#19 ただいま、のエルシャ

それから10日が経った。

ついにその時が来た。






「ユイ様・・・!! お帰りなさいませ!」
エルシャ=フィオの自警団・ライジングサンの隊長―――
―――元スノーノウェスパ副兵士長―――・リョウスケ=イキザは
1年以上待ちつづけた言葉を叫んだ。

二人の女性がサオリへと抱きついた。

霊術師ゲンゾと僧戦士ベンケイは逞しくなって(苦労して)帰ってきたアキラを囲んで
再会を喜び合う―――。

誰もが、待ちつづけた再会だった。






世界樹の月2日。

「そう、この子がアユミなの。
 小さいのに大変な事になったわね。 あ、紹介が遅れたけど
 私はチサト=サカジョウ。 チサトでいいわ。 サオリの腐れ縁よ。」
「そうね、腐れ縁なのよね。」
チサトの言葉に、目に火を燃やしてサオリが頷く。
秋葉亭には、サオリ、アユミ、チサトを初めとした何人かが集っていた。
ユイナは現在神官長を務めるキョウヘイ=ミカミらとともに王家屋敷(城ではない)へと向かったため、
残されたサオリ達はここへと移動したのだった。

続いて女魔道士が口を開いた。
ちょっと大きめな眼鏡が似合う。
ウェスパ襲撃時に、サオリ・ゲンゾと共に行動していた、彼女だ。
「お兄ちゃんが届けてくれた手紙で読んだよ、だいたいの事は。
 でも、八勇者って・・・、これからどうなるわけ、シャオ?」
「シャオって?」
アユミの問いに、渋い顔をしてサオリが答える。
「・・・私の事よ、サオリだからシャオ。
 ミノリ、いい加減そのあだ名やめない?」

それを聞いて、ミノリは即答する。
「別にイイでしょ、かわいいじゃん。
 で、私の質問に答えてよ!」
「はいはい・・・。」
渋い顔をして答える。

一呼吸おいて、サオリが答えた。
「とりあえず、タツヤ兄ぃ捜すっていう目的もありつつだけど
 この自称天使の言うことを聞いて勇者を終結させることが第一目標かしら。
 その後どうなって行くかは想像もつかないけど・・・
 少なくとも、相当大変な事にはなりそうね。 何もしないともっと大変な事になるけど。」
「なるほどね。」
頷くミノリに、すぐさまサオリが逆に質問した。

「ところで、あんたの年下の彼氏は旅に出たらしいけど。」
「違うっ、マーサとはもう1年前に別れてるわよ!!!」

知らない単語が出てきて、アユミがまた首を傾げた。
「マーサ・・・?」
「マサヤ=ユキハラよ。 この間も言ったけど、青い髪の魔法使い。
 ミノリはマーサって呼んでて、それはそれは仲のいい・・・」
「サオリぃッ、そこまでっ!!!」

サオリに変わって解説すると、彼女、ミノリ=ヌマタは
エルシャの魔道士―――もちろん、元はウェスパの魔道士であって、
マサヤとは恋人同士だった。
まあ、何が合ったかは知らないが、1年前にケンカ別れしてしまったが。

そして、ミノリの兄はあのヒデである。

「ふふっ、このまま行くとマサヤのこと、あのアキホ嬢に盗られちまうぞ。」
「ベンケイまでからかわないでッ!!」

「・・・アキホ・・・ああ、あのフィルネファーラの娘の?」
「キレイだったわよ、あの娘は。 ミステリアスな感じだったわね。
 ある意味不気味なほどだけど。」
茶をすすりながらチサトがつぶやく。

横目で見ながら、アキラが口を開いた。
「こりゃあなかなか面白い事になってるなあ。
 俺、サオリさんに付いて行くつもりだったけど、残りたくなってきた。」
「ちょっ、アキラ、あんたがいなかったら誰がこの暴走女を止めるのよ。」
と、チサト。
「それもそうだな。」
ベンケイもその髭面を真顔にして頷く。

その直後、サオリの手がアユミの肩から鳥を奪い取る。
「サオリ・・・、ストレスの行き場が無いんは分かる、
 せやけど俺を締めるのはやめてくれや・・・。」






と、ジャスを締めるサオリの横でアユミが突如口を開く。
「ねー。アキホってアキラと名前似てるよね。」
「・・・。」
「・・・?」
「・・・アユミ、また突然何?」
思わず全員、沈黙。

「え、ただ似てるなーって。」
悪意のない笑顔でアユミが微笑む。
しかし、それを聞いた瞬間、数名の人々の口元が悪意に歪んだ。(笑)

