#15 小さな勇者(前)

場面は変わり。
サオリの目の前に現れたのは言うまでもなくミサだった。

「さっきの技は―――よく見えなかったけど確か聖水魔法ってヤツね?」
「その通りです。 今では使い手がほとんどいない幻の魔法ですけれどね。」

彼女の手には水の入ったボトルが握られている。
さっき、彼女はこのボトルを柄にして剣を作り出していた。
ボトルの中に入っているのはもちろん魔法で清められた聖水。 その聖水を媒介にした魔法を使い
剣の形や霧状など、さまざまな形に自在に操る、それが聖水魔法と呼ばれるモノだ。
彼女の言っていた通り、現在ではほとんど使い手はいない。

(じゃあ、なんで彼女はこんな魔法を知っているの・・・?
 普通の巫女見習いって訳じゃあないみたいね・・・。)






そのサオリとミサがサブロウたちの前に現れたのは、
彼がアキラと分かれて左の道を走り始めてまもなくだった。

「さ・・・サブロウ!」
「ミサ〜〜!! 無事だったか〜!?」
感涙しつつ突進してくるサブロウをミサは最低限の動きでかわす。
2秒後、廃坑の壁に頭をめり込ませた男の姿があった。【救われねぇ・・・】←天の声

状況のつかめないサオリだけが、後ろで何も言えず参っていた。

と、それに気付いたミサが半ばあきれた口調でつぶやく。
「・・・サオリさん、彼がアキラさんのナビゲーターをしていたサブロウです。」
「何でそのナビゲーターがアキラ抜きでここにいるの?」
そのごもっともな質問に答えたのは、ミサでも(まだめり込んでいる)サブロウでもなかった。

「アキラは右の道へ行ったで。」
いつになく神妙な声でジャスがつぶやく。
ミサはその声の出所がわからず、何かと表情が青くなった。

ジャスは続ける。
「サオリ、そっちもユイナとあのもう一人いるっちゅう娘がおらんやん。
 右の道に行ったんか?」
「そうよ・・・、ジャス、どうしたの。 何か変よ?」
サオリの心の中はユイナたちの事でいっぱいになっていた。
それだけに、彼のこの態度は引っかかる。

「間違いあらへんな。 勇者はそのもう一人の娘・・・アユミやったか? その娘や。」






「ええええっっっっ!!!!?」
3人の絶叫が廃坑に響き渡る。

「それしか考えられへん。 とりあえず、いっぺん脱出するで。」
ジャスの言葉にサブロウ(抜け出した)が続けた。
いろいろあって(笑)彼の顔は真っ黒になっている。
「アキラさんとは外で落ち合う事になってるッス。 行きましょう。」






「あの娘が2人目の八勇者だなんて・・・、なんか信じられないわ。」
「そう・・・だな。」
顔に不安の表情を浮かべ、サブロウとミサがつぶやいている。
その姿を後ろから見ていたサオリが、ふとその歩みを止めた。

「どうしたんスか、サオリさん?」
サブロウがそう口を開いた瞬間だった。

サオリは無言で剣を抜くと、それをすばやくサブロウの目の前に振り下ろす。
振り下ろすと同時に彼女の剣は魔力を帯び、微かに白い光を放った。

「ぬおぉぉぉ!!!(滝汗)」
サブロウがとてつもない悲鳴とともに後ろへと飛んだ。
それを見て、ミサの顔も真っ青になった。
「サオリさん、ちょっ、ちょっと、いきなり何を!?」

しかし、彼女の声をジャスがさえぎる。
「外したで! 逃がしたらあかん!!」
「あ、あんたまで何言ってるんだよ、ジャス!!」
サブロウに至っては、もはや目にうっすら涙が浮かんでいた。

「下手に動かないほうが良いわよ。」
抜き身の剣を持ったまま、サオリがあくまで落ち着いた表情で答える。

そして。 彼女のその言葉とともに、サオリとサブロウの間に黒い塊が現れ始めた。
サオリにはそれがなになのか、すぐにわかる。
都にいた時、数度ではあったが、これの仲間と戦った事がある。

「低級悪魔の一種ね。 ココの廃坑の亡霊騒ぎの原因はおそらくこいつよ。」
そう言い終わらぬうちに、黒い塊が腕のような物を鋭く伸ばす。
右に飛ぶサオリ、その左肩から僅かだが血が噴き出した。
(かわしたつもりだったけど・・・ちょっと油断したかしら。)
頭の中でつぶやく。

と、その彼女の目に入ってきたのは、悪魔の後ろにいる少年の姿だった。
あわててなにやら懐から拳大の石を取り出すと、ぶつぶつと念じ始める。






次の瞬間。

その石から真っ白い魔力の塊が一直線に悪魔を貫いた。

「きゃぁっ!?」
サオリは思わずよろめきながらも、貫通した光線をかわす。
その視界に入ってきたのは、右肩(?)あたりを貫かれた悪魔。
そして、その後ろでは光線の発射の反動でしりもちを着いたサブロウがいた。

