MLTL(Mass Loaded Transmission Line) Speaker Enclosure

マスローデットトランスミッションライン型スピーカーの製作


Preliminary Experiment:

【予備実験】
まずは使用するSPユニットを決めないことには何も進めない状況なので、楽に実験を行えるようになるべく小口径でありながらFsが十分に低く、Qms が大きく、波動の 節を揺すれるくらい丈夫な振動板で、最大振幅が稼げるものという条件で探してみた。その結果以下の3種類の候補に絞れた。
 最終的には公称Fsが55Hzと低く、最大振幅が20mmも取れるというのでND105を購入した。 早速特性を確認するためにフリーエ ア状態でインピーダンス特性を測ってみて驚いた

10時間ほどエージング掛けた後での特性であるが、なんとFsが公称53.8Hzなのに対して35%も高い72Hzなのである! これでは想定していた周波数 のインピーダンスの山を潰せない、やはりMade in Chinaでは品質管理に期待する事自体が無理なのであろうか・・・、と思ったら、いつのまにか仕 様変更されていたようだ。
閑話休題。 気を取り直して、あまりに低音が伸びなくなってしまうのでインピーダンスカーブの山を低く抑えるのは諦めて、周りの部材を集める事にす る。 Sdが約50cm2なのでエンクロージャーとなるパイプには内径125mmのものを使えばSdの約2.5倍になるので丁度 よさそうである、できれば内部損失が大きく加工が楽な紙製のボイド管を使いたかったが、内径125φのものは定尺5mで近所のホームセンターでは 5000円近くもしたので、急遽PVC素材のVU管で代用して実験することにした。 (後日、別の店で5m定尺ものが1680円で売ってた、あとの祭 り・・・)
Classical TL配置でMass Loadedなエンクロージャーの実験(直管による予備実験)

エンクロージャーの寸法

このユニットにはやや長過ぎだが、ちと欲張って49Hz付近での共振を想定してみた。

実験に使用したSPユニットとUVパイプのエンクロージャー
Closed End Open End

  • 吸音材全く無しの状態でのインピーダンス特性

  • バスレフ箱のように2つ山のインピーダンス特性になった。 ピークの山も35Ω〜43Ωと高く鋭い、細かく見ると定在波や 共振等の影響からかかなり凸凹のある荒れたカーブである。 いかにも共鳴しているという濁った音がする、具体的にはパイプの長さの奇数倍の共鳴音が はっきりと「ビョンビョ〜ン」という感じで聞こえる。

  • 吸音材全く無し状態の開口端ニアフィールド周波数特性

  • λ/4モードでの約63Hzの共振を筆頭に、それよりはるかに高いレベルで奇 数倍共鳴しているのが実に見事に測定できた、しかし一番低い周波数のピークは53Hz付近で3 次以降の周波数よりも低い方にズレている、その高さもQも少し低いので恐らくポートのチューニングによって引っ張られているものと推測される、高調波での 共振の最初は190Hz付近で3倍モード、それ以降は1/4波長管が奇数倍で共振しているのがハッキリと観測された、SPユニットの取り付 け位置を閉塞端か らオフセットさせることで5次共振(340Hz) の ピークを抑制するのが可能なはずなので一通りの特性をチエックできたらSPユニットを移設してトライする事にする。

  • 閉塞端から全長の約1/3までを程よく吸音材(濾過ウールx3片)を詰めた場合のインピーダ ンス特性

  • ほんの少しであっても基本波の音圧がすぐ落ちてしまうので、なるべく開口端側には入れず閉塞端側だけ吸音材を入れていくのであるが、吸音材の量が増える に従って音がタイトに変化し、インピーダンスの山が低くなっ てくる、詰め過ぎると低域の量感が失われていくので音的にはこのくらいが 適切 か? ユニットのFsが高いのでどうしても山の高さがアンバランスになってしまう。この加減だとバスドラムのチューニングの違いやミュート具合、ドラ マーによるビーターの押さえつけ具合などが非常によく判リやすい、バスレフ箱ではあまり聴いた事が 無いような低音の出方である。 インピーダンスカーブからして60Hz付近でファンダメンタルなλ/4共振をしているようだ。

