Destop 2.1 channel Amprefire Modification
XH-M139 TPA3116D2 2.1ch Amplifier Modification
TPA3116D2 中華2.1chアンプの解析と改造のページ
Introduction:
デスクトップ用に2.1chのスピーカシステムを自作 したが駆動するアンプとチャンネルデバイダーが仮で拵えたままであった、3D駆動のためにには自作のチャンデバ基板+Tripath TA2020Aを2個使いとそれなりにスペースを必要で、チャンデバ基板は裸のままで危なっかしいし、自宅で鳴らすには必要十分だけどもう少しだけパワーが欲しいと思っていた。
そんな状況でアマゾンを徘徊していたら何と980円で2.1chのアンプ基板が売ってたのでよく考えもせずにポチってしまったのがこのプロジェクトの始まりであった・・・・
Impression of Stock Condition
二週間近くかかって中国から届いた基板はNE5532が2個乗ってたり、トロイダルコアのインダクターを使ったりと一見それなりに仕上がっているように見えたが、詳細にチェックしていくと実は問題だらけなのであった。
(Ali Expressから画像を引用)
まず、何のミューティング回路も搭載していないので電源オンとオフの際に盛大なポップスノイズが出る! ほぼ電源電圧がそのままSPに掛かるのでヤワなSPなら簡単に燃えてしまうだろう、TPA3116D2のミュート端子と+電源の間にコンデンサーを入れて簡易的に対策してみたが、電源オンの時は大丈夫でも電源オフ時はまだ盛大に出るままだったので根本的な対策をする必要を感じた。 またTIのデータシートに乗ってる参考回路では出力最終段のLCフィルターがサブ側は10uH+1uF、サテライト側が10uH+0.68uFなのに対して実測47.5uHのトロイダルインダクタ+1uFと明らかに定数が違っているのが判った。 さらに、販売しているページにはスイッチング周波数1.2MHzと誇らしげに書いてあるが、出力のPWM信号の周波数を測ってみたら約400kHzと明らかに間違っている。 これは徹底的に調べないとだめ ダ メな製品である可能性があると判断し、基板から起こしてみたのが以下の回路図である。
Original Schematic Circuit Diagram
XH-M139 Pre-Amp Stage Schematic:
2.1chアンプと謳っているが、実態はステレオアンプ+LPF付きモノアンプという構成であった。 動作モードも400kHzだったし、やはり何のミューテイング回路も無かった・・・。 サテライト側はボリュームを2段通っているし、サブウーハー側のボリュームに至っては最大にすると前段のNE5532の出力どうしがショートするし、LPFのカットオフ周波数も変化してしまうというとんでもない設計であった。 最終段のLCフィルターも低インピーダンス負荷では明らかにカットオフ周波数が可聴帯域を割り込んでいるし、何とも手の入れ甲斐があるアンプ基板であることが判明したのであった・・・・
Modification
Pre-Amplifier Part
Mute Driver Circuit
まず何よりも先に手をつけなくてはならないのがポップス音対策だ、TPA3116D2のミュート端子をHレベルにプルアップしてやる事で出力がハイインピーダンスとなり、ほとんど問題ないレベルにまで改善できるが、ミュート端子と電源+との間に3.3uFコンデンサ一発という簡易的なミューティング駆動回路は
Design-1 [Simplified]
この動作をシミュレートしてみると以下のようになる。
青線が電源電圧v(1)、赤線はミュート端子の電圧v(2)。後者の電圧がTTLレベルを越えたあたりからミュートが機能し始めるので電源オンの時は一応ミュート動作するが、電源オフの時は逆のマイナス側にまで到達してしまっているので当然ながらオフ時にミュートは全く機能しない。
TPA3116D2のミュート端子を電源オンのみならずオフ時にもHレベルにプルアップするようにしてやればSP出力がハイインピーダンスになって、ポップス音をほとんど問題ないレベルにまで改善できる事を手操作でシミュレートして確認した。 ミュート端子を電源をオンした瞬間にHレベルにし、やや時間が経ったところでLレベルにする。もしアンプ動作中に電源電圧の低下を検出したら即時にHレベルにする。 要はこれを自動でやる回路を考える訳であるが、可能な限りシンプルな回路を考えてみた。
Design-2 [Practical Use]
D1,D2のダイオードはショットキーよりもリーク電流が少ないスイッチング用のSiダイオードが適する、もし電源電圧のドロップに敏感すぎて誤動作してしまう場合にはD2を複数本直列にして感度を落としてみて欲しい。使用するトランジスタはPNPタイプなら何でも構わない。
この回路の動作をシミュレーションしてみると・・・
