#17 亡き国の娘

一行がジレスに到着したのは、”大地神”の月(6月)16日。
ちなみにこの月名は、その月に最も力の強い精霊のことで、
精霊の力は季節と関係なく決められた順序に16の月を刻む。
精霊力の強い地域はその精霊によって季節が狂い、逆に弱い地域は季節をきちんと刻む。
砂漠、山など場所によってはひとつの精霊だけが一年中強いものもある―――。

精霊力の移りゆく順序は、聖光、旋風、火炎、流水、雷鳴、大地、緑樹、氷雪。
いまは第6の「前大地」の月。 守護精霊は大地の人精霊・タイタンである。






「・・・今月に入ってからサオリさん絶好調ですね。」
「でもさっきのは怖かったよー・・・。」
「・・・自分の月だから仕方ないわよ♪」
2メートルを超える大柄な男がぼやき、少年のような姿をした少女と育ちの良さをにじませる笑顔の女性がそれに答えた。
ひとり増えたのは最近だが、1年以上続いたいつもの風景。 それも、もうすぐ終わる。

街にたどり着く直前、突如襲ってきたゴブリン×5をサオリが瞬殺してアユミが思わず引いていたと言うことを除けば
大した事もなく港町へとたどりついた一行は、ルガルマーダの廃坑で手に入れた黒水晶2つを売り払い、
4人分の船代に余裕でお釣りが来るほどのお金を手に入れたのだった。

そして。

街の真ん中、広場へやってきたところで絶好調のサオリが口を開いた。
「じゃあ、私は船のチケット買ってくるわね!」
その言葉を聞いて、アキラの顔が青ざめる。

【チケットを買う=財布を渡す=余計な荷物がまた増える。(笑)】←天の声

「・・・アキラ、一緒に行ってあげてね♪」
同じことを考えたらしく、ユイナがにこやかに言った。
「命に代えても、財布は守ります。」
「アキラ、どういう意味かしら。」
背中にサオリの殺気を感じつつ、自分はエルシャに帰れるのだろうかという不安とともに
アキラが歩き出す。 サオリもそれに続いた。






残されたのはユイナとアユミのふたり。
広場の真ん中にある噴水に、揃って腰を落ろす。
話を切り出したのはアユミの方だった。

「ユイ様、これから・・・どこへ行くんですか?」
「様なんて・・・、いいの、ユイさんで。
 もう北の国は滅んでしまったから・・・。」
ユイナの表情が翳る。 彼女自身、辛い1年でもあった。

サオリの旅に同行させてもらったのは、世界を回ることによって世界の現状を見ようと決めたからだった。
しかし、その間に北の国はほぼ分裂状態となってしまった。
名目上はひとつの国だが。

北の国の北西部から南西部にかけ―――北の果てにある都の近くも通り―――、ひとつの山脈が走っている。
その山脈より西の半島・ヒルッケリア。 山脈の東に広がる平原・アルデカラーン。
北に浮かぶ小さな島・リオトレイナ。 東部に広がる広大な魔氷の森。
今はその大きな4つの地域にそれぞれ分裂状態にある。
街によってはさらに独立した都市国家のような形態を取ったりしている。
小競り合いも起こっているらしい。 すべての原因は、あの事件だ―――。






「ユイさん。」
「え・・・ええ、ごめんなさい。
 今いるジレスから船で内海を北上して、北の国最南端の港町ラフォニアへ行くのよ。
 そこから陸路で北へ行くと、エルシャの町。 そこが私たちの目的地。」
「はー・・・なるほどー・・・。」
アユミが大きな目をパチパチと瞬きさせながら頷いている。
その姿を見て、ユイナは思わず微笑んだ。

「アユミくんは?」
「え?」
ユイナの突然の問いに、アユミが固まった。
ユイナの顔から微笑が消えていた。

「サオリと一緒に行くんでしょう? これからも・・・。
 私はエルシャに戻ったら、もうお別れだから・・・。
 アキラから聞いたかもしれないけれど、神官たちとの約束で
 旅を終え次第、私は女王の座につかなくてはいけないの。」
「う・・・、うん。」
「サオリのこと、どうかよろしく頼むわね?
 ああ見えて、吹っ切れないタイプなのよ、あの娘は・・・。」
「うん。」

