TAS5630 Amprefire Fix & Modification

TAS5630 Class-D Amplifier Fix & Modification

TAS5630 中華アンプの修理と改造の記録


Introduction:

デスクトップ用に2.1chのスピーカシステムを自作し駆動用にTPA3116D2 2.1chアンプを使っているが、このTPA3611D2は保護回路が充実しているためにスピーカー側はもう少しパワーを入れられそうなのに思ったより早くリミッターやミュートが効いてしまう。 そこでもう少し出力に余裕があるアンプが欲しくなったのでAli Expressで物色してみた、まだ新しいTPA3255を使った物はやや値段が高かくて手頃なケース入りの物も見つからなかった、やむなく随分とこなれてきた感のあるTAS5630Bを使用したものを発注してみた。 2週間ほどで届いたアンプを最初はDC19Vで動作する事を確認し、次にDC48Vで駆動し大パワーを思いっ切り出そうとした途端にプチッと音が途切れて動作インジケータLEDが消え、それっきり電源も入らず2度と音が出ない状態になってしまった。 要するに故障してしまった訳であるが、この時はうっかり片chだけで2Ω負荷状態で思っきり大音量を出そうとしたのが原因のようだ。 公称300W+300W(歪10%時)を謳うBTL出力モードの場合、負荷インピーダンス下限は4Ωまでなのに2Ωのサブウーハーを接続したために大電流が流れて壊れてしまったものと考えられるが、果たしてTIのカタログに謳ってある保護機能はアテにならないものなのか・・・?
 このアンプ基板にはパワー部のB電源とは別にIC内部のアナログとロジック部動作のためのGVDD系+12Vの安定化電源回路が搭載されているが、故障したICはこのGVDDピンがGNDとショートした状態になってしまっていた、そういう訳でアンプが届いたのも早々に修理するハメになってしまった(汗)。 釈然としないアンプ基板がもう一枚買えそうなTAS5630Bの値段を呪いつつも石を交換したらまた動作するようになった。


Impression of Stock Condition

最初にテストした際に、ボリューム位置によっては左chから異常発振っぽい付帯音がする事があった事を思い出したので、気になってオシロで無負荷状態の出力波形を観測すると案の定、4系統あるパワー段のアンプAだけが激しくリンギングするのが観測された、一瞬石の不良かなと思ったが基板を調べてみたら、なんと出力端にあるべき発振止めのCR直列ペアが見当たらない! と思って基板の裏側を見たら思いっきりパターンを引き延ばした先っぽにスナバーの回路が載ってた。

これでは効果が大きく損なわれる可能性が高いしかなり高い高周波域でリンギングが発生しやすいと思われる、構成する抵抗値もTIリファレンスが3.3Ωに対して4.7Ωだし、スピーカーの代わりに負荷抵抗を繋ぐとリンギングは収まるので、この周辺が原因なのははぼ間違いないだろう。またLCで構成されるLPFのコンデンサー容量もリファレンスの0.68uFに対して1uFとやや大きな物が付いているが、こちらはインダクターのインダクタンスを測って見ないとなんとも言えない。さらに調べて見ると一番効きそうなPVDD電源ピン至近のパスコンがTIリファレンス回路の2.2uFからなんと0.1uFに置き換えられていた。 これでは高速でハーフブリッジに大電流がガンガン流れる電源の変動を抑えきれないだろう? 中華アンプによくある無謀なコストダウンの一例にすぎないだろうが、「またか」と思える程に慣れっこになってしまった自分にやや呆れる・・・
 
 回路設計以上に呆れた事が一つ、電源オンで赤色のLEDが点灯するのだが、基板からこのLEDへ行く配線が基板を固定する穴を貫通していて四角い基板を残り3点でネジ止め、さらに基板を固定するためのスタッドは付いたままなので配線が基板とスタッドに挟まれた状態で、既に配線の被覆がダメージを受けておりこのまま放置すればいずれ被覆が破れ露出した芯線が金属製のスタッドに接触するのが必至という実に無神経な造りにはもう言葉を失ってしまう・・・・


