#20 そして。

「はっくしょん!!」
「マサヤ・・・、風邪か?」
「いや、別に違いますけど。 誰か噂してるのかな・・・。」

エルシャの東に広がる魔氷の森。
馬にまたがり2人の男が走る。
ひとりは青い髪の魔道士、もうひとりは刀を背負った黒髪の青年。

足元はそこら中に、好き勝手に大暴れした木の根っこ達であふれている。
まあ、彼らにはそんなのは慣れた物なので、苦にはならない。
この調子なら、それほどしないうちに目的の女性には追いつけるはずだ。

黒髪が口を開く。
「噂か、きっとミノリだぜ。」
「ユウジさん・・・、それ以上言ったら
 至近距離で《アイシクルキャノン》ぶっとばしますよ。」

「お前が言うと冗談に聞こえんぜ・・・。」
馬に乗ったまま器用に左手で煙草を吸いながら、ユウジがつぶやいた。






秋葉亭のドアを開けると、そこにいたのは老人だった。
「おや、アユミちゃんじゃないかい。 何にする?」
「おじいちゃん、チサトさんは?」
おじいちゃんと呼ばれた老人、彼はチサトの父親である。
今年で76歳。 妻は73歳。 チサトは今年で19歳。

【・・・つまりチサトさんは57歳と54歳の時の娘?】←天の声

ちなみにアユミの祖父は68歳なので、ある意味すごい世界のような気もするが。

すっかり頭は禿げあがって、顔もしわだらけだがまだまだ元気そうなご老人だが、
無理はいけない、と、現在は店はチサトが継いだ。
時々手伝っているが。

そのチサト父が白い髭をはやした口を開いた。
「あいつは今朝早く、サオリちゃんと一緒にアルデカラーンに買いだしに行ったぞ。
 聞いてなかったかい?」
「アルデカラーンって?」

そう聞かれ、一瞬の間。

「・・・お、そうじゃったな、
 アユミちゃんは西の人だからな、この辺の地名は知らんか。」
―――と、チサト父は解釈しているが、ちなみにアユミは西の地名すら
良く分かっていない事を一応補足しておく―――。

「ここから西へ行った所にある、でっかい商業都市でな。
 人が大勢いる。 ラフォニアの倍以上はいると思うぞ。」
「ほ、本当!? ボク行ってみたいなー。」
その様子を見て、チサト父も微笑む。
「何、旅をしていればそのうち行く機会があるじゃろ。
 しばらくはゆっくりしていきなさい。 ここはいいとこだぞ・・・。」






外に出ると、丘のふもと、家にぐるっと囲まれた中央広場に見慣れた男がいた。
「あ、シバー!!」
「おお、アユミ・・・、本当にこのあだ名になっちまってるのか・・・。」

広場の真ん中の泉のそばにたたずむこの大男は
なんと言ってもアユミに取っては頼れるお兄さんだ。

とてとて、と音を立てアユミが走りよって来る。
ちなみにシバ自身も何度か目の当たりにしたが、アユミは本気を出せば
シバより足が早い。
最初に見た時は、さすがのシバもちょっとへこんだ。

「ねー、シバはこれからどーするの?
 一緒に旅は続けるの?」
「ああ・・・、ちょっと考えてた。
 1年以上ずっと旅してきて、結構自分を見直す機会にはなったよ。
 だけど、やっぱり帰る場所はここなのかな、って思った。
 故郷はなくなったけど、みんなはいる訳だしな。」
よっ、と言って、どすん、腰を下ろす。
アユミもそれに倣った。

「アユミ、お前、辛くないか?」
突然のシバの質問に、アユミはその大きな目を更に大きくした。

「いきなり勇者なんかにさせられて、育った村後にして。
 旅したかった気持ちはわかるけど、ある意味旅は命がけなんだ。
 大丈夫なのか?」

そう言われ、アユミは泉に映った自分と向かい合っていた。
しばらく考え込んだ様子だったが、突如立ちあがる。

「大丈夫だよ、シバと一緒だよ。」
そう言って、駆け出していった。
後にはシバがひとり残される。

「俺と一緒・・・?」

と、つぶやくシバの頭上に1羽の鳥が止まった。
「悪い、聞かせてもろたで。」
ぴくっ、とシバの額に筋が走った。
「盗聴は犯罪だ。」
ジャスを頭上から引っぺがして、とりあえず逆さ吊りにしてみた。(笑)

そのままの状態で、ジャスが口(嘴)を開く。
白鳩のはずだが、そのしゃべる様子はまるでインコだ。
「すまん、盗み聞きするつもりやなかったんやけどな。
 さっき言うとったやろ、故郷は無くのうたけどみんなはおるって。
 アユミも、ひとりやないから大丈夫なんや。」
「そうか・・・?
 なるほどな、仲間か・・・。」
走り去っていった方角を見ながら、シバがつぶやいた。

