#16 小さな勇者(後)

「なるほど、事情は良くわかったよ。」
髭を生やした中年の男がつぶやいた。

ルガルマーダの街のとある家。
家の主はその髭の男。
男の名は、ユウ=ハセガワ。

ルガルマーダの街に戻った翌日、サオリ達はアユミの両親を訪ねたのだった。
アユミが八勇者の一人として旅立つ許しを得るために・・・。

「とりあえず、娘と良く話し合わせてくれ。
 明日には返事を出せるようにする。
 何しろ、たったひとりの娘なんだ、そう簡単に手放せん。」
「ええ・・・、分かりました。 では、私達はこれで―――。」

ユイナが挨拶と共に立ちあがると、サオリもそれにあわてて続く。

二人が出ていった後、母親が口を開いた。
「あなた、どうするんですか・・・?」
「・・・きっとアユミの性格からして俺達が反対しても勝手に飛び出していくだろう。
 快く送り出してやろうじゃないか。」
父親の髭を蓄えた口元が緩んだ。
「・・・さびしくなるが、子どもはいつかは親の前からいなくなるんだ・・・。」






一方。
宿に戻ったサオリとユイナだったが、もうひとりのアキラはそこにはいなかった。

今朝から情報収集を任せ街のほうへ出てもらっていたのだが、
昼もとっくに過ぎたと言うのに彼が帰ってきた気配は無い。

「ったく・・・、どこうろついてるんだか・・・。」
「でも、サオリと違って勝手にお金は使わないわよ。」
「うっ・・・。」






と、
その瞬間2回扉をたたく音がした。 そして、1テンポおいてもう一回たたく。
長い旅で自然に決まった合言葉だ。 使うのはひとりしかいない。

「アキラ? 入って。」
持っていた小さな荷物を下ろしつつ、サオリがそう言うと予想通りの人物が中へ入ってきた、が。
その後ろにはもうひとり―――。

その人物にはサオリもユイナも見覚えがあった。
「あっ、ヒデ!!」
「よぉ、手紙持ってきたよ。」

彼、ヒデはフリーのメッセンジャーをしている。
基本的にこの世界の郵便を担うメッセンジャー―――配達人は数十人の精鋭達が世界を回ることで手紙を配達している。
しかし、彼らは町から町へと移動するゆえに、サオリのような旅人には手紙が届きにくいと言う欠点がある。
もちろん遠ければ遠いほど配達に時間はかかる・・・、だから彼ら、フリーメッセンジャーがいる。

ヒデはかつては北の都の準兵士だったのだが、現在はサオリとエルシャを結ぶ専門のメッセンジャーになっている。
サオリ達にもウケのいい男で、本人も今の仕事に誇りを持っているようだ―――。






「さすがにエルシャに近付いてるって実感があるわね。
 ヒデに手紙を渡してから帰ってくるまでの時間が短いわ。」
サオリの意見にユイナが頷いた。 が、すぐに表情を変え、
「でも・・・、相変わらず異常な早さねぇ・・・。」

ヒデに手紙を渡したのがエナ=ソーを出る前日の”雷帝”の月(5月)30日。
船の早さは変わらないとしても、ジレス着が”大地神”の月(6月)6日。
エルシャ着が8日で、10日に手紙を受け取り出発、そして今日、12日に到着したらしい。

彼のその早さの秘密は―――
「さすが世界最速のサイに乗ってるだけあるな・・・。」
サオリの持つ手紙に目を通しながらアキラがつぶやく。
彼の言う通り、ヒデの愛馬はサイなのだ。

しかし、その直後にアキラの、そしてサオリ、ユイナの顔色が変わった。
「これは・・・!」






その日の夕方、宿にアユミがやってきた。

「サオリさん! ボク、一緒に行きます!
 父さんたちも許してくれました!」
「本当!?」
やっぱりね、と、ユイナが微笑む。
ジャスとアキラも良かった、よろしくと繰り返し、
新たな、小さな仲間を歓迎した。

しかし、サオリ達の心の中には、ヒデに渡された手紙の内容が
心に残っていた。
このままでは西の国、大陸、更には世界をも混乱が襲うのではないか。
そう思わせる内容を―――。






その夜に、ジャスの力でアユミを八勇者として目覚めさせることとなった。
サオリたちはまた4,5日眠り続ける物だと思っていたのだが、
サオリの時はジャスがあんな状態だったせいで力の制御が出来なかったらしい。

それを聞かされると、サオリは何やら部屋の片隅でブツブツと何かを唱えていたが、
敢えて誰も彼女には話しかけなかった。
【話しかけられなかった、だろう・・・?】←天の声

