#26 金欠勇者御一行様 inフラズ

時は一気に過ぎて、8月。
氷女(ひめ)の月8日を迎える。
ハトレアを出て、ハトレヤを経て、サオリ達はようやくフラズへと辿り着いたのだった。

「ようやく着いたわね・・・。 ハトレア出てから9日も経ってるわ。」
宿屋の前でサオリが馬車を降りながらぼやく。
ハトレアを出たのは世界樹の月30日。 それから「安全運転で、且つ高速運転で」
馬車は走りつづけた。
その間、ひたすら御者役を務めたシバが思わず反論した。
「なに言ってんだよサオリさん、普通に行ってたら15日はかかる道だったんだ。
 それを9日で来たんだから、充分だろ?」
疲労困憊の顔でそう言われると、さすがのサオリも言い返しづらい。

「・・・そうね、悪かったわ。 とりあえずこれからどうするかよね。」
そう言ったサオリを、きょとんとした顔でシバとジャスが見る。
「なによその顔は。」
「いや・・・、サオリさんがそんなに素直に謝るなんて。」
「雪でも降るんちゃうか?」

言わなければ良かったのに・・・。






宿屋の中にて。
「ねーシバー! この荷物はどーするの?」
「・・・ああ・・・、部屋に運んで・・・おいてくれ・・・。」
数発分のアザが出来た顔でシバが、力なく言った。
(宿屋の人には、壮絶な戦いをしてこの街に来たとでも思われてるかもしれない・・・。)
などと考えてしまう。

だが、そこでふと気付いた。

(・・・そうか。 もうここはムラサメ領内なんだ・・・。
 カオルさんの話を聞く限りでも、絶対変な行動は取れないな・・・。)






とりあえず早めに休息を取って、翌日。
宿の一室に三人と一羽が集まった。 ベッドの上に地図を広げて。

「さて、それじゃ今後の予定を決めるか。」
「そうね。」
相槌を打ちながら、サオリが大陸の端っこを指差した。

「今いるのがここね。 『港町フラズ』。
 次の目的地までは3〜4日かかるみたいね。」
「そうだな・・・、一応目指すのはムラサメの南にある
 センカの辺りになるな。 マサヤたちに追いつくのも時間の問題だと思う。
 で、ここで一つ問題があるんだが、馬車をどうするか、だ。」
シバが神妙な顔つきで全員を見渡す。

現在使っている馬車は、エルシャを発つ時にユイナから送られた馬車である。
ただ、船で輸送するとなるとお金がかかる・・・しかし、どちらにせよ東の大陸でも
馬車を借りざるをえないだろうから、どちらが得かと言われると悩むところではあった。

「せっかくのユイ様からの馬車な訳だし、持って行ってもいいんじゃないの?」
と言ったのはサオリ。
そのサオリに、シバが一言。
厳しく、鋭く言った。
「サオリさんの買い物の量が少なければ、楽に持っていけるんだけどね。」

・・・・・・・

「え、お金足りないの!?」

サオリの悲鳴が部屋に響いた―――。






結局のところ、ギリギリ足りると言うことが分かったものの、
家計は火の車、東では貧乏旅行は免れないと言うことになった。

「もしかしたら、しっかりした宿に泊まれるのもこれが最後かもしれないのよね・・・。」
「えー、それはサオリが無駄遣いするから・・・」
ぼやきに過敏に反応したサオリが、目でアユミを黙らせた。

「分かってるわよ、その事は。」
独り呟く。
ウェセント大陸最後の夜は、そんな中更けていった。






翌日。

宿の主人から聞いた業者に馬車を預け、港へと歩く。
三人と一羽で街を歩くいつもの光景。
だが、サオリとシバの間に会話は無い。
一人心配したアユミが二人に交互に話しかける、それに対し返事はするモノの
二人の間に溝があるのが、アユミにも分かった。