    上記の状態での開口端音圧特性

    吸音材を入れたことで開口端から漏れる共鳴音がだいぶ抑制されてきているのが判る

    吸音材が多目の場合のインピーダンス特性

    低い方の山が消えそうになっている、もしSPユニットのFsにうまくパイプの全長が共振していれば、両方のインピーダンスの山がほぼ同じ高さに低くなっ て相当にフラットに近ずきそうなので、電流駆動アンプで鳴らしたい向きには何としてもFsの低いSPユニットを探してきてこの特性を合わせ込む必要がある だろう・・・・。 このユニットのまま仮にパイプの 長さを短くして、2つの山の中心にλ/4共振をするようにすればインピーダンス特性は相当にフラットに近づけられそうに思えるが、それだと 70Hzから下は24dB/octの傾きでスパッと切れてしまうので、きっと低域の伸びが物足りなくなってしまうだろう。

    上記の状態での開口端音圧特性

    吸音材に使用した濾過フィルターではとても軽いので、低い周波数にはあまり効かないような気がした、そこで追加する吸音材として閉塞端から全長の約1/3 付近
    壁面にニードルフェルトを貼付してみた、その効果か190Hzの共振がかなり抑制されてたようだ。

  • 過剰に吸音材を多く詰めすぎた場合のインピーダンス特性

  • あまり極度にやりすぎると、このようなインピーダンス特性になってしまう、まるで密閉箱のようでもあるが、ピークの周波数を見ると殆ど上昇していないの で例えて言え ば後面開放箱的とでも呼べばいいのか? 中高音や共鳴音は殆ど聞こえないが、肝心の低音もかなりスポイルされてしまっていて開口端から放射される音圧も少な い。

    上記の開口端音圧特性

    極端に大量な吸音材を入れてみても中域の漏れ抑制効果はさして大きく変わらず、むしろ50Hz付近の音圧が低下してしまうという弊害が発生している。 1kHzのピークは12.5cmにしたダクト共鳴を拾ったもののようだ。ダクトを8cmにしたら15dBほど下がった。


    SPユニットをオフセットさせるためフランジを作成し接着


    通常の接着剤だと塩ビは付かないので、専用のものを使用しました

    木工用ボンドのような白色ですが乾燥すると透明になります、いつまでもゴムのように軟質ではなく結構硬くなるので浮いた感じにはならずカッチリと接着できました、オススメ。

    SPユニットを閉塞端から約28cmオフセットした状態の開口端音圧特性(吸音材なし)

    SPユニットの取り付け位置をオフセットしたことで5th共鳴の340Hz付近にあった共鳴ポイントが落ち込んでいる、本当は3rdの 190Hzのピークを押さえたたいのだけど、工作精度も問題かな・・・ それでも190Hzのピーク値も少しだけ下がっている。

    上記に吸音材を軽く詰めた場合の開口端音圧特性

    吸音材を入れたことで共鳴器が吸音器(トラップ)に化けるので230Hz付近に明らかなデップが生じたのが判る。 しかし、低域を40Hzまで伸ばそうとして 12.5cmのダクトをつけて測定したが、1KHzのダクト の共鳴がキツぃ、ダクトを80mmほどに短くすれば消えるが、同時に低音の伸びも55Hzほどまでしか伸びなくなってしまうから悩ましいところだ、全長をもう 少し長くすべきなのか・・・、もし かしたら奇数次の共振とたまたま合った為 なのかもしれない、少し調整してそうなのか確認する必要性を感じる。

    さらに吸音材を多量に詰めた場合の開口端音圧特性

    高調波の奇数次の共鳴によるピークは全くなくなり、ダクト長を80mmに戻したので1kHzのピークも無くなっている、200Hz強のポイントに落ち込みが認 められるようにSP取り付け位置をオフセットした効果は見えるが、過ダンピングや抵抗が大きくなった結果、最低域の伸びまでも弱く なってきており、ファンダメンタルでの共振のQも下がってきており明らかに吸音材の詰めすぎ のようだ。やはり、SPユニットのFsが高すぎるのは小細工では如何と もし難いようだ・・・・


    一方、こちらはND105だけのフルレンジ動作の前面近接(フロント)側ニアフィールド音圧特性

    分割共振しないアルミ振動板のため200Hz〜3kHzにかけての中域は非常にフラットだが4〜5kHz付近には大きなディップがある、さらにその上では鋭い メタル特有の共振が激しく発生している。 このために3kHz以下でツイターとクロスさせないとう まく繋がらないように思えるので、相棒となるツイターには推奨されている再生周波数範囲の低限まででカバーできるかどうかの注意が必要だ。そう考えると1インチのツイター の方がいいかもしれない。 40Hz〜60Hz付近にポートからの音圧を拾っている影響が認められる。

    アクティブ・クロスオーバーを使って2wayにしてみた。
     ツイターには、手持ちがあった ので同社のDN20FA6(20mm Soft-Dome Tweeter)を使用。
     