「それもそうね。 じゃあ、アキラにふさわしいあだ名でも考えてあげましょうかね。」
と、サオリ嬢。「いや考えなくてイイよ。」

「マッチョ、芝生頭、荷物持ち・・・、色々あるわね。」
と、チサトさん。「に・・・荷物持ち!?」

「芝生頭は長いよ、シバっていうのはどうかな?」
と、ミノリ。「ちょっと待て、芝生頭に決定なのか!?」

そして、ベンケイが結論を出した。
「じゃあ、柴刈でいいな。 略してシバだ。」
『けってーい!』
「ちょっと待てえっっ!!! しかも微妙に変わってるじゃないかっ!!」

悲鳴を上げ立ち上がるアキラ改めシバ。
直後、彼は更なる悲鳴を上げる。

ごちゃごちゃ言うな、とベンケイの右ストレートが突き刺さった直後。
「ところでジャス、北にいるって言う勇者の行く手はつかめそう?」
機嫌を直したサオリが口を開いた。

「いや・・・、思ったより東やな。 北東や。
 ・・・俺らみたいに旅してるっちゅー可能性も高いんやけど。」
「だとしたら厄介じゃない。
 何とかして追いつかないと、勇者は遠ざかる一方よ?」
と、チサト。

しばし考え込むサオリ。
彼女は当初、しばらくのんびりするつもりだったのだが。
そうもいかない。 アキホの事もある。 一刻を争うかもしれない。

「あんまりのんびりはしていられないって事ね。
 アユミ、今のうちに休んでおいた方がいいわよ?」
「ボクはだいじょーぶだよ。
 シバが心配だけど。」
「シバって呼ばないでくれ・・・。」

少々精神的ダメージがデカイ、アキラ改めシバ。






「ユイ様・・・。」
「何、ミカミさん?」

ここは王家屋敷の一室。
王家の執務室、といったところだ。

ミカミの切り出した話題、それは現在の北の状態について―――。

ここで、キョウヘイ=ミカミという男について説明しておかねばならないだろう。
元々は、北の都の五神官のひとりであった。

五神官は『あの』ヒムロ神官長の直属の部下に当たる
5人のエリート神官部隊である。
ヒムロに何かあった時は、彼らがヒムロに代わり北の王家を支える舵になる、
と言う事になっていたのだった、が。

ヒムロの死後、ひとり、またひとり、神官は姿を消していった。
もはや北の国に明日はないと判断した彼らは、王家を捨て、逃げ出した・・・。

そして、ただひとり残った男が彼。
キョウヘイ=ミカミ、今年で36歳。
(ヒムロの享年は52歳、他の五神官達も皆40〜50代だった。)
五神官最年少、ほかの中年神官たちとは違った。
これからの北を考えていたのは彼だけ。 少々厳しいがこの国を愛する男だ。
ヒムロの遺志を継いだと言える。

厳しい事を申し上げますが、と前置きして彼は自分の意見をすらすらと述べていった。
「このままではいずれ、いや、
 近いうちに大陸中部のアルデカラーンと極西のヒルッケリアの2国は激突するでしょう。
 そうなれば、2国間の仲は険悪になり、再統一も難しくなってしまいます。
 それだけは回避しなくてはなりません。」

「あなたの言う通りね、ミカミさん。
 ただ、今の私たちにあの2国と対抗する国力はないわ。」
ユイナの表情が翳る。

しかし、ミカミがあっさりと言った。
「もしかしたら、その問題を解決できるかもしれません。」
そう聞いた瞬間、ユイナが机の上に身を乗り出す。
自分でも、サオリに似てきたな・・・、とふと思う。
1年前はこんな事しなかったと、自分では思う。

「本当に・・・?
 でも私は、武力で解決と言う事はしたくはないわ。
 統一のためのチカラは剣だけじゃないから。」
「ええ、それはユイ様次第です。
 世界を回った事、どうやらユイ様のチカラとなっているようですね。
 私たちも1年以上お待ちした甲斐がありました。」
ミカミの言葉に、ユイナの顔が赤らむ。

そして、気を取り直し、ユイナが尋ねた。
「ミカミさん、その方法って一体・・・。」



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慧太のつぶやき。

ふー・・・。 いよいよ書いてる時点で7月になってしまった。
ここさえ越えれば、また旅に出るわけなので、ちょっと頑張って書いてますけど
書いたり書かなかったりやってるので腕が落ちていきます。(笑)
ネタはいくつも用意してるんですけど。
でもこれから受験本番、天王山か・・・。