#22 ムラサメ伯タクミ=シラカバ

「どう思う?」
「どうって・・・、さっきの話か?」
「それ以外に何があるって言うのよ。」

「・・・そうだな。 とりあえずムラサメに行くか行かないかだな。」
「微妙に答になってない気がするけど。
 ・・・無理に行く必要もないんじゃないの? フラズから船で
 ムラサメの南のセンカの街の近くまで一気に行っちゃいましょう。」
「え、でもー、3人目の勇者は探さなくて大丈夫なの?」

「・・・忘れてたわ。」
「忘れんなや・・・。
 安心せい。 もっと南に2人感じる。
 北にいたやつは知らんけど、とりあえずそっちを目指すんがええやろ。」

「決まりね。」
「行くか!」
「おーっ!!」






時間は再び遡り・・・
ハトレナで出会った東の兵士は、シバの推測通り
フラズの町から逃げてきたとのことだった。

「逃げてきたわけじゃない、俺は北の女王に報告しに来たんだ。」
「分かったわよ・・・、で、なんでそんな事になったわけ?」

サオリの問いに、兵士は一瞬口篭もったが、

「俺は、仲間数人と一緒に都からフラズへ異動になったんだ。
 ムラサメ伯によって手に入った初めてのウェセントの土地だったわけだが・・・。
 東の王家としては、ウェセントへ領土を広げるつもりなどなかった。」
それを聞いて、シバの表情が変わった。
「じゃあ、アレはシラカバ伯の独断ってことか!?」
「そういうことだ・・・。」

沈んだ表情のまま彼は続ける。
「シラカバ伯・・・いや、シラカバは危険な男だ。
 一部では熱狂的な信者がいるみたいだが、俺の眼から見ても奴はヤバイ。
 いずれ、東の国を乗っ取る危険性すらある。」
「乗っ取り!?」
アユミが思わず声を上げてしまった。
シバがすぐに彼女の口を押さえる。

シバ自身、動揺が隠しきれない様子で言った。
「しっ、あんなでかい声で言うなって。
 ・・・しかし、野心のある男とは聞いていたがこれほどまでとは・・・。」

「続きは?」
サオリの言葉に、兵士が口を開く。
「ああ。 話を戻すが、王家の意思を俺は街を治める騎士隊長に伝えた。
 そうするよう言われていたからな。 だが・・・。」
そこで、止まった。
「もしかして、捕らえられたって事?」
サオリの言葉に、力無く兵士が頷いた。
だが、その表情には怒りがあふれていた。

「偽報を伝えたと言うことで、謀反の罪だと言いやがったよ。
 幸いにも処刑される前に、仲間たちの手助けで脱出できたが。
 その仲間たちは王都スザクへ向かった。
 俺は国にいれば捕まる危険があるからと言うことで、北の王女に会うことにした。」
淡々と話す男の表情は、徐々に怒りの色は消えてきたが、屈辱を拭い切れないと言う顔をしていた。

「西は王都が鎖国体制だ。 周りに何が起ころうと知ったこっちゃ無い。
 南は連邦国家が出来て300年になるが・・・中身は腐敗している。
 ・・・国が滅びたとはいえ、人材的にも北しか頼れる場所は無かったんだ、俺には。」
「なるほどな・・・。」

話の終わった兵士は、今度は不思議そうな表情で一行を見た。
「ところで、あんたたちは何なんだ?
 北の兵士だったって言ってたが、さっき俺を連れてきた奴
 あれ精霊だろ・・・? 第一そんな子どもやしゃべる鳥って、変な一行だな。」
「へ・・・変とはなんやぁ!?
 俺のどこが変なんや!?」

「全部よ・・・。」






その後、サオリ達は現在の状況を話した。
エルシャのこと、ユイナのこと、八勇者のこと。

その後聖堂の司教に会った結果、彼はハトレの力を借りてエルシャへと向かう事となった。
ハトレの僧侶の中には戦士としての実力の高い者も多いため、心配は無いだろう。
(代表例・ベンケイ)
国に戻れそうもないと言う事なので、エルシャに住んだらどうだ、とう言う事にもなった。
元々そう言うわけありな人ばかり残っているから、大した影響ないわよ、とサオリ。






翌日、出発前にハトレの聖堂の前で兵士との別れとなった。
兵士はあの鎧では目立ってしまうので、現在は神官のローブを着ている。
なんとなく、変だ。

「逆方向だからこれ以上は力になれないが・・・。
 ユイ様にくれぐれも粗相の無いようにな。」
「ああ、色々とありがとうよ。
 フラズはちょっと不安定だ。 だが、ムラサメに行くのは危険かもしれない。
 北の民だっていうなら尚更だ。 最近ピリピリしてるからな。
 都を目指せ。 俺の仲間にあったらよろしく言っておいてくれ。」
「覚えてたらね。」
ふふっ、と笑いながらサオリが返す。

「ねー、兵士のお兄さん。
 そー言えば、名前聞いてなかったよね?」
アユミの声に、シバもふと思い出したように言った。
「そう言えばそうだな。
 俺らも名乗った覚えがないけど・・・。
 俺はアキラ=コマツザキ。 みんなはシバって呼ぶ。」