    クロスオーバー周波数は3.2kHzで両者共にユニットから約16cmの ニアフィール ドで測定。
    バッフルステップロスのためにND105の2kHzから下ではレスポンスが落ちてるようなので相対的に2kHz付近にピークができてしまったように見える、こ の補正を兼ねてウーハーのLPFのカットオフ特性をダラ下がり気味に変えて、さらにクロスの周波数をもう少し離した方がこの音圧のグラフを見る限りは良さそう だ。
    振動板とポートが1m以上も離れているため室内では合成特性がうまく測定できなかったので画像上で合成すると以下のような感じとなる。

    うまく音圧のバランスが取れればFsが70Hz超の10cmウーハーとしては異例なくらいに低域まで再生ができるようだ、もしND105が初期型のFsが 53Hzのものだったら一体どんな特性なんだろうと思うと無念な限りである。

    OminiMicで測定していただける機会があったので、その時の測定データを転載しておきます。
    (以下、塩沢@町田さんのオフ会blogページの添付資料より引用)

    【SPユニット近接 距離0.2m周波数特性】


    フローリング音楽室内で測定した特性です。
    【距離1.5m周波数特性】


    【SPユニット近接ウエーブレット解析結果】

    バスレフ型とかと比べれば圧倒的に減衰するまでの時間が短いのが、TL型の特徴のようです。100Hz付近の離れた紫色の島は7mほど離れた壁からのエコーと 思われます。

    【開口部近接ウエーブレット解析結果】

    なんとなく右下がりに見えますが、これは約1.1mの音道を経て開口端ポートからの音圧が立ち上がるのに数mS要している様子が見て取れているのだと思いま す。 距離/音速で計算すると約3.2mSなので測定結果と合致します。 赤色のハイライト部分の帯域が約35Hz〜180Hzと広くブロードで、ポートから放射される 音圧はどちらかというとバンドパス的な特性と言えそうです。
    同じ日に測定した逆テーパー型ではディケィの部分が短くかつ帯域も広がって一様だったのに対して、このMLTL型ではバスレフ型のように40Hz近傍の狭い帯 域でヘルムホルツ共鳴によるものと思われる長い減衰音が60Hz付近で観測されます、ポート長により多少この周波数を可変できる利点もあるのですが、この長い 尾を引いている部分が円筒形のポートを有するマスローデット型の特徴的な特性なのかもしれません。


    要注意ポイントのまとめ

    • Foが十分に低く(60Hz以下)、Mmsが大きく、Qtsが低い適切なSPユニットを選ぶ、、ファン ダメンタル共振以下の周波数では24dB/octでバッサリと切れて出なくなってしまうのでなるべくFoの低いものを選びた い。
    • SPユニットのFsと1/4波長菅の共振周波数を合わせる (インピーダンスカーブの山を潰せる)
    • 吸音材を入れる場所と、その量次第でポートから放射される音圧特性は大きく変化する (軽く± 数dB変化する)
    • 開口端寄りには可能な限り吸音材を入れない(極端に放射される音圧が低下してしまう)
    • 高次共鳴と高域の漏れが多いと聴感的に濁った感じの音になってしまうので周波数特性ばかりでなく吸音材の不足による音 質の悪影響にも注意



    Designing Enclosure Tips:

    【設計上の留意点】
    使用するユニットを選定した段階で、チューニングでは超られない限界があるので慎重 にユニット選びをする必要があります。 ユニットのFoに合わせて全長を決めたら、Sdから無理のない範囲で音道の断面積を決め、閉塞端からのSPユニットをオフセットする位置を決めたらば、ストレートなり折り 曲げなりの方法で全体のレイアウトを考え、最後にポートを開けかたを考えるという手順で良いのではないと思います。 ポートのチューニングはほぼヘルムホ ルツ共鳴器に準じて決めれば大丈夫だと思いますが、開口の断面積は十分に確保する必要があります。



    Building and Tuning the Enclosure Tips:
    【製作とチューニングについて】
    制作する上で定常波の節となる位置は特にガッチリ強度を確保し音圧がロスるのを防い でください、そして何よりも重要な吸音材の詰め方は、多分にカット&トライ的な要素を含みますので、インピーダンス特性とポートから放射される音圧の特性 を常に確認しつつ追い込んで行けば、多少はなりと収束する方向にたどり着けるものと思います。 経験上言えそうな事は、吸音材は閉塞端側には多く入れて、 開口端には極力入れない、局所的にも定在波の腹を狙って入れた方が効く、重い素材の方が定在波をよく吸収するが音圧もロスりやすい、といった辺りです。



    (参考にしたリンク)



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