QWTL(Quarter Wave Transmission Line) Speaker Project

トランスミッションライン型スピーカーの製作


Introduction:

ここ15年程の間は箱入りのスピーカーの製作からは遠ざかっていたのだが、先日 地元のオフ会で非常に巧くチューニングされたボイド管エンクロー ジャーのスピーカーを聴く機会があった。 電流駆動のアンプで鳴らすことでユニットが上向きで軸外になる為の高域減衰を効果的に補正しつつ歪み感 が少ない 魅力的な音がしていた。 何よりも、これまで何度となく耳にしたパイプ共鳴による尾を引くようなリンギング感が全く無くて予想外の出来事であっ た。 同席 した方々も外観から受けがちな予想を裏切って実にまともな音で聴けることに驚ろいてどよめきが起きた程であった。しかしλ/4 管の3倍共鳴によるポ イントでのインピーダンスの上昇が大きく、それに伴うピークが唯一気になった惜しい点であった。 製作者のコメントによると吸音 材の詰め方と、開放端を 絞ってポート化した事が上手く行った要因であったと述べられていた。
終わった後になって思い当たったのが、実はトランスミッションライン型のエンクロー ジャーと同じ原理でイケるんじゃないか? という事で20年程前から一度作ってみたいと思っていた事を思い出した。 別名「迷路型」とかStuffed Labyrinthと呼ばれる曲がりく ねった構造が一般的であるが、吸音材が充填され折りたたまれたものを真直ぐに伸ばしてしまえばほぼ同じ構造であること に翌日になって気がついたのあった。

Feasibility Study:

当時はその複雑な構造ゆえについ億劫で製作に手が出なかったが、どんな音がするのかずっと気になっていた、PMC社の製品を聴いた事はあったが「ふ〜 ん」という程度にしか印象が残っていない。 しかし、この20年で間に大きな技術的進展があった事をネットを徘徊して初めて知った。 それはMartin J King氏によるMathCADでのモデリングによる功績が大きく、事前にシミュレーションによって特性の検討ができるレベルに達してた ようだ、残念ながら現在では彼のMathCADのワークシートは有償配布となってしまっているため、気軽に諭吉一枚を投入する踏ん切りも付かない状況のた め色々と机上で検討することができずにいる。 webを徘徊してみると氏のワークシートで事前シミュレーションした作例は結構多い、海外の関連 サイトでは従来型のトランスミッションラインを「CLASSICAL」と呼んで明確に区別しており、これから派生して後に登場したものをリストアップし大 別すると次 のようになった。
QWTL (Quarter Wave Tube Transmission Line)


この場合、吸音材が無いと気柱の共鳴現象そのものなので、スピーカーの位置は定在波の節となり 奇数倍ごとに鋭く共鳴することになる
図解すると次のようになり、節となる位置ではドライバーの振動板は殆ど動かずして大きな音圧が得られる、逆に腹となる位置にある振動板では開口からも同じだけ の振幅が得られるだけなので、相対的に開口から放出される音圧は低下する。 よってパイプ内に吸音材を入れる位置は節よりも腹となる場所の方が闇雲に入れるよ りも効果的だろうと想像はつく・・・

さらに、これの亜流として後に登場したバリエーションもあって
  1. Straight QWTL (直管型1/4波長トランスミッションライン)
  2. Tapered (Expanding) QWTL (末広がり型1/4波長トランスミッションライン)
  3. (Negative) Tapered QWTL (先細り型1/4波長トランスミッションライン)
  4. Mass Loaded (Ported) Transmission Line (ポートつき1/4波長トランスミッションライン)
これらを概略して図解するとこのようになる(Brines Acoustics社の資料から引用、数値は正規化してあります)

ちなみに共振周波数を50Hzにする場合、気温20℃ならば1波長はλ=(音速)/(周波数)=343.5/50 =約6.87mなので1/4波長は約172cmであるが、TLの場合Sdの約3倍と開口径が大きいので開口端補正を行う必要がある。理論値では0.6133× 半 径とされるが、一般にこの補正値は開口部内径の約 1.2 倍〜1.3倍と言われている、よって実際には端面より15〜16cm外側の位置に波動の腹が来ることになる。この点を考慮するとxの値は172cm - 15cm = 157cm程度になるものと計算される。

さらに調査すると、それぞれの方式による特徴も解ってきたので要点をまとめると、「気柱の共振現 象」 の原理通りに閉塞端では振幅の節が、開放端では振幅の腹となり両者での位相が反転しているという基本原理を利用しているという点で共通している。 気柱の全長が使用する SPユニットのFs(最低共振周波数)=気柱の共振周波数となるように、その長さをλ/4に合わせてチューニングする事で、閉塞端すなはち節と なる位置にある SPユニットの 振動板に制動を与 える事ができるので、インピーダンス特性のピーク(山)を低く抑える事が 可能であり、適度に吸音材を充填した際にはユニットのFsの上下にバスレフのような低いインピーダンスの山が2つ出現する。さらに過剰に吸音材を詰め込みすぎ た 場合には密閉箱のようにインピーダンスの山は一つになってしまう。

