#23 彼氏達の旅

世界樹の月21日のこと。
時間的には、サオリたちがハトレナを出発した翌日。
彼女たちが、魔氷の森を東に迂回している頃の話です。

その夜。

「チサトさん、ミノリさんどうしましょうか?」
「ああ、ほっといていいわよ、そのうちお迎えが来るから。」

「・・・お迎えって・・・、見捨てるんですか?」
青ざめながらヨシ。
イシグロが黒水晶を換金して戻ってきて、おごると言うので
ベンケイ・ミノリ・イシグロ・ハヅキの4人でお酒を飲んでいたはずなのだが、
現在残っているのはミノリとハヅキの2人だけ。 男たちは見まわりに行ってしまった。
(ほろ酔いのまま・・・。)

そしてミノリは撃沈してテーブルに突っ伏している。
「ハヅキさ〜ん、どうしましょう・・・。」
「フフッ、なら、一晩くらい泊めてあげたらどう?」
「イヤ、そうすると俺の寝る部屋が無くなるんですよ〜っ!!
 ハヅキさん、婚約者のユウジさんがいないんだから泊めて上げて下さいよっ!」
金髪を振り乱しながら必死でそれを拒否するヨシヤス。

と、そのミノリが突如としてうめき始めた。

「う・・・うう・・・。」
「ちょっと、大丈夫? まさか寝ゲロなんて言わないわよね!?」
洗い物の手を止めて、一気にチサトが駆け寄った。
ヨシヤスとハヅキもミノリの元へ歩み寄る。
ヨシヤスは念の為、隅に合ったバケツを持って。

「うう・・・あ・・・。」
更にうめき続けるミノリを見て、ハヅキも酔いが冷めたように心配そうな表情を浮かべる。
「何か薬持って来たほうがいいかしら・・・?」
このハヅキは薬学と魔物生物学を研究していて、ウェスパから逃げてきた時に
ラボの荷物も持てるだけ持って、現在も研究を続けている。

3人が見守るなか、ミノリがまたも無意識に口を開き、そして―――

「う・・・ああ、マーサ、ダメだよ、そんな、恥ずかしい・・・。」

ばきっ。 どさっ。

チサトがミノリの座っている椅子を蹴り飛ばす音と、
ミノリが床に転げ落ちる音が立て続けに響いた。

「ミノリちゃん・・・夢の中でも幸せ者なのね。」
「ああ、幸せ者ですね・・・。」






そして、その頃、その女二人の恋人たちは・・・。

東の国北部の大都市・ムラサメへとやってきていた。
もう既に夜なので、さっさと宿を取る事にしたのだが。

「ああ、そんな女性なら昨日来たよ。
 もう一人、狼人の女の人もいたけど。 別の宿に行ったんじゃないか?」
この宿の主人の一言で、ユウジの発案により、とりあえず宿を取って
もう少し遅くまで情報を集めようと言う事になったのだった。

「しかし、なんだ・・・。 ここは・・・大都市ならよくある事とはいえ、
 ちょっと奥まで来るとこうだぜ。 スラム街って奴だ。」
「アルデカラーンとかにもありますけど、あれとは規模が違いますね・・・。
 まあ、あの街の方は仕事にあふれているって言うのもありますけど。
 ・・・こっちの方に彼女が来たとはあまり考えられないですけど?」

マサヤの言葉に、しばらく考えたがユウジが反論した。
「いや、でもひとりじゃないみたいだぜ? 狼人の女って言ってただろ?
 まあ東に入ってから知り合ったんだろうが、傭兵か旅人かなんかじゃないのかって思うぜ?」
亜人は、人間系の亜種全体の総称―――種族は本当に様々だが、主な物としては
元々は獣憑きの一種らしい動物系・・・オオカミと人間のハーフの狼人族など、
身長3メートルを超える巨人族、逆に身長30センチほどの小人族、
おなじみの人魚族、地中に住む土人族などなど・・・。 数え切れない。