意識を天宮殿へと飛ばされたアユミが目覚めたのは、翌朝のこと。






その翌日。
旅の準備を整えたアユミが、サオリ達とともに行く時がやってきた。

母親はさっきから泣きっぱなしだ。
髭面の父親のユウになぐさめられている。
その2人に挟まれるかたちで、アユミがいた。
更にその後ろに、ミサやサブロウを初めとした友人達がいる。

「これから、みなさんはどちらへ?」
やってきたサオリにユウが問う。
「本当は陸路で山を越えて北を目指そうとしていたのですが・・・、娘さんもいますから、
 海を渡ってジレスからラフォニアを目指します。」
ラフォニアと言うのは、北の国で最南端に位置する港町で、エルシャにも近い。

「そうですか、では・・・、これを。 船代の足しにしてください、少ないですが。」
そう言ってユウが金貨の袋を差し出した。
「・・・あ、ありがとうございます。」
「あっさりもらうのかよ!!!」
後ろでアキラが凄まじい形相で叫ぶ。 ユイナも苦笑、ヒデは唖然。






何はともあれ、アユミとともにサオリ達はルガルマーダを旅立った。
数日前にきた道を引き返すかたちでジレスへと向かう。
旅だってすぐに、エルシャへと向かうヒデと別れ、一行は進む。
その先の新たな道へ。






「しかし、ヒデの持ってきた手紙の内容が気になりますね。」
「フィルネファーラの現状ね・・・?」
前を行くサオリとアユミを見ながら、アキラとユイナは小声で話していた。
届けられたエルシャの手紙、その中のイキザからの手紙は、フィルネファーラ平原の危機について書かれていた。

フィルネファーラはこの世界有数の宗教、ファラ教の総本山。
そこには3つの「法王家」と呼ばれる家がある。
3家の中から交代にファラ教の最高指導者である法王を選び出す事から、そう呼ばれて「いた」のだが。
それはもう過去の話となりそうだ。

3家のひとつ・タカマガハラ家の後継ぎの娘が突如として失踪したらしい。






彼女がいなくなったことで次期法王と言われていたタカマガハラ家は
その権利を剥奪される寸前にまで至っていた。
現在彼らは腕利きの兵士たちを使って彼女を保護しようと血眼になっている。
その裏では、残る2家がタカマガハラ亡き後の権力争いへと動き出している―――。






「こんなところに、いくらなんでも突っ込むべきではないですね・・・。」
アキラのつぶやきにユイナも小声で答える。
「まあ、言うまでも無いわね。 私もファラ教の人たちは苦手よ。
 今行ったら、捕まって拷問かけられて挙句の果てに埋められるかもしれないわね♪」
「な・・・なんですか、その音符は。」

と、その時。
「なんでやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!!!!」
地を切り裂くかのごとく。
ジャスの悲鳴が聞こえた。






「どうした!?」
アキラたちが駆け寄る。 2人の前には先導して歩いていたサオリとアユミの姿があった。
が、ふたりとも地面に伏せるように大笑いしている。
さらに、一緒にいたジャスがいない。

「・・・なにがあったのかしら。」
「ゆ・・・ユイさん・・・。 じゃ・・・ジャスが・・・。 あ〜〜っはっはっはっは〜〜っっ!!!!」
更に地面をぐるぐると回るサオリ。 まるで狂ってしまったかのように。(おい)

と、空から白い影が降りてきた。
逆光で良く見えなかったが、しばらく立つとそれが小鳥だとわかった。
純白の、天使のような羽を持った―――。

「まさか?」
「そのまさかや。」
降りてきた白い鳥は聞きなれた口調で、そう言った。

アユミが勇者に目覚めたために、ジャスのチカラも更に復活し、ついに
待望の実体化が出来るまでになった。
が。

天使の姿には実体化できなかったらしい―――。






ちょっと時間がたち、ルガルマーダを発って2日後のこと。

アキラの右肩におとなしく止まって、相変わらず元気の無いジャスがため息をついた。
「なんで・・・、なんで俺が鳥なんや・・・。」
「ジャス、いい加減元気だしなよー。」
アユミが悪意の無い笑顔を見せる。
「そうそう、鳥も可愛いわよ・・・ぷぷぷ・・・。」
サオリは悪意のこもった笑顔を見せている・・・。

「・・・まあええわ。 ジレスも見えてきたことやし・・・。
 はよ次の八勇者見つけて、天使の格好に戻りたいわ・・・。」
と、ジャスの言葉に、アユミが反応する。
「ジレス!? 船に乗れるんだね!」
そう言って駆け出す。 3人も後に続く。






西の国の空は晴れ渡っていた。
だが、その天気も、まもなく崩れていく―――。



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慧太のつぶやき。

長い長い3章もようやく終わり。
あ〜、長かった(おい)
さて、次からは舞台を北の国に移します。
マサヤ達は、アキホは、そしてサオリ達はどうなるのか。
楽しみにしていただければ幸いです。
この先も結構続きます、多分。(おい)