「今はそっとしとき。」
「うん・・・。」
ジャスの言葉にアユミが力なく頷く―――。

そんな中、港の近くまで来た時、サオリが姿を消した。
「こんな時になにやってるんだよ、サオリさんは・・・。
 アユミ。 俺は船の券買ってくるから、荷物見ててくれないか?」
「うん、わかったー。」
シバの駆け出した後姿を見送るアユミとジャス。
そのすぐ後に、後ろから声がかかった。

「あれ、シバは?」
他でもない、サオリだった。
アユミの肩に後ろ向きに止まったジャスが口を開く。
「どこ行ってたんや? アイツは券買いに行ったで。」

「そう、ああ、ならいいのよ。
 ・・・あ、もう帰ってきた。」
いつもに比べてどうもおとなしいサオリの様子に、アユミは首を傾げる。
そこにサオリの言葉通り、シバが走ってきた。
手には3枚の旅券。
なれた手つきで、アユミ、サオリの順に手渡す。

手渡すと同時に、シバの口が開いた。
「どこ行ってたんだよ、心配したんだぞ!?」
昨日のお金無い宣言以降、彼の口調は厳しい。
その彼に、サオリは無言で封筒を手渡した。

「サオリ、それ、何?」
思わずアユミが口を開いた。 続いてそれを開けたシバも。
「・・・これ、お金か? どうしたんだよ、これ?」
「今まで買った必要無いもの、売ってきたの。
 さすがに大したお金にはならなかったけど。 少しは反省したつもり。
 お金で許してもらってるようで嫌だけど、こうでもしないと気が済まなかったの。」

サオリの言葉から、彼女の申し訳ない、反省していると言う様子がアユミには伝わって来た。
封筒を受け取ったシバも、バツが悪そうな表情を浮かべた。

「あ・・・うん、俺も露骨にあんな態度とっちまって大人気なかったよ。
 ありがとう、サオリさん。」
「あ〜、いいのよ。 荷物が重くなってたし。 船乗るんでしょ?」
「そうだな。 アユミ、自分の荷物を持ってくれ、行くぞ!」
「はーいっ!!」
元気よく、立ち上がるアユミ。
サオリとシバもそれぞれの荷物を持つ、と二人の目が合う。

にやっ。

二人は同時に笑みを浮かべ、そして歩き出した。






「な、結局仲直りしたやろ?」

「うん。 サオリ、昨日の夜本当に気にしてたみたいだったよー?」

「そやろな。
 アイツは見たところだと横暴やし、自分勝手やし、無駄遣いばっかりしとる。
 せやけど、仲間思いで、真面目やからな。
 あと、責任感強いし。」

「そーだよね・・・。 シバにいろいろ言ってるけど、
 時々宿で言ってるんだ、『言いすぎたかな・・・』ってー。」

「まあ、結局素直や無いんやけどな。
 そこがアイツらしいんやな。 シバもそう思っとる。
 そうやなかったら絶対エルシャで別れとったやろな。
 普通の人間やったら、精神もたんで。」

「そーだね。 時々ボクもシバが可哀想だなって思うもん。」

「でもシバ自身、そんなサオリだからええんやろな。」

「・・・やっぱりシバって、サオリの事好きなのかなー。」

「シバにもサオリにも、その事言ったらあかんで。」

「うん、分かってるよー。
 ・・・あ、サオリが来た。」

「何、二人で何の話してんのよ?」

「何でもないよー!」

「あ、ちょっと、逃げるな!!
 教えなさいよ〜ッ!!」



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慧太のつぶやき。

ウェセント編ラスト。 フラズの情勢とかも書こうかと思ったんですけど。
サオリとシバのお話が書きたくなって、結局フラズとあまり関係ない話になってしまいました(笑)。
次回は船上の話にする予定です。
その後舞台は再びマサヤ・ユウジ編へと移す予定。
いよいよ本格的にバトロトス大陸のお話です。
でも受験とかで忙しそうだ・・・。