Board Modification


発振止めに関してはTI社のデータシートに載っている回路図通りのものを基板の裏側に最短距離で付けるしかなさそうである。

修理のためにTIのデーターシートを読んでいる時に気が付いたのだが、アンプ出力がクリップした際にオープンドレイン形式でGNDに落ちるインジケーター出力ピン(pin18)とシャットダウン動作の際に同様な動作をするSD出力ピン(pin15)があることに気が付いた。 そこで元々付いている赤LED(オンボード+15V電源と連動して光るだけ)を取り外し、代わりにRGBフルカラーLEDを搭載した。LEDの色による順方向電圧の違いを巧みに利用する事で排他駆動の回路なしで動作状態に応じた色に切り替わったように点灯する。(実は順方向電圧が高いものから順次消灯しているだけ・・・)
青:DC+15V電源が動作している(デフォルト動作)
緑:SD状態(未確認)
赤:出力がクリップすると点灯

LED Status (Clip / Shutdown / Power-On) Indicator Schematic:

元々が大出力なアンプなので少々の音量でそう簡単にはクリップしないが、この改造をする事で20V程度の低い電源で動作させたときには、出力が歪むとLEDが赤く光るため歪んだのが一目瞭然でレベメーター程ではないにせよ動作状態を監視するのに結構重宝する。 フルカラーLED一個だけなので、この機能は外観を追加工する事なしに付加できた。

Reverse Voltage Protection Diode

効果の確認は困難なので気休めだが、前回壊れた時にTAS5630Bの+12V系の電源がIC内部でショートして壊れていたので、IC内部で+B電源側へ逆流したのかもしれないと考えてクラスDアンプの電源電圧が+12V系電源の電圧を大きく下回らないように保護用のショットキーダイオードをSMPSの入力と出力間に入れられるだけ全部追加した、
耐圧が30Vのものしか手持ちが無かったのでハイサイド側は2本直列にした、2本シリーズの方の接続は+48V側がカソード、もう一本はSMPS出力とGND間に入れた、これらのダイオードは逆バイアスされるだけなので通常の動作中は何の意味もないダイオードではある・・・・


TAS5630B chip burned again...

(Dec.3rd,2017追記)
石も交換し、GVDDに逆流防止のダイオードも追加したので今度こそ大丈夫だろうと思い、爆音で鳴らそうと再挑戦してみたが また同様の現象が起きてTAS5630Bチップが飛んでしまった! 今回は負荷インピーダンスの問題はない事が判っているので、根本の原因を調べて対策しないと何個スペアを用意してもダメだと感じた。 先例はないかとググッてみるも日本語のサイトには全く参考になる情報が見つからなかったのでTI社のTechフォーラムや海外のDIY掲示板を徘徊して見ると、同じようにGVDDピンがGNDとショートしてしまう状態で壊れる現象が起きているようだ。 大概のケースでは自作の基板を使っていてTIのリファレンスデザインの基板とレイアウトが異なるために、パターンのインダクタンス分が原因でSP出力ラインがリンギングして電源電圧の範囲を超えたかGND電位を下回った瞬間に飛んでしまうのではないか?という結論で終わっているケースが殆どだった。 種々の保護機能があるはずのこの石であるが保護動作に入る間も無く壊れてしまうのだからタチが悪い、そうそう何度も飛ばしながら対策を検討する財力も根性もないので、効果がありそうな対策は全て実施しようと思う。 自分でも確かに出力がリンギングする事があるのを壊れる前に目撃したので、パラスチック発振対策と、出力へのリンギングによるキックバック電圧への対策を中心に考える事にする、考えている対策は以下の内容である。

