#24 それぞれの道というモノ

「誰さ・・・あんた?」
狼のしっぽと耳、腕や足を薄く覆う銀色の体毛、
ユウジ自身あまり実際には会った事はない、狼人の女性だった。
彼女の物と思われる剣が、数メートル先に転がっている。

「あんたらの味方だ、まあ、信じるも信じないもあんた次第だぜ。」
そう言いながら、ユウジがスキンヘッドから降りる。
マサヤも降りる、と同時に、その二人がむっくりと立ちあがった。

スキンヘッドのダルマの頭に、完全に血管が浮き出ている。
「て・・・めぇ、俺様をコケにしやがって・・・、
 誰かは知らねぇが・・・、ぶっ殺す!!!!」
「・・・この人、やばいですよ、ユウジさん・・・。」
彼らの方を見ながら、マサヤがつぶやいた。

一方のユウジはと言うと、白髪頭の方をにらみつけていた。
白髪はアキホにナイフをつきつけている。 だが、サキの目から見て、
この二人の間の雰囲気は、初対面の物ではない。
何か―――深い因縁のあるような。

「よお、まさかこんなチンピラに成り下がっていたのか、ミッチー。
 髪の毛もすごい事になってるぜ?」
「その名前で呼ぶなといったはずだ。 ユウジ、貴様こそ何をしている。」
二人のやり取りを聞いて、マサヤがはっとする。
だが、凄まじい殺気を発しているダルマを前に背を向けることは出来ず、
白髪が本当にユウジの言う人物なのか確認できなかった。

―――白髪の反応からして、本物のようだが。

ミッチーと呼ばれた彼は、本名をミチヒコ=ヘイケと言う。
かつては、ユウジ達の同僚―――すなわち、元北の兵士だ。

ウェスパ滅亡後、どこかへ行ってしまった、それっきり連絡もなかった。
とはいえ、彼はケルティランという町に両親や家族がいる以上、
そこで元気にやっていると思っていたのだが。

サキが立ちあがり、二人を見据える。
取り囲む四人の男達と、その中央にいる三人、そしてミチヒコに捕まったアキホ、
八人のいる路地は、しばらく時が止まったかのごとく、静寂が流れていた。






「まあ、いつまでも黙ってても仕方ねえな。
 マサヤも、剣士さんも、行けるか?」
突然ユウジに呼びかけられて、女剣士サキはフッと笑みを浮かべる。
信頼できる人物だと悟ったのだろうか。
「悪いけどあたしにも名前があるんだ・・・サキ=ソガベよ。」

「・・・あの、サキさん、出来ればこっち手伝ってください。」
マサヤが槍を構えながらつぶやいた。
ユウジも、そうしてくれ、と頷く。
一方のミチヒコはと言うと、相変わらずにらんだまま。
彼にナイフをつきつけられたアキホは、身動き一つ取ろうとしない。

いよいよぶっ潰す、とばかり、ダルマの鼻息が荒くなっている。
「てめぇら、ミチヒコの手元見えねぇのか?
 一歩でも動いたら、あの女の血が・・・。」
「はあっ、やっぱり脳みそまで筋肉か、分かりきってたけど。」
サキが大げさにため息をついた。
それが合図だった。






一直線に迫るダルマ、それを二人が横に飛んでかわす、
左からマサヤ、右からサキ。 太っちょがダルマの後ろに見える。
それを見た瞬間、マサヤの顔色が変わる。
「なっ、こんな街中で黒魔法を放つつもりか!?」

マサヤは予想していたが、やはり太っちょは魔道士だった。
サキが捉えられる前に自分から動いて行こうとしなかったのも、魔法を唱えるためだった。
そして今回も。

「《サンダーキャノン(雷鳴砲)》!!!」
雷の太い帯が、マサヤを直撃した!
そのまま横の家屋の壁へとマサヤもろとも派手に激突する。
ボロボロだった壁は崩れ去って、中の空家の様子が見えた。

だがその直後、サキの剣が太っちょの肩を切り裂く!
「ぎええ〜っ!!!」
あっさり太っちょはうるさく情けなく大声をあげて、パニックを起こす。
「なぁ、何するんだぁ〜ッ!!! 死んじゃぁうだろぉ〜っ!」

「傭兵仲間として言わせてもらうとね、
 そんなに死にたくないなら、こんな仕事さっさと辞めたほうがいい。」
そう言って、サキがみぞおちに一突きすると、あっさりと太っちょは戦線離脱した。