「傭兵がいるからって、こっちへ・・・?」
「・・・ここの伯爵はウェセントに侵攻する気満々って事、忘れたとは言わせないぜ。
 俺らは東系の服―――なんか動きにくいぜ―――を着てごまかしてるけど、
 着替える前は、フラズを越えた辺りから視線が痛かったぜ。」
そう言うユウジとマサヤの二人の着ているのは、いわゆる着流しのような物。

「確かにそうですね。 これだけごちゃごちゃしていればファラの刺客からも隠れやすいでしょうけど。
 でも、逆にここならではの敵もいますよ?」
と、マサヤが言った直後。
二人の前に見るからに不健康そうな男が三人、後ろにも二人。
手には棍棒や酒瓶、角材など様々な物を物騒に握っている。

「お、お、お前ら、た、た、旅人だな?
 こ、こ、こんな所に迷いこんだのが、う、う、運が悪かったなぁ?」
酔っているからなのか、弱っているのか、口癖なのか、良くは分からない。
前の三人の真ん中の、大柄でスキンヘッドの男が、フラフラと近寄ってくる。
「ったく、やってられんぜ・・・。」
ユウジがつぶやく。

その直後、5人が次々と手に持った武器を振り下ろし、突撃する。
まずは左前の男が。 だが、距離を見誤っている。
ユウジが右に一歩進み出るだけで、派手に頭からつんのめって行った。
同時に、手に持っていた角材が落ちる、それを拾ったユウジがマサヤに投げる。

受け取った瞬間、向かってきた右後ろの男の腹を一突きする。
両手で構えた武器を振り下ろす前に、無防備な腹を突かれ、太ったその男は壁へ激突。
と同時に、マサヤは向きを変えずにその角材を後ろへ突いた。
槍で言えば、柄で突いた形になる。 背の低いマサヤが低い体勢で突いたため、
左後ろの痩せた男の股間を木材は直撃していた。

「あ、ごめんなさい、見ないで突いたから・・・。」
思わず、マサヤが顔を赤らめた。

一方、角材を投げたユウジに右前の男から酒瓶が飛んでくる。
受けとめようかとも思ったが、難しそうなので左へ飛んでかわした。
が、偶然にもつんのめっていた左の男の背中に着地してしまう。
「う、うおぉっ!?」
派手に尻餅をつくユウジ。

「し、し、死にやがれっ!!」
例の真ん中の男が、棍棒を振り下ろす!
どごっ、と、イヤな音がした。 恍惚の表情を浮かべ男が下を見ると。

そこには棍棒で殴られて、今度こそ完全にダウンした左の男がいた。
「ったくよ、絡むなら実力ってもん確かめるべきだぜ。」
後ろから声がした。
男が振り向くとそこには、いつのまにか倒された右前の男を踏みつけて
ユウジが立っていた。 槍代わりの角材を持ったマサヤも一緒に。

「お、お、お前忍者か?
 い、い、今のは、か、か、変わり身か?」
「本気出して動いただけだぜ。」
そう言って、瞬時に彼の後ろへと回りこみ、短剣を突きつける。
「なあ・・・、俺達、人探してるんだ。」






あっさりと情報を聞き出し、女二人が泊まっていると言う宿屋の前へと男二人がやってきた。

「あんなチンピラにも噂が広がってるのなら、すぐ狙われますね・・・、たぶん。」
マサヤがため息をつきながら言った。
やはり、スラム全体に彼女達の噂は広まっていた。
ファラの刺客もすぐに見つけるかもしれない。

といっても、表の市民街では全く噂がなかった以上、そうとも言えないが。

「まあ、俺らはここで見張りといこうぜ。 1時間交代な。」
「了解。」
とった宿はキャンセルして、その日はそこで睡眠となった。






翌日、ムラサメのスラム街を、4人の男が歩いていた。
スキンヘッドの筋肉巨人。 ガリガリにやせた不健康そうな男。
若いが頭は完全に白髪な男。 背が低い太っちょ。
あきらかに、怪しい。 怪しすぎて、誰も絡もうとはしない。