一番上の青線波形のv(1)が電源電圧、v(4)の赤線がミュート回路駆動出力。 電源オンから約2秒遅れてミュート解除され、電源電圧がドロップし始めるとすぐミュート端子をプルアップしミュート状態になる事が判ると思う、D2のダイオードを複数本直列にした場合は、オフ時のミュート動作開始する電圧が低くなるが同時にシャットダウンも遅くなってしまうので最小限に留めるべきだろう。 ミュート回路動作を解説すると、電源オン時にはC2がチャージされるまでの間Q1のベースが下向きに引っ張られてE-C間が導通するのでミュート機能がオン。 程なくしてC1はダイオードD1経由でチャージされていく、C1の電圧が定常状態になった後で電源電圧がドロップし始めるとQ1のベース電位はD2でGND方向に引っ張られるためにC2の電位はC1よりも低くなり始める、この電位差が約1.2Vを超えるとQ1がオンするので再びミュート状態になるので電源オフ時にもミュートが掛かるという塩梅だ。 結果的にポップス音対策はトランジスタ一石で劇的に改善できた。たったこれだけの回路なのにコスト優先のためなのか? 無くても音が出るんなら要らないとばかりに載ってないのが中華アンプ設計の真骨頂なのだろう(笑)このミュート駆動回路は小さなユニバーサル基板に載せてホットメルトで部品上に固定した。
Crossover Dividing Network Modification
次にクロスオーバー回路に手を入れる、サテライトSP出力にHPFを入れたいのだが、50kΩのボリュームだとノブの位置によって通過域のf特が大きく変化してしまうのでやむなくLME49720によるボルテージフォロワーの小判ザメ基板を作って基板裏側に追加した、HPF回路はなるべく基板パターン改造を少なくて済むように多重帰還型のHPF回路を採用してみた、
シミュレーションを実施した回路:
X3の多重帰還型HPF回路は通過帯域の位相が反転するので2次のネットワークの場合、相手のLPF側を普通の非反転タイプで構成すればちょうどクロス付近の位相が合うので反転が難しいアナログアンプの場合には好都合かもしれない、回路シミュレーターで振幅ー位相特性を解析してみた。
周波数特性と位相特性のシミュレーション結果:
両者の出力の位相がほぼ平行して変化しているのが読み取れると思うが、組み合わせるスピーカーによっては通常のバタワースなアライメントよりも位相差が少ないのでオーバーラップする周波数での総合音圧特性が最大で3dBほど盛り上がる可能性がある、理論上は振幅も位相も完全にフラットなスピーカー同士なら-6dB付近でクロスさせるべきであろうが私の場合は実測したスピーカーでの実特性では少しクロスポイントが落ち込み気味だったのであえてこのような設定にしている。
その他では、サブウーハー用のモノラル化のためのミキサー回路を搭載しサテライトSP側のクロストーク特性を悪化させないようにしたのと、サテライト側はボリュームを2個通ることによる音質の劣化を避けるためにサテライトSP用の音量調節ボリュームは廃止した、代わりにモノラル化ミキサーに少しゲインを持たせてサブウーハー側のボリュームを少し絞った状態でバランスするようにしておいた。 以下に大幅に改造したプリ段の回路図を示す。
Modified XH-M139 Pre-Amp Stage Schematic:
プリ段改造箇所:
2段重ねのサテライトSP用VRを削除
初段にLME49720によるバッファーを追加
L/R出力に多重帰還型のHPFを追加
SUB信号用モノラル化ミキサーを追加
SUB信号用LPFの定数の見直し
Opアンプ中点電圧用抵抗の基準点見直し
Power-Amplifier Part
Synchronous Slave Clock Issue / サブウーハー側スレーブ動作の不具合対策
L/R出力に対してサブウーハ出力側のインダクターの発熱が異常に多いのが気になった、最初のうちはSUB出力側はパラレルBTL動作なので大電流が流せるから磁気飽和が起きやすいためだろうと思い込んでいたが、許容電流が大きなコアのものに交換しても明らかに発熱量がL/R出力とは大差があったのでPWM出力波形を測定してみたのが以下の波形である。
[PWM Output Waveforms]
Channel1: Right-Channel, Channel2: SUB-Woofer Channel
C40削除前のPWM出力波形で上側がR-chのPWM波形だが、私の基板は改造しているので1.2MHzでスイッチング動作している、下側がSUB出力のPWM波形なのだがSUB側の波形が時々しかスイッチングしていない、これでは実質的に1/5程度の低いスィツチング周波数になってしまうので出力段のLPFではカットしきれず盛大な高周波ノイズが漏れ出てきてしまう、異常に発熱するのもこのせいだと考えられる。 海外の掲示板を徘徊するとマスター動作に改造したら改善したという書き込みを見かけた事を思い出した。