マサヤはと言うと、魔法が来ると分かっていたために魔法に対してはしっかり防御できていた。
壁にぶつかった衝撃は防げないが。
いてて・・・、と立ちあがったそこには、ダルマがいた。

「おいガキ、今死んでたほうが楽だったんじゃねぇか?」
「今の魔法で、一般人が巻き込まれたらどうするんだよ?」
マサヤがぼそりとつぶやく。
それを聞き、ダルマの顔がにやけた。
「別に、あの女さえ無事なら何人殺してもいいと言われたからな。」

「そんなの・・・、間違ってるよ。」
マサヤが小柄な体格を活かし、ダルマの懐に一気に滑りこむ。
突進する形でダルマの腹を槍がついた―――が。

「効かねぇな、そんななまくら槍なんてよ。」
槍が抜けない。

ダルマは驚くべきことに、刺さった槍を腹筋で止めていた。
血は微かに流れているが、全く傷みを感じている様子がない。
確かにマサヤの力は弱いとはいえ、こんな相手はほとんど見た事がない。
あのベンケイくらいでないと腹筋で刺さった槍を止めるなんて無理だろう。

「さてと・・・、じゃあ死んでもらうか。
 それとも、奴隷として売っぱらうか?」
「冗談じゃない。」
再びマサヤがつぶやいた。

そして、キッとダルマをにらみ、叫んだ。
「石よ、今こそわが声に答えよ!!
 《アイシクル(氷雪)》!!」
叫ぶと同時、マサヤの矢の穂先―――つまりダルマの体内にある刃―――が
青い光を放ち、ぴしぃッ、と言う音と共にダルマの腹部が凍りつく。
「な、なんだこりゃあっ!!? てめぇっ!?」
そこまで言って、殴りかかろうと一歩歩み寄って、ついにダルマの巨体が倒れた。

マサヤの槍の刃の部分は、実は魔石で出来ていた。
石導印のプロ・霊術師のゲンゾが作ってくれた物で、持ち主の呼びかけで
封じておいた簡単な魔法を発動する「魔発石」と言う使い捨ての魔石だ。
今魔法を発した魔石は、溶けてなくなってしまっている。

しかし、巨大なイノシシでも内部からの凍結攻撃には一撃で倒れるにもかかわらず
今のダルマは数秒とはいえ、それに保っていた。
(タフというか・・・バケモノというか・・・。
 いや、バケモノなら・・・僕も同じかもしれないな。)
穂先のなくなった槍を手に持ったまま、マサヤはそんな事を考えていた。






ユウジはミチヒコとガリガリと向かい合ったままだった。
後ろで他の二人がそれぞれの相手を倒したのが伝わってくる。
それを見て動揺したのか、ガリガリの表情が一気に変わった。

「・・・来るなら来いよ、その方がありがたいぜ。
 一応脅しちゃいるが、結局のところお嬢さんを刺す事なんて出来るわけないはずだぜ。
 殺したら、意味ないからな。」
ユウジの指摘は的確だった。
ミチヒコに、アキホを刺す意思はなかった。

「頭の中まで老化してるぜ、ミッチー?
 分かってるだろ、俺にそんなハッタリ通用する訳無いことくらい。」
ミチヒコは答えなかった。

そして、無言のままナイフをしまうと、アキホをユウジの方へ突き出した。
「行け。」
そう言って、倒れている二人をなんとか持ち上げると、そのまま彼らは去って行った。






最初に言葉を発したのは、意外にもアキホだった。
「あ・・・、ありがとう・・・ございます。」
「あたしもお礼を言わせてもらおうかね。 ありがと。
 ところで、自己紹介してもらおうか?」
サキの言葉に、ユウジが頷く。

「俺はユウジ=ナカザワ。 こっちがマサヤ=ユキハラ。」
そこまで言って、後は任せた、とマサヤのほうを見る。

「アキホさん、お久しぶりです。」
「あなたは・・・、あの時の方・・・ですね。」
とりあえず覚えていてもらったので、マサヤがホッと胸をなでおろしていた。

そして、彼がただの棒になってしまった槍をしまいながら言った。
「ちょっと話すと長くなるんですが・・・とりあえず移動しながら話しましょうか?」



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慧太のつぶやき。

なんか文が変になって来た・・・。
大丈夫かなあ、こんな調子で・・・。

それより不安なのがサキのしゃべり方。
これがちょっと難しいんですよ。 サオリと区別がつくようにしたんですが
なかなかこれが・・・。