「いたぞ。」
白髪の男が言った。 その先には、長い黒髪の女性と狼人の女戦士がいる。
ちょうど二人が、近道をしようと路地へ入っていったところだった。
四人は顔を見合わせると、何も言わずにそちらへと進んでいった。

「・・・来ました。」
「意外と遅かったね。 あたしゃ待ちくたびれたよ。」
二人が思い思いに口を開く。
彼女達の前には、スキンヘッドと白髪。 後ろからガリガリと太っちょ。

「サキさん・・・本当に、大丈夫・・・ですか?」
アキホが心配そうにつぶやいた。
それに対し、東の国に入った直後に知り合ったこの女傭兵―――
サキ=ソガベは、いつもの調子で言った。

「任せておきな、こんな不健康そうな奴ら、あたしの敵じゃあ無いさ。」

「不健康ねぇ、この俺様の立派な体躯のどこが不健康だってんだ?」
と言ったのは、スキンヘッド。
「そうだねぇ、頭かな?
 外見も、もしかしたら中身も不健康かもしれないねぇ。」

「このアマッ・・・!」
スキンヘッドの頭に血管が浮き出る、今にもサキにつかみかかっていきそうな彼を制し、
白髪の男が言った。
「私達の役目はそこの彼女を家に連れ戻す事だ。
 彼女以外の邪魔者には、どんな手荒な方法も使っていいとの事だ。
 女、逃げるなら今のうちだぞ。」

「ぐふっ、狼人の女奴隷なんて言ったら、南のオヤジどもが高値で買ってくれそうだぁなぁ。」
下品な言葉を口にしながら太っちょがよだれをたらす。
それをサキがキッとにらみつけた。
それに対しても、太っちょはひるむ事はない。
「へへぇっ、いいなぁ、その表情ぉ。」






「あんたらみたいな変態にやられるほど、あたしゃヤワじゃないんだよ。
 ほら、来なよッ!」
サキが叫ぶと同時、スキンヘッドと黙っていたガリガリが一気に飛び出した。
白髪も来る。

真っ先にサキを狙ってきた二人のうち、スキンヘッドの打撃は跳んでかわし、
ガリガリの懐から取り出したナイフは剣で弾き飛ばした。
ガリガリは素早そうだが、見た目通り力が無い。 スキンヘッドは逆だ。

そのまま蹴りで、ガリガリをふっとばす。 うげぇっ、と声を立てて、壁に彼がぶつかった。
サキが後ろを向いた瞬間、彼女の目に飛び込んできたのはアキホへ迫る白髪の姿。
(しまった、アキホの確保が彼らの・・・!!)
おっとりした動作ながら懸命に逃げるアキホだが、すぐに白髪に捕まる。
「アキホッ!」
その瞬間、スキンヘッドの拳がアキホの横腹を捉えた。
鎧越しに、衝撃が響く。
「うあっ!!」

「無様だな、俺の悪口をいいやがった罰だ。」
「ダルマ、殺すなよぉ、後で売るんだからなぁ。」
「分かってるよ、だが、二度と抵抗しようと思わねえよう、散々いたぶってやろうか・・・?」
ダルマと呼ばれたスキンヘッドと、太っちょがサキを押さえつけ、
残りの二人がアキホを。

と、その時、
地面に押さえつけられたサキの目に、建物の上から姿を表した人影が目についた。

そして、彼らは建物から飛び降りて・・・

「がはっ!!」
「うげぇっ!」
着地したのは、ちょうどダルマと太っちょの真上だった。

ユウジが言った。
「男ってのは・・・、女を護る物だぜ。
 それがたとえ、どんなに強い女でもな。」



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慧太のつぶやき。

サキ=ソガベ登場〜。
ユウジさん活躍の巻です。 サオリはモドキだとかチビだとか(ユウジはサオリより背が低い)
馬鹿にしてますが、格好いい奴です。 語尾が気になるけど。(笑)
戦闘シーンが増えてきました。 久しぶりです。
マサヤは町の中で魔法ぶっ放すわけにはいかないので、おとなしめですが。
悪者軍団は変な奴らにしたかった・・・。