「相変わらず退屈ね、船旅。」
「そだな。」
そして特に何も起こらず船旅は終わっていく・・・。
「手抜きね・・・。」
「そこはつっこむなよ、サオリさん・・・。」
あっという間にラフォニア。 北の国の最南端に位置する港町だ。
キタミ王家との関わりの深い地で、今もなおここの街は王家支持が大半を占めている。
とはいえ、もう王家にあたりを治めるチカラは無いため現在は自治都市と言う事になっているが。
「と言う訳で、帰ってきたわね、なつかしの港町!!」
思わず叫ぶサオリの後ろから、何が入っているのか全くわからない荷物を大量に持って、
アキラがのろのろ出てきた。
「何が『と言うわけ』なんだ・・・?」
「細かい事は、気にしちゃだめよ♪」
いつもの調子で、アユミを伴ったユイナが続いた。
ジャスはアユミの肩の上。 もはや指定席になっている。
今日は大地神の月21日。
「ねーサオリ、あそこで手ー振ってる人がいるけど知り合い?」
船を下りて、ラフォニアの街を歩いていた時。
アユミの言葉に、全員が前方を目を凝らす。
「確かにな。 あの金髪はいやでも目立つな。」
「便利ね〜、こう言う時は。」
二人が口々につぶやく間に、彼が歩み寄ってきた。
彼はエルシャの秋葉亭で働く、元準兵士・ヨシヤス。
金髪は目立つから、イキザ達は彼を迎えに送り出したのだろうか。
良く見れば後ろからはナッちゃん―――ナツオもついてきていた。
到着した瞬間、二人は素早くユイナへとひざまずいた。
それを見て、街の人々もみなユイナの方を振り返る。
「ヨシヤス=ハヤシ、ナツオ=アベ、ユイナ様をお迎えに参りました。」
「ご苦労様です。」
ひざまずくふたりに、ユイナが微笑んで答える。
その瞬間、街の人々の一部から歓声が上がった。
何が起こったのか把握したほかの人々も次々と集まってくる。
「ふわあ・・・、すごい人だよー・・・。」
思わずアユミはそうつぶやいていた。
しばらくたって。
とりあえず人々から離れ、二人の泊まっている宿屋へと一行は場を移した。
感動に浸るアキラが口を開いた。
「凄いですね、やっぱりユイ様は偉大な女王サマなんだって言う実感が久しぶりに沸いてきましたよ。」
横で、何をいまさら、とサオリがつぶやいていたが、それを聞いたのはアユミのみだった。
「偉大だなんて言いすぎよ♪
でも、まだエルシャに戻ってない以上私は女王じゃないから。」
「・・・それにしてもこの1年ちょっとでずいぶんとサオリさんっぽくなられましたね・・・。」
思わず本音(?)が出たヨシヤスを、話題の彼女がキッとにらみつけた。
アユミが横で引いている。
「ヨシ。 ど・う・い・う・意味かしら?」
「素敵なレディーと言う事ですよ、サオリさん。」
鬼のような形相に対し、こちらはあくまで笑顔でさらりと返す。
アキラがぼそりと、相変わらず色好きだな・・・、と誰にも聞こえないようつぶやいた。
これも、聞こえたのはアユミのみだったようだった。
彼が迎えに出た理由は、おそらく金髪だからと言うだけではない。
女好きで、サオリを押さえるのも得意だからだろう。
そのころ。
エルシャの秋葉亭で、悪役顔の男がつぶやく。
「あいつら・・・船が順調なら今日、一行と合流するはずだな。」
「ついに帰ってくるのか。 だけどこっちにゃあマサヤもユウジもいないけどな。」
横で飯をガツガツと食べているのは、ウェスパ滅亡時にもおなじみ(?)の、あのベンケイだ。
「そうだな。
さてと・・・、忙しくなりそうだな。」
そう言ってイキザが立ちあがったその時。
「イキザさん、ピーマン残しちゃダメですよ。」
とチサト。
「スマン、どんな化け物でも退治する、どんな怪人でも倒す、
だから、そいつだけは勘弁してくれ。」
「ダメ。」
にっこりと笑ってイキザの服の裾を掴むチサトの手には、恐ろしいまでの力が入っていた。
舞台は再びラフォニアへ戻って。
エルシャでイキザが血祭りに遭っているそのころ。
話を切り出したのはヨシヤスだった。
「・・・ところで、手紙で読んだかもしれませんが・・・。
『フィルネファーラの娘』の失踪の事ですが。」
「ええ、イキザさんからの手紙に書いてあったわ。」
ユイナの言葉に、ヨシヤスの表情が微妙に変化する。
「手紙には書かなかったのですが、実は彼女、エルシャに一度来たんです。」
「はぁっ!!?」
サオリが、アキラが叫んだ。 アユミは良く分かってない。
ユイナでさえも思わずその口を開けていた。
「それで、どうなったの?」
「その日は秋葉亭に泊めたそうです。
そのころは事態を知りませんでしたから。 翌日には失踪してましたが。
その翌々日に・・・、ファラの方から来た刺客を目撃しました。」
我に返り、尋ねるユイナの問いに答えたのはナツオ。
「刺客だなんて、私の領地で好き放題やるものね、ファラのお爺サマ達は。」
サオリがぼそっとつぶやく。
「サオリさん、君じゃなくてユイ様の領地だと思うんだけどなぁ・・・って、ぐはっ!」
さらにナツオが続けた。
「危険ですけど、このままファラの刺客を野放しにしておくわけにも行きませんし・・・。
それに、これはどこまで本当かは分かりませんが。
『フィルネファーラの娘』は『世界の危機』を神に伝える、といっていたらしいんです。」
「え、でも、ファラ教なんだから神に伝えるならフィルネファーラ平原でなんとかするはずじゃあ?」
尋ねたのは青あざ付きのアキラ。 霊術などを研究する以上、そこそこ宗教にも詳しい。
ファラ教にとって、神は天空のあの子供(笑)ではなく、天界大戦終結後に大平原に現れた
聖女ファラなのである。
そして、ファラ神が眠るそのフィルネファーラの地こそが、彼らの神に最も近い場所なのだから、
アキラの疑問はもっともだった。
ユイナも続く。
「おそらく、彼女のいっている神と言うのは天神宗教の、私達があがめている神なのね。
彼女が何者なのか・・・、気になるわね。」
「それで話を戻しますが、今はマサヤとユウジの2人がその辺を調査してます。
一応、彼女を追う形で東へ向かっています。」
「サオリ、マサヤとユウジってどんな人なの?」
ナツオの言葉をさえぎるように、アユミが口を開いた。
「ああ・・・、説明して無かったっけ?
マサヤは青い髪した魔法使いの少年で、ユウジは忍者モドキよ。」
「サオリさん・・・、モドキって、ユウジさんは「忍者」でイイだろう・・・?」
「ダメよ、アレはまだモグリの忍者よ!!」
言いたい放題のサオリさん。
ユウジは一応年上なのに・・・。
「楽しそうだね、北の国。」
「そやな。」
アユミの言葉に、その肩でおとなしくしていたジャスが頷いた。
どうもアユミとジャスの陰が薄くなりがちですな。
と言うか、存在自体忘れ去られてる。(笑)