カラスの体はとにかく大きかった。 まあ、俺だって201センチあるけど。
縦もデカイけど横もデカイ。 別に太ってるわけじゃなくて、筋肉でがっしりしてる。
でもそれだけじゃない。 体格と言うか、あれは骨格が違うな。
戦うために生まれ、戦うために育って、戦うために生きてる・・・そんな感じだ。
雰囲気を具体的に言うと・・・そうだな。
ベンケイのデカさと、イキザさんの怖さと、ゲンゾさんの無口さを合わせたような。
サオリさんにそう言ったら、思いっきり笑われた。
ところで予想はしてたけど、まあとにかくカラスは無口だった。
俺が喋ると一応相槌を返すけど、返すだけ。
これまでサオリさんとかアユミとかジャスとか、喋ってばっかりの旅だったもんな・・・。
それでも俺は一応「気に入られてる」らしいけど。
そういえば、一度シロウさんがカラスと話しているのを見た。
なんだか深刻そうだったから近付けなかったけど。
シロウさんの娘さんは・・・、俺を怖がってるみたいだった。
サオリさんにそう言ったら、ひっくり返って笑われた。
アユミは・・・元気だ。
俺も色々考え直してみた。 確かに、あまりにも過保護だったかもしれなかったな。
でも、どうすればいいんだ?
はっきり言わせてもらえば、アユミはまだ戦士じゃないんだ―――。
それは由緒ある北の戦士の家系としてのくだらないプライドかもしれないけれど。
今はわからない。
サオリさんに相談するなんて情けなくてできないから、ジャスに言ってみた。
そういえば・・・こんなに深刻に他人に相談したことなんて今まであったっけ・・・?
良く考えたら全然無いな。 くだらないボヤキ程度ならあったけど。
いつも思ってたのかもしれない。
『相談するなんてナサケナイ、戦士のプライドがユルサナイ。』
ハハ・・・そんな自分の方がよっぽど情けないな。
話を戻そう。
「お前が何を思てても、俺は俺の使命を全うするのみやけどな。
俺がここにおる限り、俺はアユミを八勇者に導かなあかん。」
ジャスはそう言った。 結局、俺は否定された。
だけど。
それでよかったんだ。
俺は誰かにそうやって否定してもらいたかったんだ・・・。
ダメだな、俺は・・・。
「アユミちゃんから聞いてな。 まさかここで会うとは思っていなかったが。」
「・・・ああ。」
「いつも引きこもりのお前が甲板にいると言うのもおかしな話だが。」
「怪我で動けないくせに連れの女がうるさい。」
「・・・逃げてきたのか。 酷い奴だな。」
「じゃあお前があいつの相手をしてやれ。」
「・・・遠慮しておこう。」
シバが通りかかったのはちょうどこの時だった。
氷女の月11日の夕方。
明日の朝には港に到着する船の上。
シロウ=キサラギは煙草を吸おうと甲板へと出た時、懐かしい男と会った。
確か9年くらい前、傭兵として西の国に滞在していた男。
その巨大な体は見ればすぐわかる。
「カラス、お前は変わっていないな。」
「・・・お前が変わったんだ。 老けたな。」
カラスの言葉にシロウは苦笑する。
「私にも色々あってな。」
直後、珍しくカラスが自分から口を開いた。
「お前が離れたとなると・・・西ももう終わりか。」
その言葉に、シロウの顔つきが一瞬変わる。
「そうかもしれんし、そうでないかもしれん。」
「・・・。」
シロウの顔を見ようとはせず、ひたすら海のほうを見ながら、カラスは沈黙していた。
自分としても、まさかここで会うとは予想していなかった男。
しかも、以前会った時のあの覇気はどこへ消えたのか。
「月熊はどうした?」
再びカラスが口を開く。
月熊―――カラスがまさかこの名前を覚えていたとは。
意外と記憶力のいいやつだ、とシロウは密かに感心する。
確かにあの武器は、見たら忘れられないかもしれないが。
「あれは持っているよ・・・。
すべて捨てて行こうと思ったが、あれだけは捨てられなかった。
あれは私の分身だからな。」
「そうか。」
カラスはそれ以上は聞かなかった。
だが、シロウは続ける。
「息子が2人死んだ。
あれはあいつらに譲ろうと思っていたんだが。
娘に渡すわけにもいかない・・・カラス。
お前、月熊を受け取る気」
「無い。」
即答だった。
予想はしていたが、あまりにもあっさりと。
「やはりな。」
「・・・なら聞くな。」
しばし沈黙。
また口を開いたのはシロウ。
「西自体は終わったわけではない。
ただ、私はもう西にいる気にはなれなかった。」
「そうか。」
「カラス、私はあの国が怖くなったよ。
近いうちに西は何かとんでもないことをやるつもりだ。」
「そうか。」
カラスの返事は、ただひたすらそっけない。
「カラスよ・・・お前が人の意見を聞き入れる奴とは思えないが聞いてくれ。」
「・・・なら言うな。」
また否定。
だが、シロウの顔つきは今までとは違う。
かつての。
3メートル半もある巨大弓「月熊」を手に、北の国と戦っていたあのころの。
西の都の兵士長だった時の。
「この先何があろうとも、あの国に雇われないでくれ。」
そんな顔つきだった。
サオリの怪我は大したことも無く、センカに着いた時にはすっかり元気になっていた。
馬車と違ってガタガタ揺れることも無い船旅だったのも、幸いしたかもしれない。
「ふっふっふ・・・ふふふ~・・・。」
奇妙すぎる笑い声と共に、上陸する。
「復活! そして、とうちゃ~~~~っく!!!」
「ハイ過ぎだよ、サオリさん・・・。」
大人しくしていた反動か、騒ぎまくりながら歩くサオリの後ろで、シバがいつものように頭を抱える。
さらにその後ろから、アユミがナナと一緒に船を降りてきた。
「では、私達は一旦ムラサメに行こうと思っていますのでここで。」
「気をつけてくださいね。」
シバが手を差し出し、それにシロウが応じる。
一礼し、大きな布包みを背負った男とその娘は去って行く。
その様子を、シバはただ動かず見ていた。
その頭にジャスが止まる。
「あの包みの中、なんやろな。」
「さあな。
少なくとも、商人っていうのはウソだろうけどな・・・。」
その頃サオリは、まだ一人でハイだった。
「どしたのカラス~、もしかして私の怪我が治ったことを祝福してくれてるとかっ?
あ~、なんだかんだ言って私のこと心配してくれてたのねっ?
フフ~、かわいい奴っ!!」
カラスは何も言わない。
「あ、どこ見てるの? あの2人確か同じ船に乗ってた親子連れよねっ?
知り合い? ・・・違うの? ふ~ん。
なんだろ、あの大きな包み。 意外と薄いけど。
はっ、そうか、サーフボードね!? あのオジサン、いい歳してサーフィンしに行くつもりなのねっ!?
ユウナギの砂浜はきれいだって言うし~・・・ねえ、カラス、私達もユウナ・・・いない!?」
カラスは何も言わない。
直後、置いて行かれたスイ=ヤエムラの飛び蹴りが彼の尻に炸裂するが、
それでもカラスは何も言わない。
縄張りは世界中。
この烏は、好きに餌を求め飛びつづける。
・・・さて、これからは書いてる場合じゃないな・・・。
7章はマサヤ達のお話です。