#25 シバ君の憂鬱(いつもの事?)

野次馬の集まってきた路地をさっさと抜け、
ユウジを先頭に、その後ろに3人が横一列に並ぶ、という隊形で
4人はムラサメを後にしようとしていた。

サキ=ソガベ、彼女は亜人の町ハギノを3年ほど前に出て、それ以降
ずっと傭兵の仕事をして来たらしい。
その彼女が、アキホと出逢ったのは北と東の国境付近。
といっても、そこは陸地ではなく、海峡だが。

しばらくウェセント大陸に滞在していたサキが、フラズ付近が物騒になってきたため
バトロトス大陸に戻ろうと船に乗ったとき、アキホと出会った。
その不思議な雰囲気と、静かな外見、でも内に秘めた何かの決意。
それを見て、この「危なっかしいけど不思議な女性」を守ってあげる事にしたらしい。

サキの当面の目的地は、東の都スザク。
地図を見せたところ、アキホはひとまずスザクの西部にあるユウナギという
海辺の町を目指したいと言った。
ユウナギはスザクに行く途中にある街なので、傭兵としてでは無く
旅仲間として共に行動をしているらしい。

この手の不思議な魅力を持っている人物は、確かに時々いる、とマサヤは感じていた。
特に己の主君、彼女の持っている雰囲気はなんとなくアキホのそれと似ていた。






「は〜、なるほど。 で、さっきブチのめしたのがその追っ手だってことかい?」
「いえ、違います。 北で目撃された追っ手は二人組だったそうなので。」
この情報はイシグロから聞いた物だ。
一応アキホとあった事がある彼が追っ手を目撃して、心配して告げたのが
マサヤとユウジが今ここにいる原因となっている。

「・・・さっきの方々・・・、私を殺してはいけない・・・と言っていました・・・。」
アキホが突如口を開いた。
彼女は現在、マサヤとサキに挟まれる形で歩いている。

それに応えたのは前を行くユウジ。
「ああ、おそらくあいつらはタカマガハラ家が雇った傭兵だぜ。
 あんたを連れ戻して、復権狙う気なんだぜ、きっと。」
「タカマガハラ家って言うと、この娘の実家だね?」
サキの言葉にマサヤが頷く。
「ええ、おそらく追っ手は二種類いるんでしょう。」

再びユウジが続けた。
今度は後ろを向いて、アキホと向かい合う形になる。
「さっき、一瞬だが、路地を出る時に変な殺気を感じた。
 おそらくそっちは、プロだぜ。」
「えっ、それは・・・気がつかなかったですね。
 つまりそっちが、北で目撃された二人組ですよね・・・?」
心配そうにマサヤが尋ねると、ユウジはそのとおりと言いながらまた前を向いた。

「プロ・・・プロか、あんまりヤリ合いたくない相手だね。」
そう言うサキの言葉に合わせて、彼女のしっぽが力無く揺れていた。
それは全員の思うところだったが。

「すいません・・・、私のせいで・・・、こんな事に・・・なって・・・しまって・・・。」
アキホがうつむいて、ぼそりとつぶやいた。 が、それに対し三人は。
「いえいえ、別にいやいや来たわけじゃないですし。」
「そうそう、本当にイヤならとっくに逃げてるよ。」
「俺としてはそんな事より、その途切れ途切れに話すのはイライラするからやめて欲しいぜ。」

三者三様の答に、今まで無表情だったアキホの顔が動いた。

「ありがとう・・・ございます。」
マサヤ、ユウジはもちろん、サキも初めて見た彼女の笑顔だった。






一方、早馬車に乗って、カオル=イイダがエルシャについたのは世界樹の月28日の事だった。

「東の兵士、カオル=イイダでございます。
 お恥ずかしながら、私の亡命を受け入れていただきたく参上いたしました。」
「顔を上げてください。」

カオルの目の前に現れたのは微笑を浮かべた若い女性だった。
噂に聞く、北の王女に違いない。
笑顔を浮かべてはいるが、油断を見せられない、隙が無い。

以前会った、あの北の女兵士とは全然違うタイプだな、と
心の中でつぶやく。

「話は聞いています。 ムラサメ伯の動き、警戒はしていましたが
 放って置くわけにはいきません。 しかし我々の力は微力ですから、
 ハトレ教会、アルデカラーン、リオトレイナなどにも掛け合ってみましょう。」
そう言って、一度彼女はカオルに背を向ける。

そして。

「ところでカオルさん、サオリ達と会ったのよね?」
微笑を浮かべて振り返る、彼女の態度が一変した。

「は? あ、え、あ、会いました・・・おっしゃる通りです。」
思わず、一瞬自分も地が出てしまった。
完全に違う人なんじゃないかと思うくらいの態度の変わり方だった。

と、横にいた神官長が口を開く。
「あまり堅くならなくてもよろしい。
 陛下は寛容なお方だ・・・あまりかしこまっていると怒られる。」
一見厳しそうな神官長だがどうやら、もう諦めた、といった感じだ。