そこで2個のTPA3116D2を同期動作させているSYNC信号を調べてみた、上側がマスター側の送り出し信号で下側がスレーブ側TPA3116D2の受端子pin16で測定した波形
{SYNC SLAVE Clock Signal]
Channel1: Master Out, Channel2: Slave Input
約100kHzのクロックリファレンス信号に対してR25(=10kΩ)と 1nF(=1000pF)なのでカットオフ周波数が15kHzという非常に低い設定で、C40の容量が大きすぎるために波形が三角波になり振幅も2Vppを切ってしまっている、TIのデータシートの参考回路がそうなっているので素直にそのまま作っただけなのかもしれないが、私は400kHz動作であっても100pF程度が上限だと思う。 送り出し側だと5Vpp近くあるクロックが2Vppまで減衰しているのでこれではマズいのではないかと思った、正確に同期するようになるためには波形エッジをもっと鋭くしレベルも大きくする必要があるのでカットオフ周波数を上げる必要がある、幸い?10kΩと非常に高いシリーズ抵抗が付いていたのでC40を外すだけでも配線容量だけで十分鈍った波形になった。
同期信号を確実に伝える改造をするためにC40を削除する箇所は下の画像に示すようにヒートシンクの下なので分解する必要がある。
黄色矢印が差しているC40を取り外して pin16の波形がどう変わったか確認する・・・
[C40 Removed SLAVE Clock Signal] Channel1:
Measured at Master Output Pin, Channel2: Slave Input Pin16
プローブの容量が10pF程度乗ってるが、配線容量だけで100kHzという周波数に対して十分シャープな波形に改善された、これなら問題なく同期動作しそうだ・・・
ということで再度アンプのPWM出力波形を測定・・・
[Modified PWM Output Signals]
CHannel1: Right channel, Channel2: SUB-Woofer channel
下側がサブウーハー出力だが、今度は途切れることなく安定して上側と同じ周波数(=1.2MHz)でスイッチングしている、SUB側インダクターのコアの発熱も目に見えて少なくなった。 これなら全く問題ない程度の温度上昇でコアに触ってもやや暖かいなと感じる位、購入時の長時間触っていられないほどに熱かった頃と比べたら大違いである。
Modified XH-M139 Power-Amp Stage Schematic: (TI社のデーターシートを改変して転載)
パワー段改造箇所:
スイッチング周波数を400kHzから1.2MHzに変更
電源ON/OFF時の両方に対応したミューティング駆動回路を追加
出力のLPFインダクターを定数変更 → さらに許容電流の大きな部品に交換
スレーブ動作クロック入力(SUB側のpin16)に付いている1nF(C40)を削除
Enclosure
音もそこそこ良いし、やっと安心して使えそうな状態になったのでアルミのケースに入れてみた。
中身はこんな感じでギリギリで収まっている。
ケースに入れる事で基板が密閉状態になる、正確な値は覚えていないが確かDC19V供給状態で購入時の無信号時消費電流は200mAを超えていたと思う、上記の改造後は無信号時の消費電流は約100mAに減っている、しかし高効率なクラスDアンプといえども常時2Wほどの発熱量に対する熱対策は必須だ。
15x15mmのアルミ角柱を2本使いヒートシンク部を延長して天板にも放熱するようにしているが、この程度の熱対策をすればほとんど温度上昇を感じない。
Impressions & Comments
ミューテイング駆動回路を搭載したおかげで電源オン・オフ共に小さく「プッ」ていう程度にまでポップス音の問題は改善できた、これならリレーは不要だ。TPA3116D2のスイッチング周波数を400kHzから3倍に引き上げた状態ではインダクターの発熱は減少したが、代わりに無音状態でもアンプIC側の発熱量が増えたように思う、明らかにヒートシンクがないとヤバいレベルの発熱があり、それなりの大音量で鳴らしてもIC側の発熱はさして増えないみたいだが、インダクター側の発熱はさらに増えるようなので改造後の基板で19V駆動では完全密閉した樹脂ケースに入れるのは無理と判断される。 スイッチング周波数の変更をした場合でも低インピーダンスのスピーカーを使用すると高域の周波数特性が落ちるが、これはインダクタンスが大きすぎる最終段のトロイダルインダクタの巻線を減らすことで改善できる。 スイッチング周波数によって極端な音質の違いはないが同じではないという印象を持った。 ちなみに8Ω負荷の場合トロイダルインダクタの巻線を13巻減らす事で40kHzまでフラットに再生できるようになる、この時4Ω負荷だと20kHzではレベルが-3dBほど落ちるので車載用途などでローインピーダンスの負荷を接続する場合はさらにもう少しインダクタンスが少ないものに交換する必要がある。