肩の傷は痛むが、かつて経験した怪我の数々に比べればなんでもない。
サオリは再び剣を構えなおし、気合の限り叫んだ。

「たあぁぁぁぁあっ!!!」

叫びとともに、ラウンの力を借りた剣の輝きが増す。
サオリは地面を蹴りつけ、悪魔へ向け突進した。
すかさず悪魔が健在の左腕を振り上げた。 その腕に魔力が集中する。

しかし、その腕は振り落とされる事なく、消え去った。
光の帯が、今度は別のほうから放たれている。 言うまでもない。 ミサだ。
聖水が光の帯に姿を変え、敵を貫く―――聖水閃。






悪魔もそちらに一瞬気を取られる。 それが命取りとなった。

サオリの剣があっさりと騒ぎの元凶を薙ぐ。
剣に魔力を流し込み、悪魔などに対してもかなりの威力を誇る反面、
体力の消費が異常に激しい諸刃の剣―――五十嵐流剣術の一つ、封魔刀が炸裂した。






そして、その技は彼女の探している人間の得意とした技。
頭にその事が浮かび上がった瞬間、チカラを使い果たしサオリはばたりと床に伏した。

「サオリさん!」
ばたばたと2人が彼女へと駆け寄っていく。
その彼女の目の前に小さな黒水晶がことりと音を立て、落ちた。

「あ〜・・・、船旅でなまった体、本格的に鍛えなおさないと・・・。」
「俺、おぶうッスよ。」
ぶつくさ言っているサオリをサブロウがひょいと背中におぶった。
それを見てジャスがニヤニヤと笑う。
【いや、光球だからニヤニヤの表情は分からないがな・・・。】←天の声

ミサは動けないサオリに変わって手荷物の中から
聖文字の書かれた袋を取り出すと、その中に先ほど落ちた黒水晶をいれた。

―――この黒水晶は負のカルマを持ったものが死んだ時に残る物だ。
肉体の生命力とで負のカルマの力とのバランスがとれていたのが、
肉体の死でそれが崩れ去り負のカルマに肉体が食われた後、
そのエネルギーが1カ所に集束され、小さな黒水晶が出来あがる。

戦士たちにとっては魔物を倒したと言う強さの証であり、宝石としても一種の魔石としても価値はある。
そういう訳で、これを専門店などに売る事でサオリたちも含む旅人たちは生計を立てているのだった。
上質の黒水晶を加工すれば、強力な武器を作る事も出来る。 危険性は高いが・・・。
もともと負のカルマの塊だけあって、その扱いは慎重にならざるをえない。
聖文字の書かれた封袋(ふうたい)に入れなければ、
いつかは自分が食われるかもしれないのだ―――。






そのミサの向こうではサオリが顔を少し赤らめている。
タツヤのときは平気だったが、やはり初対面の男にいきなりおぶられるというのは彼女も恥ずかしい。

しかしそんな事を気にせず、ジャスは、
「さ、外に出よか。」
そう言うと、ふわっと外へと向けて飛んでいった。
「・・・あいつ、一番何もしてないわね・・・。
 あとで絶対いじめてやるわ。」
「サオリさん、あの光はなんなんですか?」
まだ説明を受けていないミサが、困った顔で尋ねる。

しかし、サオリには答える気力はほとんど残っていなかった。

「ええ・・・、後でゆっくり教えるわ。 私たちの旅の事を―――。」
そこまで言ったところで、サブロウが歩き出す。
サオリはそれ以上口を開く事は無く、廃坑の出口へと進んでいった。






「お帰り、サオリさん。」
3人の姿を見て、アキラがにやりと笑う。
それを見て、今度はサオリがすさまじい形相でにらんだかと思うと、ニタリと笑う。
思わずアキラが2、3歩後ずさった。
身の危険を感じたらしい。(笑)

と、その彼の後ろからアユミが顔を出した。 ユイナは少し離れた岩に座って休んでいる。
「アユミ・・・。」
ミサの顔には不安が浮かんでいた。
もちろん、サブロウも言うまでもない。
ジャスの言葉が、胸にひどく絡み付いて離れてくれなかった。

「とりあえず街に戻りましょう。 向こうで話すわ。」
サブロウの背から降りたサオリはそう言うと、少しよろけつつ街の方向へと歩き出した。

アユミたちも、何も言わずそれに続いた。



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慧太のつぶやき。

完結しませんでしたね。(笑)
なんだか、いろいろやってる間に長くなってきてしまいました。
次こそ、大丈夫だと思うんだけどなぁ・・・。