#14 仔熊と亡霊

石導印を終えた3人はいままでの廃坑を抜け出し、サオリたちの入った坑道を走る―――。

「幻霧霊石って一体どんな魔石なんスか?」
走りながら、サブロウがアキラに問う。

「石に触れた者の魔力―――魔力が無くても潜在的な魔力―――を
 少しずつ吸い取って蓄えるって言う能力を持った魔石さ。」

「さっきの亡霊の正体って言うのは?」
「吸い取った魔力がある程度貯まると、それを具現化することが出来る。
 つまりさっきのかたまりは俺とサブロウの魔力って訳だ。
 自分の魔力に自分の魔力をぶつけても吸収されるのは当たり前って言うことだよ。」

と、今度はジャス。
「なるほど。 俺は浮いとるさかい、奴は俺の魔力を吸い取れんかったんやな。」
「そーゆー事。 この幻霧霊石はサブロウが持っててくれないか?」
「俺スか!?」
突然の言葉に、サブロウの足がもつれ派手な音と共に彼の身体が地面と激突した。

「君は魔法が使えないけれど、これがあれば奴にも太刀打ちできるから。」

そう言ってアキラに魔石を渡し走り出したその直後。
彼らの走る先に例の分かれ道が―――。






「あ・・・あはは・・・、あはははは・・・。」

もはや、笑うしかなかった。 霊術の使えるユイナは追い払ってしまい、
今ココにいるのはサオリ一人。

そこに、噂の亡霊と思われる白いかたまりが出てきてしまったのだから。

(大丈夫よ、私は八勇者の一人・・・。)
ひたすら自分に言い聞かす。 彼女はジャスに言われたことを思いだしていた。

(八勇者は精霊のチカラを借りし者・・・。 自らの中に眠る神のチカラと、その精霊のチカラを
 借りることで、常人とは違うチカラを生み出す・・・。)

「地の守護精霊タイタンよ―――、地の精霊獣ノームよ―――。
 我は神の力を継ぎし八勇者―――、我に偉大なるその精霊の力を貸したまえ―――。
 セ=ヴァト=ラディ=ソー!!

ジャスに教わった呪文を唱える。 これだけはキッチリと覚えていた。
そして、その呪文と共にサオリの目の前の空間がゆがみ、その中から精霊が姿を現す!

サオリの呼びかけに応じ、仔熊の姿をした小精霊が彼女の前へと降り立った。






精霊を呼び出すのは、彼女自身3回目だ。
ルガルマーダまでの道中で、勇者の力に慣れるために、襲ってきた盗賊の皆さんを使わせてもらって
精霊の力を試したりしてみている。(笑)

ジャスの話によれば、八勇者にはそれぞれ1体ずつの精霊が相棒として用意されているらしい。
そして、この仔熊が彼女の相棒となった小精霊で、名前をラウンと言う。
性格は温厚でのんびりしているが、突如としてキレると手がつけられなくなるとのことだ。
一応、ジャスは天宮殿で相棒の精霊が誰なのかを教えてもらったらしく、精霊達に関して詳しかった。

が、そのジャスも今ココには居ないのだ―――。






(ああ・・・、こんな事ならユイさんについていけば良かった・・・。)
しかし今さら考えてももう遅い。 とにかく、目の前の敵に対してやるべき事をやらなくてはいけない。
呼び出されたばかりでウトウトしている仔熊の頭を軽く叩いて、彼を自分の前へと引っぱり出す。

「ラウン、アイツがなんなのか分かる?」
サオリが問う。 ラウンには相手の性質を見破る力がある。
「えと・・・、う〜ん・・・。 魔力の・・・かたまりかなぁ?
 でも、ただのかたまりじゃないよ。 なんかね、魔力がサオリしゃんに似てるんだよね。」
「似てる?」
ラウンの言葉にサオリも一瞬とまどう。

(まあ、とりあえず攻撃しないと始まらないからね。)

【どうしても『思い立ったら即行動』がモットーな彼女は、忠告を流しやすいらしい。(汗)】←天の声

「ありがとう、ラウン。 とりあえず戻って。」
サオリの言葉に、ラウンの周りの空間が僅かにゆがみ、
次の瞬間そこにいた仔熊はすっと消えた。
天使・精霊には天界と地上の間の結界の影響で、長時間地上にいると
チカラが結界に吸われて消えてしまうらしい。 ジャスが良い見本だ。
そのため、精霊の力を借りられる時間は必然的に限られてしまう。

当のサオリはと言うと既に魔法の詠唱に入っていた。
一応、基本的な魔法程度なら使えるのだが、霊術士のアキラや魔道士のユイナに比べると
当然いくらか見劣りするため、この旅ではほとんど魔法を使っていなかった。
魔法を唱えるのは、実にウェスパにいたとき以来1年数カ月ぶりだ。(汗)

「大地矢(アースアロー)!!」

サオリの声が高らかに響くと、彼女の足元の大地から小さく尖った無数の石が
彼女の目の前まで浮き上がり、魔力を帯びて飛んで行く!
そして。

びしぃっ!

