁ。」
 何とも気の抜けた返事である。ホントにオマエは当事者か?と思わずツッコミたくなる程だ。
「何よ!あんたなんかぁ・・・ちょっと運転ウマイからって、啓介さんにベタベタしないでよ!」
拘束されたまま、なおも女は言い募る。かなり興奮している様子だ。
「・・・んだとぅ!おい!ふざけんな!・・っと・・・藤原?」
 応戦して文句を言おうとした啓介だったが、拓海が腕をガシッと掴んで啓介を引き留める。
「おい、お前、ナニ勝手な事言ってんだ!」
 代わりに、女を拘束している男が怒鳴りつけた。呆然としていた周りのギャラリーもその言葉に同意したように、口々に「そうだそうだ」とか「何だよ、あの女」などと、ざわめき始めている。

 女は悔しそうに唇をかむと、勢いをつけて自分を拘束する腕を振り払う。
突然の動きだったので、その腕はあっさりと離れてしまった。
女はそのまま、拓海に向かって勢い良く腕を振り上げ、振り下ろした。
 ───だが、女の手は拓海には届かない。その手は白い腕に遮られていた。
「なんの騒ぎだ。」
静かな、でも怒りの込められた威圧的な声。───涼介である。
しーんと、辺りが静まり返り、その静けさが女の中から激情を奪い取っていった。

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