2017年8月23日追記:
最終段LCフィルターのトロイダルインダクターだが、最初からその傾向はあったが、どうやらこの黄色いコアで巻線を減らしていくとコア容量不足で磁気飽和を起こしてしまうようだ。 巻線をさらに6巻減らして約11uHまでインダクタンスを減らしてみたところサブウーハーchのインダクターのコア温度が急上昇、一分も経たないうにち煙が上がり始めるほどの危険な状態になった! 「ICが壊れたのか?」と慌ててDCレンジでGNDとSP端子との電位差を測ると電源電圧の1/2をキープしてるしSPからは普通に音は鳴る状態。 どうやら巻線を減らした事でインダクタに流れる電流のピークが磁気飽和が起きるほどまでに上昇した結果、ほとんどインダクタンスが無い状態になってしまい、ICのPWM出力にいきなりC負荷をつないだみたいな状態になってインダクタに大電流が流れ続け発熱するという事態になった模様。 この状態になったトロイダルコアを使い実測値で28uHになるまで太い巻線で巻き直して再トライしみてみたら更に激しく発熱する状態になってしまった。 こりゃダメだなと諦め、数年前にPWMアンプから外したジャンク品の大電流対応インダクター10uH(ほぼ同じインダクタンス)に交換したら、それだけで普通レベルのコア温度上昇に収まるという結果になったのであった・・・・
という事で、サテライト側のコアはなんとか改造に耐えたけど、サブウーハーchのトロイダルインダクタの巻線を減らす事はお勧めしない、サテライト側についても低インピーダンスのスピーカーで高域まで周波数特性を伸ばすためにインダクタンスを下げる必要があるのならば、もっと許容量の大きなマトモな部品に交換すべきだと思う。
2017年9月24日追記:
どうやら先日の発煙したトロイダルコアは何かの拍子で大電流が流れた際にコアに磁気を記憶してしまったようだ、磁気ギャップがないコア故にいわゆる「コアメモリ」状態になってしまったようだ、B-Hカーブの中心から大きく外れた領域に磁化され、そこから抜けられず実効的なインダクタンスが減少するため1uFのコンデンサーを通してGNDに大電流が流れコアが発熱するという状態に陥ったようだ。 このためにBTL出力で対称に2個あるインダクタの外観はほとんど同じなのだがの片側だけが異常に発熱する状態になっていた、その時は素材が熱で劣化してダメになってしまったのかと思ったが、実は磁気リセット(消磁処理)すれば復活できたものと思われる、オリジナルの黄色いトロイダルコアはもっと高い周波数用の素材のはずで、本来なら赤色でもっと大型のコアを使用するべきものと思われる。 ちなみに1.2MHzでの計算上の10uHインダクターのインピーダンスZはZ=2・π・f ・L なので計算すると約75Ωであるが、無信号時でもICのPWM出力からはこのインダクターと1uFのコンデンサーを通してGNDに向かってデューティ50%の矩形波による電流が流れ続けているから発熱する訳で、無音でもインダクターが熱くなるのはそのためである。 1uFのコンデンサーを約半分の0.47uFに交換してインダクターを約2倍の22uHに上げてしまえばカットオフ周波数は同じままで発熱量は半減しそうな気もするが、ダンピング特性や音も変わってきそうだし、とにかく また同じ事が起きるのはイヤなので10uHのインダクターで許容電流のピーク値が大きいものに交換してしまった。交換したのは
Laird-Signal Integrity Products社製MGV1004100M-10 (10uH, typ. 6.8A max.12A, Shielded)という比較的小型(11x10x4.3mm)ながら大電流に耐えられるもの。 スイッチング周波数アップ、インダクター交換とSUB側のスレーブ動作改善の相乗効果により、コアからの発熱の問題は問題のないレベル(50度以下)になった。
部品交換した後はコアが磁化して異常発熱する事故は起きていない。
高速な1.2MHzスイッチング動作をさせているためにICからの発熱は400kHzのオリジナル状態よりもやや増えているように感じる。 音質についてコメントすると改造後は高域の音色がオリジナルよりもスムースに感じられるように変わった。 改造を終えた現状なら大きく不満を感じないで十分鑑賞にも使える音質だ、残留ノイズも全く問題ない。基板の配線パターンが細いのもあるだろうがサブウーハーを2Ω負荷で駆動して大音量で鳴らしても低域のドライブに問題を感じないし十分に実用になるレベルの音質である。 大音量で使う場合、電流リミットより先に出力振幅のリミットが先に効いてしまうので音量を出したい場合は低インピーダンスのスピーカーの方が有利であろう。
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