【暁の協定2】P2 (涼X拓&啓X拓? )タイトルに偽り有り(笑)

(SCENE 2 文太)
 そんなこんなで、場所は秋名。『藤原豆腐店』である。

ブォン・・・
 聞き慣れたハチロクのエンジン音に、文太は新聞から顔を上げた。
 ...あぁ?何かもう1台、オマケが付いてんな?

 いつもなら、拓海を出迎えに出たりしないのだが、おかしいと思った文太はゆっくりと外に出た。
すると其処には、何やら派手な2人に送られてきた、すっかり寝こけた息子が居たのだ。

「・・・あー、悪かったなぁ。あんたら。……ったく、コイツは…。眠てーんなら峠なんか行くんじゃねぇよ。」
 あまり申し訳なさそうな口調でそう言うと、クソガキが・・・などと、ブツブツ言いつつ文太は拓海を叩き起こそうとした。───が、その手は啓介が遮る。

「こんばんは。こちらこそ、拓海君を連れ出してしまって・・・申し訳ない。ずいぶん、疲れたようなので、こちらから送ると申し出たんです。気にしないで下さい。」
 さりげなく背後に拓海と啓介をかばいつつ、涼介は、よどみなく挨拶を返した。
「部屋までコイツに運ばせますので・・・」
 言外に、起こすなと言うかの口調で、涼介は微笑を浮かべながら、既に拓海を抱き上げている啓介を指さした。

 そんな涼介を、有るか無いか判らないような目で、読めない顔して眺めた文太は、
「悪いな・・・んじゃ、コイツの部屋、ソコだから。適当に置いて来てくれや。」
クイっと首をひねらせて、拓海の部屋を指し示した。
「・・・んじゃ、お邪魔します。」
ペコリと小さく頭を下げて、文太の横を通り過ぎると、啓介はなるべく揺らさないよう気を配りながら、ゆっくりと拓海を運んでいった。

「───ずいぶん、大事にしてくれてんだな。」
残った涼介にボソリと文太が話しかける。
「もちろん、───ムリを頼んで、付き合ってもらってるんですから。」
フッと文太は、不意に笑った。
「別にアイツはムリしてねーよ?」
ホントは判ってんだろ?という顔で微笑う文太に、涼介も微笑を返す。
「アイツは頑固でわがままなトコあるからな。イヤなコトをムリにやったり絶対しねぇ。───まだまだ、ガキと同じだ。」
ククッと文太は苦笑する。
「そちらこそ・・・随分可愛がっていらっしゃるようですね?」
涼介のその言葉に、文太はニヤリと笑っただけだった。
───つまり、それが返事、なのである。

「…ホントは、オレは、まだアイツを峠へやるつもりは無かったんだがな…」
 イキナリ文太はそんな事を言う。
これには、涼介も少し意外そうな顔をした。
今まで何度か文太とは顔を合わせているが、こんな話をするのは初めてだ。

「それはまた・・・意外なお言葉ですね?何故ですか?あんなに速いのに。」
素直に尋ねてみる。いまいちクセのありそうなこのオヤジは答えるだろうか?
「んー、何でってそりゃ・・・まぁ、ガキだから・・・てトコか?確かに拓海は速いけど、車の運転以外は全然、成長してねーからなぁ。」
 ますます、わからない。どういうイミなのか?
涼介は視線で文太の言葉の先を促した。
文太は、この辺で話を折るつもりだったので少し困ったような顔をしたが、仕方なく先を続けて話しはじめた。
「うー、まぁ、その・・・アイツは何でだか、よく人に絡まれるタチでな。特に、走り屋なんて我の強いヤツが多いし、拓海もキレッと何しでかすかわからんしな。それに・・・」
 少し言葉を探すようにしながら、言いごもる。
「アイツ、普段は全然、可愛げねーけど、懐きゃ、まぁそうでもないだろう?そういうトコが、ある種の男をそそるっていうのか・・・。警戒心解いちまうと、ホイホイ付いて行くんで昔っからちょっと…イロイロあったんだよなぁ。───ま、アレでかなり喧嘩も強いからそんなに心配してねーんだがな。」

 これには涼介も目を見張った。
───つまり、要約すると彼は息子が襲われる心配をしているワケだ。

 ・・・でも、考えてみると、何となく文太の言うことは理解できる。
何しろ、人の好みにはウルサイ自分達ですら、こうなのだ。この先、もっと大勢アイツを気に入るヤツは出てくるだろう。・・・だが、その中の理性を無くしたヤツが何するかなんて……判ったモノじゃない。

 涼介の視線に、文太は居心地が悪い思いをしていた。
・・・やっぱ、言うんじゃなかったかな。
我ながらバカな事を言っていると文太も思っている。しかし幾つになっても、子供は子供。
───文太にとっては大事な息子なのだ。
文太は照れ隠しのように、ポリポリと頬をかいた。
───照れた時のこんな仕草は拓海にそっくりだ。

「お話は良く判りました。俺達も気を付けるようにしますので───」
安心して任せて下さい・・・と言うように、涼介は力強い笑みを向ける。
拓海の事を走り屋として育てる自信も、そして守れる自信も、自分には
確かにあるから・・・
───ここに、涼介と文太の「暁の協定」が生まれた。
(すげ、ムリヤリやん>私。しかも夜やん・・・てツッコマないでぇー)

 涼介のその言葉に、文太は満足気に笑みを返した。
「そうか・・・まぁ、よろしく頼むわ。」

「・・・?何の話?」
 いつの間にか、戻って来ていた啓介が、兄に向かって問いかける。
「ああ、啓介・・・・後で話すよ。・・・それじゃ、藤原さん、どうも夜分に、お邪魔しました。」
啓介の頭もついでに下げさせながら、涼介は文太に挨拶をした。
「ああ・・・ありがとさん。気を付けてな。」

 社交辞令でもないその礼に涼介は微笑する。
どうやら、何とか、自分達は『合格』をもらえたようだ。

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