1. Streight型は基本通りに1/4波長の片側が閉じたパイプであり、その太さにより開口補正が入るため、若干の短縮率に違いがあるものの高校物理の授業で習う通りの長 さ依存の振動動作であり、太さ∽容積というバスレフ箱的な考え方は通用しない、考慮すべきは管の長さと太さで、こちらはSd(有効振動板面積)に対するパイプ 内部の断面積を使用するSPユニットのSdより大きくとり2倍〜4倍程度になるようにするのが一般的。 あまりに細いと効率も低下するし、流速が上がりすぎて ヒューピューと笛の ような風切り音が聞 ける(笑)

2. Tapered (Expanded)型は一般的にQWTLといえばこの型を指すようだ、同じ共振周波数ならばパイプの全長は若干Streight型よりも長くしなくてはなら ない。針のよう に細くなった先端側には吸音材を詰めることで、B&W社の「ノーチラスチューブ」等と同様な吸音構造を持つ、大きな開放端ゆえに風切り音が無い低域放射が特 徴、必然的に閉塞端に は 面積が足りなくてユニットがつけられない構造なので、必然的に取付位置は閉塞端から大きくオフセットせざるお得ないので小型のユニットが適するが、一般的には全長の 中央付近にユニット を取り付ける。直管と比較して低音増強できる帯域はやや狭めである。 一方、開放端から見ればSPユニットの「オケツ丸見え」状態なので低域特性を改善したい 範囲以外の中高音もユニットの裏側からほぼ筒抜けで漏れ出てしまう、そこでこれを吸音材で減衰させる事で目立たなくすることで何とか使えるレベルに持っていく 必要があるのが一番テクニカルなポイント。 そのためには高域にしか効かないグラスウールだけでなくて、フェルト等の比較的質量のある吸音素材も組み合わせて 使う必要が あり そうだ、トールボーイ箱に斜めに仕切り板を追加するだけで簡単に実現できるシンプルな構造なので自作する人も多い。

3. Negative Tapered型は前者とは逆に、同じ共振周波数ならばStreight型よりも全長が短くなる。 一般的に閉塞端と開口端の比率は3倍程度で比率が大きいほ どλ/4 で共振する長さが短縮される、断面積が大きい閉塞端寄りにSPユニットを付けるので比較的大型のユニットが取付可能。 一方奇数次の共振ポイントははぼ全長で 決まる長さのままなので1stと3rdの間がやや離れたものになる。 実際の設計では開口端(英語ではポートと呼ばずLipと呼ぶようです)の面積 がSdに対して小さすぎると大音量での流速が大きく(概ね30m/sec以上に)なりすぎて風切り音の問題と能率の低下が生じるので使用する SPユニットの口径と先細りの傾斜度合いに制約が生じます、ベントの開口面積は経験的にもSdの半分ぐらいは欲しいところ、SPユニットの取り付け位置を閉塞端からオフ セットすることで気になる5倍の共振音を抑える(開口端と同振幅にする?)ことができるのも最近のTL設計手法のお約束のようです。閉塞端と開口の断面積の比 率が3の場合に直管と比較して全長が約20%短くなり、QWTLよりも開口端が絞られているために、開口部からの高音域の漏れも少なくなります。 

4. MLTL型は構造図を見て「これってバスレフ箱じゃん!何も違わないだろ?」と思う人も多い と思うが、根本的に動作原理が違っていて、ヘルムホルツ共振器を利用したバスレフ型では共振ポイントでの箱内部の圧力はどこでもほぼ一定なのに対して、トラン ス ミッションライン属では位置によって圧力分布が大きく異なります。従ってベントする位置による特性の変化が極めて大きく、仮にユニットの近くにポートを付けてしまえ ば気柱共振による低音増強効果は無くなり、TL型というより音響トラップ(吸音器)付きエンクロージャーのバスレフ箱になってしまいます。 Mass Loaded(質量負荷)型という 意味は ポート内部の空気の質量が 負荷となり抵抗となるからで、同時にそこで生じるLPF効果のためにSPユニットの裏側からの中高音の漏れが低減されるものこの方式の利点。 直管でなくても Expanded 型の開口部を絞ったりポートにしてMass Loaded型にしたバリエーションはPorted TLという区切りからするとMLTL型に分類されると思う。  チューニングできる要素が一つ増えることをどう捉えるかは貴方次第という点でも奥が深い。

なぜドライバーの位置をオフセットするのかという理由を考察してみると、以下の図に示すように波動 の振幅の腹の位置にドライバーを配置した場合、開口端と同じだけ揺れるということになり、逆に考えれば一番制動も効かないし、共鳴のご利益が一番無いデッドポ イントと考えることもできるので、共振によるピーク発生を避けたい向きには好都合な取り付け位置だということがその理由となりそうだ。

最後に図示したようなどっちつかずの位置にマウントした場合、果たして意味があるのかどうか? 共 鳴の鋭さ具合というかQ次第だとは想像するが興味あるところではある。 いずれの方式で作るにせよ、理想的な寸法であっても吸音材の詰め方一つで成功するかど うか結果が 違ってきてしまうのがTL型のユニークな点なので、ここから先は実際に実験して見ないことにはイマイチ実感できない領域に突入してしまいました。



My DIY QWTL Speaker Projects:

以下のリンクに実際に制作して得た結果を掲載しています

  1. Mass Loaded Transmission Line Speaker System (マスローデット型QWTLスピーカーの試作)
  2. Negative Tapered Transmission Line Speaker System(逆テーパー型QWTLスピーカーの制作)工 事中



参考にしたwebページ



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