「私はサオリ=イガラシ。
 こっちの子がアユミ=ハセガワ。 あ、女の子だからね。
 で、この漫才鳥がジャス。」
「漫才鳥ってなんやぁっ!!?」

一行の自己紹介が終わると、全員の視線が彼一人に向けられる。
「あ・・・ああ、いや、俺は名乗るほどの物でもないよ。
 東の黒魔道剣士、それでいいだろ?」
ちなみに、魔道剣士とは魔道士としても剣士としても戦える、
『どっちつかずのことよ。』
【サオリ、そりゃひどいぞ・・・。】←天の声

「よくないわよ。」
「よくなーい!!」
「・・・、この2人怒らせる前に名前言ってくれないか?」
三者の対応を見せられ、さすがに兵士も困り果てた。

「分かったよ、あのな、俺は自分の名前言うのが嫌いなんだ。
 カオル=イイダだ。 いいか、二度は言わない。 ファーストネームでは呼ぶなよ。」

「なんか女の子みたいな名前だね。」
悪意のない笑顔で、アユミ。

またも力無くうなだれ、カオル=イイダがつぶやいた。
「だから言うのいやだったんだよ・・・。」

そして顔を上げ、
「じゃあな、エルシャでまた会おう。
 旅、頑張ってくれ。」
「それまで元気でね、カオルさん〜。」
悪意のある顔で、サオリ。
「だから名前で呼ぶなっ!!!」






そして、時間は元に戻り、
世界樹の月20日、ハトレナを経った一行は
馬車に揺られながら魔氷の森を迂回する形で北へと向かっていた。
さらにそのまま海を北へ迂回する形で東へ向かう。 ウェセント大陸最東端の港町・フラズへ向けて。

東の大陸・バトロトス大陸は南北に長い。
北側は山、山、山。 赤龍牙(せきりゅうが)の大山脈と呼ばれる山岳地帯。
中央部は平原地帯で穀物生産も盛ん。 都・スザクもここにある。
南は人が少なく、神聖視されている場所が多いと、とにかくいろいろな面を持つ大陸だ。

大陸の東北東に位置するムラサメを中心としたエリアに近寄るのは危険、と判断したため
その南のセンカを目指す。
一応、目的地はスザク、そして「亜人の町」ハギノ。
もちろん、南のほうにいる勇者を探さなくてはならないので、極東のハギノに行けるかは分からないが。

と、その時。

「あ・・・あれ? なんだろ、あの砂煙。」
馬車の前のほうに座っていたアユミの声に、馬上のシバが目を凝らす。
「・・・サイだ。」

そして数秒後、正面・つまり東の方角からやってきた爆音と共に
一頭のサイが彼らの馬車の横に急停止した。
もう分かりきった男がそこから降りてくる。
「よぉ、元気だったか〜?」
「ヒデ・・・。 あなたの登場、心臓に悪い。」
「そりゃねえよ・・・、しかし、久しぶりだな。
 この間エルシャに帰ったんだろ、俺は用事あったからいなかったけど。」

赤いバンダナをつけたヒデが笑っているところに、馬から下りたシバが口を開いた。
「ヒデさん、東から来たって事はもしかしてマサヤたちと会ったとか?」
その言葉に、サオリもアユミもはっとした。
「ああ、シブキの街で合流して、エルシャへの手紙を預かった。
 お前らにあったらよろしく言っておいてくれってさ。」
「・・・シブキ!?」

サオリが思わず声を上げた。
シブキの街はムラサメの北。 2人は危険区域に自ら突っ込んで行っている。
「大丈夫かしら・・・?」
「なんの話だ?」

ヒデは知らないようなので、一応シバが説明する。
別に俺は平気だったけど、とヒデは言っていたが、
(そりゃ、音速のサイがあるし・・・、あれある意味凶器よ。)
と、口には出さなかったがサオリは心でつぶやいた。

話が一段落したところで、ヒデは再びサイにまたがる。
「じゃあ俺は仕事があるから。 なにか手紙とかあるか?」
「今はないよ、でも、さっき話したカオル=イイダって言う東の兵士が近いうちにエルシャへ行くから
 保護してあげてくれって伝えてくれるとありがたいんだけど。」
シバの言葉に、ヒデが頷いた。
「分かった。 サオリ、アユミ、シバ、んじゃ元気でな。」

ヒデがサイのジョセフィーヌ(←名前)に乗って、
砂煙を吐き出して見えなくなって行くのを眺めると、再び馬車は動き出した。






「あ、そういえば。」
「どーしたの、シバ?」

「なんでヒデさん、俺のあだ名知ってたんだろう・・・。」
「エルシャの誰かがチクッたんでしょう。
 たぶん、ミノリかチサトが。」

「ああ・・・、ありうるな・・・。」



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慧太のつぶやき。

妙に書く速度が早い。
これ一回の更新で書いたんですけど(アップするのは例によって一章まとめてだけど)
夏休み最後なのに、テスト勉強しないで書いてる俺って・・・。
ところで、ヒデ久しぶりですね。
前回の登場ではセリフ1回しかなかったから、キャラとしては
「サイに乗ってる」「ミノリの兄」しかなかった・・・。
サイの名前はきっとミノリがつけたんでしょう、きっと。(笑)