【暁の協定2】P3 (涼X拓&啓X拓?
)タイトルに偽り有り(笑)
(SCENE 3 予期せぬトラブル)
「ったく、今日もすっげぇギャラリーだなぁー。」
ケンタは、辺りを見回しながら、そう言った。
秋名のハチロクが赤城を訪れる日は、まるでバトル当日のような賑わいだ。
さもあらん。何度見ても、惚れ惚れするような走りっぷりなのだ。
いや、以前よりも実力はなお、増しているだろう。
彼の走りを脳裏に思い描くだけで、ゾクリと背中に戦慄が走る。
───アイツはまだ、成長途中なんだ。
走るごとに速さを増すハチロクにメンバー全員が驚いた。
アレだけの走りをするヤツだ。
若いながら、もう完成された走り屋なのだと、誰もが思っていた。
だが、実際の彼はまだまだ磨きどころを充分に持った原石だったのである。
しかも、本人は周りが自分の走りに驚いて居る事には、全く無頓着なのだ。
教えてもらった事をすぐに出来なかった時は、いつも悔しそうに車を降りる。
───だが、1回で出来ないのは当然なのだ。そんなのは当たり前だ。
誰も1度で上手く出来るハズもない。
・・・アイツ、一体どーいう性格してんだ?
ケンタにとって藤原拓海は、未だに理解できない人種であった。
でも、もう以前のようにつっかかる気は起こらない。
───1度でもアイツと走れば、誰もがあの走りの虜になっちまう。
以前、苦笑しながら、でもどこか嬉しそうに啓介が言ったセリフだ。
その啓介の眼差しは、自分たちが啓介たちを見る目にとてもよく似たものだった。
でも、ケンタには判らなかった。自分達の憧れの兄弟が、ハチロクなんてボロ車に負けるなんて、絶対コースのせいだと無理矢理思いこんでいた。
でも・・・今ならばケンタにも判る。
負けても腹が立たないワケじゃない。でも、後味が妙にスッキリしているのだ。
───そして、今ではその走りに目を奪われている自分がここに居る・・・
ブォォー
高い音を響かせて、ハチロクが戻ってきた。
周りのギャラリーから歓声が上がり、口々に『ハチロク』の名を叫んでいる。
(ちなみの今でも拓海の通り名は『秋名のハチロク』だ。何となく彼にはコレが1番似合っているからだろうか?)
カチャリとドアを開けて、拓海が車から降り立つ。
どうやら満足出来る走りだったらしい。表情が嬉しそうだ。
バタバタと、まるで囲むようにメンバーが拓海の周りに集まった。
その様子にケンタは溜息をついていた。
───今日のアレ、一体どーいうイミなんだろう?
ケンタは、練習走行前の涼介達との会話を思い出していた。
本日の練習走行には、一部メンバーのみ先に集合が掛けられた。
主に、『秋名のハチロク』のメンテを担当する者と若手の一部だ。
「悪いな。早めに集まってもらって・・・」
メンバーが集まってすぐ、TOPの2人は顔を表した。
「少し皆に聞きたいことがあるんだ。最近こっちに参加してもらってる藤原だけど・・・どうだ?」
集まったメンバーは皆、その言葉に首を傾げる。
「どうって?」
代表して、以前はFCのメンテに当たっており、現在はハチロク担当のチーフで、涼介の古い友人でもある男が問い返す。
「言葉通りのイミだ。あいつの事をどう思う?」
「どうって言われても・・・なぁ。いーんじゃない?才能も実力も想像以上だし。
心配してた性格も、つるんでみると結構イイ感じだぜ?俺達はスゴイ気に入っているけど・・・なぁ、皆。」
周りのメンバーに同意を求める様に首を回した。おのおの、首を縦に振る。
「そうか…」
何故だか、涼介は小さく溜息をついて、隣の啓介と視線を交えた。
「?…おい、何だよ。アイツがどうかしたのか?」
まさか、もう来なくなるってんじゃ・・・・
「いや。・・・じゃあ、ギャラリー達の様子はどうだ?特にアイツに対して。」
相変わらず涼介の質問は意味不明だ。…が、とりあえず皆、口々に答え始める。
「そりゃあもう、人気ありますよ。ギャラリーすっげぇ増えてますし。」
「女の子は相変わらずお二人のファンですけど、男はかなりハチロク寄りなんじゃないですかね?」
「そーだよな。今まではいっつも遠巻きに見てるダケだったけど、最近は近くまで寄って来てるし。」
「あ、それ、アイツに話かけたそーにしてるヤツ、多いよなぁ。」
「そーそー。でも、藤原のヤツ、全然気づいてねーの!笑っちまうよーアレは!」
「ボーッとしてんもんなぁ。視線合わなくて、何となく話しかけにくいんだよな。
俺達も初めはそーだったもんなぁ。」
「でも、イイヤツなのになー、藤原。一生懸命だし、速いの鼻にかけねーし、それに年相応なトコあって可愛いしなぁ。」
うんうんと、この辺りで全員の意見が一致したようだ。
「そうか。」
涼介は、今度は少し眉を寄せて難しい顔をする。啓介も考え込んでる様子だ。
「?何だよ。何か気に入んない事でもあんのか?」
その言葉に、まさか・・・と涼介は苦笑した。
拓海を気に入って、このプロジェクトに引き込んだのは他の誰でもなく自分なのに。
「皆がアイツを気に入ってる事は良く分かった。それなら良いんだ。…ただ、ギャラリーはまずい。なるべく藤原には近寄らせないでくれ。アイツはまだこの世界の事も車のこともよく判ってない。なるべく選別した情報を与えて、まっすぐ育ててやりたい。やっかみ半分なヤツの言葉で混乱させたくないんだ。」
涼介の言葉に啓介が続ける。
「とにかく、俺達が側に居ない時は特に注意して、アイツを1人にするなよ。」
「・・・ああ、それはイイけど・・・」
メンバーは面食らっていたが、とりあえずOKの返事を返した。
今まで、こんな事に口出ししたことのない2人が一体どうしたのか?
やはり『秋名のハチロク』は特別なんだろうか?
「頼んだぞ。じゃ、これで解散してくれ。」
そう言うと、2人はくるりと背を向けた。
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