音とともに直撃した。 だが、直撃して更に事態は悪化する。
アキラの時と同じように、サオリの魔力が吸収され『それ』が更に巨大化したのだった―――。

「うそぉ・・・。」
サオリは呆然と『それ』を見上げる。

しかし、余裕はない。
『それ』―――もちろんサオリの魔力のかたまり―――はアキラの時と同じように
その吸収した魔力のエネルギーをサオリに向かって次々と放出してきた。
彼女のいたところに小さな、しかししっかりとした穴が次々と開いていく。
単純な動きなのでサオリもよけ続ける、しかし、いつまで体力が持つか分からない。

と、後ろから聞いたことのある声が響いた。
「伏せて!!」
聞くと同時にサオリはすぐに行動へと移し、素直にその場に伏せた。
次の瞬間。

青白く輝く剣を持った少女が、サオリの上を飛び越えて『それ』を引き裂いた。
引き裂かれた『それ』は、空中に霧散する。

その姿に、思わずサオリはその少女の名を叫んだ。






(しかし・・・なんだか変だなぁ。)
一人で右の道を走りながら、アキラはふとそんな事を考えていた。

(いくら天然魔石だからといってあんなにも意思を持ったかのように
 人間を襲うなんて・・・何か裏があるんだろうか?)

ちなみに、ジャスとサブロウは左の道へと行かせた。
アキラにはユイナ以上の霊感がある。 その霊感が彼にいやな予感を伝えている。

と、角を曲がったところで青白い魔力の光が見えた。
おそらく、今、彼も持っている「魔石ランプ」―――炭坑で大量に取れる魔石屑(くず)を媒介に
白魔法・明灯(ライト)をかけることによってコストをおもいっきり抑えたランプ―――の光だろう。

案の定、更に角を曲がるとそこには見慣れた女性と廃坑に入る前に見かけた少女が立っていた。






「アキラ!?」
ユイナが驚きの声をあげるが、アキラはあくまで冷静にその場を見渡す。
そこは突き当たりになっていて、比較的広いスペースになっていた。
言わば、アキラたちが魔石と戦っていたところと似ていた。

しかしそんな事よりも、今この場には彼以外に2人しかいないのだ。

「ユイさん・・・? サオリさんたちはどうしたんですか。」
「ケンカして、どっか行っちゃったのよ。」






「何スか、それは。(滝汗)」 【その通り。】←天の声
なんとも間の抜けた返答にアキラも開いた口がふさがらない。
その横ではアユミが何をすれば良いのかわからずにあたふたしていた。

「・・・まあとりあえず、ユイさん、亡霊の正体は大体わかりましたよ。」
「本当に!?」
その声を上げたのはアユミ。
大きな声を上げた後、思わず顔を赤らめる。

「それで、正体は何だったの?」
いつものような笑顔でユイナが聞き返してきた。
その表情からは、期待のような物があふれ出ている。

「天然の幻霧霊石です。 厄介な代物なので、とりあえず一度脱出しましょう。
 途中の分かれ道でサブロウ―――あ、そこにいるアユミの知り合いの剣士なんですが―――
 そのサブロウとジャスが左の道を探索しに行ったんですが・・・、
 もしかしてサオリさんたちはそっちですか?」
アキラが早口にまくし立てる。 それに対し、
「ええ、それなら出口で落ち合う事にしましょうか。」
と、ユイナが簡潔に返事をした。






と、そのアキラが忘れてた、とばかりに口を開く。
「あ、ユイさん。 脱出の前に一仕事しておきたいんですが。」
「大丈夫、私はいくらでも待つわよ。 アユミくん、いい?」
「ボクもいーですけど。」
2人の了承を得ると、アキラはゆっくりと歩き出した。
ユイナはアキラの意図が分かっているらしい。
言うまでもないかもしれないが、アユミはもちろん分かっていない。






アキラがその態勢を変えたのは一瞬だった。
2人の目の前でアキラは懐からすばやく数珠を取り出し、一気に呪文を唱えきる!
「さまよえし者よ、我が前にその姿をあらわせ!!」
アキラの声が狭い炭坑内にこだまする。
その瞬間、ばちっ!と言う音とともにどす黒い塊がわずかに姿をあらわす。

「そこか!」
アユミがあっけに取られている間に決着はついた。
「はあぁぁっ!!!」

気合とともに彼の右手が青白く光る。
彼の霊力が右の拳、ただ一点に集中する。

すさまじい勢いで大地を蹴って、彼はその拳を塊へと叩き込んだ。
その一撃だけで十分だった―――その塊は空中へ霧散し、
小さな黒い宝石がコツンという音をたてて地面へと転がった。



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慧太のつぶやき。

更新スピード遅れ中。 最初に書き始めてから3週間くらいかかってるような。
まあ、もともと暇つぶしなので気にしない(え)
お話のほうは、またよくわからない展開ですね、スンマセン。
次回完結予定です。