だが、シバが心配なのはそれだけではない。
彼女はまだ幼い。 この先旅をする以上、親しい友といつ別れが来るかわからない。
しかも、最悪の形で。
そうなった時、大丈夫なのか?
いや、逆に彼女自身、それほどの窮地に陥った時どうなってしまうのか。
ついこの間までただのひとりの村の少女でしかなかったのに。

「・・・、やっぱり俺がいないとダメだよな。」
「そやな。
 ところで早よ解放してくれ。」






まだ昨日飲んだ酒が残っているのかもしれない。
頭が痛い。
その頭を抱えながらベンケイ=ジンマが外へ出ると
そこにいたのはゲンゾウ=タミヤだった。

「遅いお目覚めだったな。」
「・・・どこ行ってたんだよ、一昨日みんなで出迎えたあと
 姿消しやがって。」

「何、色々あってな。 ところで例の件の情報がつかめたぞ。」
無表情で語る事の多いゲンゾが、にやりと笑って言った。
「そうか、じゃとりあえず中入れ。 酒でも飲もう。」
「おい・・・、まだ飲むのか・・・。」

・・・・・・・

「で、タツヤは?」
「東らしい。 詳しくはわからないが。
 とりあえず、南に言ったと言う情報は全く無かった。
 これは確かな情報とは言えないが、ハギノで
 それっぽい男を見たそうだ。」
すらすらと、ゲンゾは知り合いの情報屋から得た文を読み上げる。
酒瓶を握ったまま、ベンケイも頷く。

「よし、あとでサオリに教えてやるか!」
ちなみにさっきまで外にいたゲンゾは、サオリが買いだしに言った事を知らない。
ベンケイも寝ていたので、もちろん知らない。

再び酒に口をつけ、口を開くベンケイ。
「しかしハギノか・・・。 東の国の東部、極東か。」
「詳しいな。」
意外な一面を見た、と言うようにゲンゾがつぶやいた。

「一応こう見えても東の出身なんだよ、俺は。」
酒瓶を空にしてしまったベンケイが言った。
「しかし確か故郷のムラサメに帰った事はないな、お前は。」
「なんだよ、覚えてるじゃねえか・・・。
 俺にだって事情があるんだよ。」
そうゲンゾに言い返して、卓に突っ伏す

そのまま派手にイビキを立て始めてしまった。

(フ・・・、事情か・・・。)






それから3日。

「遅いぞ、サオリさん。」
「男と違ってほぼ手ぶらで出かけられはしないのよ、女ってのは。」
と、ぶつくさ言いつつ、荷物を持って歩み寄ってくるサオリ。

エルシャ住民のほぼ全員が見送りに来ている中で、
ユイナ、イキザ、ミカミの3人が1歩前に進み出た。
「もう少しゆっくりするって言うのもよかったんじゃないのか?」
1年前に比べてますますヤクザ顔なイキザが口を開く。

と、それに返すのはシバ。
「そうも言ってられませんよ。
 一応、東を目指すと言う事で、マサヤ達に追いつけたらいいな、
 って思ってますし。」

「言っておくが、あの情報は確かとは言えないからな。」
「分かってるわ。」
横から口を挟んだゲンゾに、サオリが厳しい表情で返す。

「でも1%でも可能性がある以上、行ってみるしかないわ。
 この目で確かめない限り納得行かないもの。」
「お前らしい・・・。 安心したよ。」
そう言うとゲンゾは人々の後ろへ下がって行ってしまった。
横にいたベンケイが、相変わらずよく分からんやつだ、と
ぼそりとつぶやく。

・・・・・・・

「ねー、ミノリは来ないの?
 マサヤと会えるかもしれないよ?」
無邪気な笑顔のアユミの前では、サオリに対するようには
怒鳴れない。 困った表情のままミノリが口を開いた。
「別にいいのよ。 それにアイツはこれくらいじゃ死にはしないわ。
 待ってれば帰ってくるもの。 だから大丈夫。」

「なによ、ナンダカンダ言ってやっぱりマサヤの事がまだ・・・。」
「シャオっ!!!」

・・・・・・・

最後に口を開いたのはユイナだった。
「サオリ、アキラ、アユミ。
 私はここで待つ事しか出来ないわ・・・。 でも、
 私は私のできる事をやるつもり。
 あなた達の無事、ここで祈っているわね♪」
『はい!!』






世界樹の月7日。
春の風が吹いている。
勇者はしばしの休息を終え、再び旅立つ。
辛く厳しい旅路へ向けて。



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慧太のつぶやき。

よっしゃ終わった〜!!!!!
長かった。 って言うかヒマがなかった。
本気出せば1話くらい一日の更新で書けるんですけどね。
設定考えたりしてたら受験勉強とかもあって
PC触れなかったり・・・。 とにかく、
これからいよいよ本格的に旅スタートです。