そこまで言って、ユイナの目から一粒の涙が零れ落ちた。
「・・・ふふ・・・、まだ泣くのには早いのにね・・・。」






「サオリさん。」
「なによ?」
「チケットは買った。」
「そうね。」

「ユイさんの所に戻るんじゃなかったのか?」
「先に戻ってて良いわよ。」

アキラの顔に露骨な表情が浮かぶ・・・。
ちなみにこのあと、その辺り一体が地獄絵図と化すことをジレスの方々は気付いていない。






一方、待ちぼうけのユイナとアユミは。

「遅いですねー。」
「・・・遅いわね♪」

さっきの涙はもうすでに全く残っておらず、
今はユイナの顔にはいつもの微笑が戻ってきていた。

が、さすがにユイナの表情が曇り始めた。

1年間旅をすれば、同行者のしそうなことなんてわかるもの。
「・・・そろそろね。」
「何がですかー?」
いつもの調子でアユミが返事を返した、その直後。

どごぉっ!!!

地面に何かが打ちつけられるような、凄まじい轟音がジレスの街に響き渡った。
「あああ・・・、やっぱりね・・・。
 アユミくん、行くわよ・・・。」
そう言ってよろよろと立ちあがったユイナの顔は微笑んでいたが、
その背中は哀愁に満ちていた。

と、その背中に向けてアユミが口を開いた。
「全力疾走ですか?」
「全力疾走で行きましょう。
 早くしないとアキラが殺されるわね♪」
哀愁漂いつつ、怖いことをつぶやくユイナ。
しかし、それもあながち冗談ではないのだが。

それを聞いたアユミが満面の笑みを浮かべて言った。
「じゃ、全力で行きますよ!!
 最近全力で走ってなかったから、イライラしてたんですよー!」
「えっ?」
ユイナがアユミのほうを振りかえった瞬間だった。

ひゅん。

風を切る音が聞こえた。
アユミがさっきまでユイナの見ていた方向へと一瞬で消える。
「は・・・速ぁ・・・。」

後にひとり残されたユイナは呆然としたまま動くことは出来なかった―――。






風になって走るアユミがかけつけた時、もうすべては終わっていたらしい。

遅れてきたユイナの目の前には、変わり果てたアキラの姿。【死んでるんかい】←天の声
よろよろになりつつ、右手に紙袋がひとつ増えている。

「・・・。 ひとつに抑えるなんて偉いわ・・・♪」
「―――命張りましたから。」
力なく、頷く。

その後ろには、こちらもフラフラと歩くサオリの姿があった。
横でアユミが微妙な表情を浮かべている。 彼女が思わず口を開いた。
「だ・・・大丈夫ですか?」
「別に敬語使わなくてもイイって言ったでしょう?
 大丈夫、ふふふ・・・、アキラ相手だったからちょっと油断しただけよ、借りは返すから・・・。」
そこまで言って一旦言葉を止めると、またふふふ・・・と笑い出す。

それを聞いて先行していたユイナが後ろを振り向いた。
「アユミくん、この人を敵に回すとこんなことになるわよ、気をつけてね。」
「余計なこと言わないでくださいよ、ユイさん!」
大声をあげるサオリ、と、その瞬間思わず自分でよろける。

「まあ、チケットは買えたわけだし、さっさと船に乗ろうか。」
アキラの言葉に、3人も頷いた。






「サオリ、呼ばなくていーの?」
「あ、忘れてたわ。」
アユミは言われた通り、ユイナ以外に敬語を使うのはやめてしまった。

サオリが思いっきり得意の指笛を吹く。
ピーッ!
甲高い音の直後、街の外から凄いスピードで白い鳥が飛んできた。

「・・・やっと終わったんか?」
すっかり変わり果てた姿のジャスが言った。【だから死んでは無いだろ】←天の声

「どう、勇者の居所は掴めた、ジャス?」
「相変わらずさっぱりや。 まあ、遥か北と南東から感じるさかい、
 とりあえず北やろ?」

それを聞いてサオリが力強く頷いた。
「そうと決まれば!
 さ、行きましょう、北へ。 故郷へ!」



NEXT >>>>>

目次へもどる



慧太のつぶやき。

ふぅ、やっと#17が完成した。
このファイルの作成日時は2月17日。
おいおい、今日4月5日だぞ。(笑)
今年は受験なので、ゆっくりゆっくり書いていきます。(なんか変)

一部キャラの口調が変わった気がする・・・。(笑)