【Dec. 8th, 2017追記】

上記の改造メニューを全部実施して、今度こそ大丈夫だろうと意気揚々と電源を入れたら、ボリュームを絞っているのに右chから明らかに発振している時に聞こえるサーという不快なノイズが聞こえてきた、ボリュームを絞り切っているのにノイズは止まらない、しかしボリュームを上げると一応音は出た。Analog Discovery2でスペアナを動作させてチェックしてみたが、発振しているスペクトラムなのかクロック漏れなのかの区別が困難で問題箇所を特定できなかったので、初段の差動信号を作っているOPアンプを引き抜いてみたら何とノイズが止まる。スイープサイン波を入れるとノイズ混じりに普通に音は出る、ならばとダミーロード負荷にして出力を上げていくと測定途中の大した出力パワーでもないところで「パチン」という音と共にまたTAS5630Bが飛んでしまった。
「またか・・・」と嘆きつつ、割れたICパッケージや溶けて一部無くなってしまったパターンを銅箔テープとハンダで何とかごまかしながらも何とか石を交換した。 追加した部品とヒートシンクのクリアランスが殆ど無かったので接触してしまった可能性もあるかもしれないと考え、今回はカプトンテープを間に貼って絶縁を確保するように努めた。 今回のトラブルは激しく電流が流れてICピンの一部が無くなり、基板のパターンも溶けて無くなってしまう程の深刻な事態となってしまったので、ブリッジ出力に付けたショットキーダイオードは余りに激しくリンギングしてしまうとパルス状の大電流が流れる可能性があるため、本来の保護目的とは別の問題を引き起こす可能性もあると考え直し削除する事にした。追加した部品がヒートシンクと接触したのかどうかは別として、このAD827というオペアンプはスルー・レート: 300 V/µs、500 Ω の負荷に対して 3,500 V/V のオープン・ループ・ゲインを持つという高速で強力な石には違いないが、とにかくこのOpアンプ段で発振が起きているのは間違いないので、回路を追うとRCAピンの入力端子からボリュームを経由してきたオーディオ信号は非反転アンプで少々増幅された後にゲイン-1倍の反転アンプで逆相の信号を作って正負それぞれをBTLアンプの入力信号に入れている。 AD827というUnity Gain Bandwithが50MHzとかなり高速なオペアンプを使ってあるのだが、高域のロールオフや位相補償の回路は特に何も見当たらない、しかし現に非反転アンプ側のRchが発振しているので、このままでは使い物ならないと判断、ユニティゲイン安定という言葉を信用し、非反転アンプ側を単なるボルテージフォロワーに改造してみたら発振ノイズが止まって普通のS/Nになった。 これなら48V電源にしても残留ノイズも聞こえないしボリュームを最大まで上げればクリップするところまでいくので、この改造でもゲイン不足になる問題はなさそうだ。 実用品としてノイズも出なくなり、音的には「普通に動作する」レベルになったため、48V電源でしばらく鳴らしていたら突然LEDが消えて断続的に動作が途切れる現象を繰り返す状態になってしまった。 調べてみるとB電源の48Vから15Vを作っているSMPSがものすごく熱くなっておりGVDD系の電源がサーマルシャットダウン動作をしていた、ファンで冷やすと途切れる周期が長くなったのでオーバーヒートが原因なのは間違いない。 大きな音で鳴らしていた訳でもなくTAS5630Bが最初のトラブルと同じような壊れ方をしない限り、それほどの大電流が流れ続けているとは考えづらいし、SMPSは効率も88%とそれ程低くもない筈なので何らかの設計上の問題があるのか、使用部品の選択にマズい可能性がありそうな気がしている。 冷却ファンで強制空冷すると途切れずに鳴り続けるが、現実的に48V電源動作でこれじゃ使えないよと課題がまた一つ増えてしまったようだ・・・・


Consideration of GVDD Supply Circuit Design

50V電源からTL2575HV-15という降圧型BUCKレギュレーターを使ってDC15Vを生成し、さらにそこから3端子レギュレーターでDC12Vに落としてGVDD電源をTAS5630Bに供給しているのだが、50V電源で動作させた時にサーマルシャットダウンを起こしてしまう程に発熱が多く、設計に問題がないか精査してみることにする。 まずはTI社のリファレンスデザインTAS5630PHD2EVMの回路図から該当する部分を引用する。
(TAS5630Bデーターシートから引用)

購入したアンプの基板は、ほぼこの回路を踏襲しており、ここに相当する実際の基板の画像がこれ
一見同じように見えるが、L15に相当するインダクターの値がTI社のリファレンスデザインでは1mH = 1000uH なのに対して、実際の基板では「102」と表示されている丸い部品で確かに表示上は1mHのインダクタンスの部品が使われている。