ミカミのほうを向いて、ありがとう、でも陛下って呼ぶのはやめて欲しいのよ♪などと
言っているユイナを見ているうちに、カオル=イイダの中で
幻想のように積み上げられたユイナ=キタミのイメージが、
がらがらがらがら・・・音を立てて崩れていった。
【可哀想に・・・(笑)】←久しぶり天の声

そんなカオルの脳内の事は知らず、ユイナが続ける。
「あの3人、本当に楽しい一行よね♪
 アキラは苦労してると思うけど・・・、3人の様子、
 詳しく教えてくれないかしら♪」
そう言って微笑む彼女は、どことなく、あの女剣士を思い起こさせた。

「しょ・・・承知しました・・・。」
力なく、彼は頷いた。






場面は変わって、再びサオリ一行に戻る。

「これは・・・噂以上に迂回する羽目になったな。」
馬上のシバがつぶやく。
ハトレナを出てから8日たって、ようやくハトレ山脈の中心都市・ハトレアへと一行はたどりついた。
そのハトレアで休息を取り、様々な物資を補給し、情報を集め、出発した直後のこと。

世界樹の月30日。

次に口を開いたのは、アユミの肩に止まったジャスだった。
彼の判断によれば、自分達と同じくらいのスピードで勇者が移動しているようで、
まったく追いつけそうにないらしい。
「シバ〜、このままフラズまで行くんやろ?
 あと半月はかかるで?」
「そうよ、この芝生頭、デクノボー、筋肉ダルマ!!」
サオリもそれに続ける。 言ってる内容はただの悪口だが。

「まあそう言うなよ・・・、別になにも案が無いわけじゃないんだ。」
そう言って、シバが馬を下り、馬車の中に地図を広げた。

「今いるのが、ここだよねー?」

毎日毎日、海と森の繰り返しの風景にも飽きずに元気なアユミが
地図の赤い一点、「宗教都市ハトレア」と書かれた点を指差した。
ハトレアより西側は緑色で塗りつぶされた地域が広がっている。
さらにその西には、「エルシャの丘」の文字。

「エルシャはここか・・・、私達も随分旅してるわね。
 まあ、私とシバは2回目だけど。」
「そうだな。 で、ちょうどハトレアの辺りか・・・、
 いままでずっと海岸は崖だったけど、この辺りから砂浜が広がってるんだ。
 この辺にはいくつか漁村があるらしいんだ、で、あとは・・・」
「漁村で船を借りるって事?」
「ああ、それが1番早いと思う。」

シバの意見に、一同がう〜ん、と頷いたが、すぐにサオリが反論した。
「でも、東に近付くのは危ないからって、ことわる漁師が多いんじゃないの?」
「そうなんだよな・・・、それが問題だ・・・。」

「・・・やっぱりこのままフラズに行くしかあらへんな・・・。」
ジャスの言葉に、サオリとシバが大きくため息をつく。
「現状維持・・・仕方ない、か・・・。
 全部ムラサメ伯が悪いわね、これ。」
「そういう発言、向こうではしないでくれよ、サオリさん。」

「でもボクは楽しみだなー。」
アユミが言った。
二人と一羽が、一瞬ぽかんとする。

「なに言ってんのよ、退屈じゃないの?
 焦らないの?」
「だって、ゆっくり旅してれば、またカオルさんみたいな人と会えるかもしれないでしょ?
 あんまり焦ったら、見えない物もいっぱいあるっておじいちゃんが言ってたー!」
満面の笑みで、力説するアユミ。

「ねー、サオリもそう思うよね?」
アユミの言葉にサオリはしばし考え込み―――

「思わない!!!」

「サオリさん・・・、ぶち壊しだよ。」
シバが力なくつぶやきながら、馬に飛び乗った。

「焦らずか・・・、それしか無いよな・・・。
 でも焦らざるをえないんだよな・・・。」
ひとり、シバの苦悩は続く。

「安全運転で、且つ高速運転で頼むわよ!!」
「わかったよ、サオリさん。」

再び馬車は走り出す・・・。



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慧太のつぶやき。

とりあえずこの話は、5章の後片付けって感じの話です。
ユウジ・マサヤチーム、サオリチームの話を書いたんですが量が少ないので
番外編的エピソードのカオルくんをいれておきました。
久しぶりに登場するユイさんとミカミさんは、キャラクターを忘れてしまって・・・。
次章は、サオリ達はバトロトス(東の大陸)へ。
ユウジ達はユウナギへと行く予定です。