重要な部品なので、今度は同じくTI社のTL2575HVのデーターシートを紐解いてみると以下のようなインダクター選択のガイドラインが示されていた。
(Graph from TL2575 Data Sheet SLVS638C – JANUARY 2006 – REVISED NOVEMBER 2014)
このグラフで実際の動作条件を当てはめてみるとInput Voltageは約50V、負荷電流はデュアルオペアンプ2個の30mA程度とTAS5630BのGVDDを作る3端子へ流れる電流を合わせたものになる筈だから、多く見積もってもせいぜい0.2A程度ではないかと推測すると、ほぼグラフの左上隅に近いところが動作点であろうと推測される、この領域で推奨されているインダクタンスはH2200 = 2200uH = 2.2mH (222表示)であり、この基板では実に半分しかインダクタンスが無い部品が使われている事になる、このインダクタンス不足か許容電流の不足によるコアの磁気飽和が発熱が多い原因ではないかと考え部品を交換してみることにする。

交換前に上のTL2575HV-15電源回路図でL15の左側1と右側2で波形を測定してみて驚いた・・・
オレンジ色のch1がTL2575HV-15側で、その裏に隠れてて見にくいが青色のch2がC86のある平滑回路側なのだが、本来は電源電圧の48V付近とGNDを間をスイッチングして行ったりきたりしている筈なのにインダクターを通る前から15Vに降圧してしまっており、申し訳程度にスイッチング動作の名残のスパイクが見えるというか、ほとんどスイッチングしていない!、これじゃまるでTL2575HV-15がシリーズレギュレーターになってしまっている、だからハンパなく熱い訳だ・・・・

基板に付いていたのは小さくて非常に細い巻線の小型インダクターだったので、許容電流が大きくてインダクタンスも多い手持ちのインダクターと交換してみた、交換後に同じ箇所を測定したのが次の波形。
大違いである! うんうん、SMPSはこれでなきゃダメだよね〜、という位にごく普通の波形になった。めでたくTL2575HV-15が50kHz付近でスイッチング動作するようになったので、当然ながらこのGVDD電源系からの発熱は激減したのであった。


GVDD電源の過剰な発熱問題はクリアできたので、アンプ全体ではどの程度の発熱があるのか把握するために電源電圧を変えながらセット全体の消費電流を測定してみた。
Supply Voltage Current Power Consumption Comment
48V 0.20A 10Watts このヒートシンクのサイズでは自然空冷は明らかに無理だと断言できる程に発熱する。
40V 0.15A 6Watts フタを閉めたらかなり苦しいと思われるぐらいの量の発熱があり長くは触っていられない位。
34V 0.12A 4Watts 現実としては、このあたりが安心して使える限界だと思う
19V  0.13A 2.4Watts 推奨電圧以下だが動作はする、当然だがこの程度の発熱量なら全く問題ない。
 
 
中華アンプでは毎度の事ではあるが、設計に色々な問題を抱えたアンプ基板であった事は理解してもらえたと思うが、問題の大半をクリアできたと思う。 GVDD電源からの発熱量は減ったものの48V動作ではTAS5630Bのヒートシンクが過熱するので、しばらく空冷ファンを付けて使ってみたが、ファンの騒音がストレスに感じて許容できないので発熱量を減らすために普段は電源電圧を下げて使用している。



Sound Impressions & Comments

スイッチング動作が約400kHzと今となってはやや遅めのTAS5630Bであるが、大きく不満を感じる事もなかったが特に高音質とも感じなかった。電源電圧が+48Vと高く余裕あるヘッドルームのためか曲中のピークでも強弱のアクセントやイントネーションが崩れない音質は好感が持てた。 一方で繊細な表現や余韻の消えていく感じのスムースさ等の表現はどうも苦手のように感じた。 位相反転で使われているオペアンプAD827固有の音なのかもしれないので後日交換してどうなのか確かめてみようと思う。「安い、出力がデカい、回路が簡単」といった感じのTAS5630Bに対して、次世代でほぼ同じぐらいの出力のTPA3255ならば600kHzまでスイッチング周波数が上がるのでもっと広い再生帯域と高速なスイッチング動作ができる筈なのでTAS5630Bよりも繊細な音が聴けるのかどうか興味は尽きない。


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