#13 亡霊見学ツアー?

「アユミ、大丈夫? 家に戻ったら?」
「大丈夫だよ。 ちょっと頭が痛いだけだから。」
「無理しない方がいいわよ?」

4人の一行が廃坑を進み、やってくる。
サオリとユイナは2人の道案内とともに、廃坑へと潜り込んだのだった。

道案内をしている2人のうち、背の高い年上の少女―――
肩のところまである髪が、横にはねた少女の名前はミサ。
この村で巫女の見習いをやっている、とのことだ。
なかなか元気な少女で、廃坑の中でもかなり明るい。

そしてもう一人。
髪の短い少年―――いや、少女がアユミ。
サオリたちもその外見から少年だと思っていたが、少女とのことらしい。
さっぱりとした外見通り、中身もなかなか少年っぽいところがある。
ただし、少々天然ボケというか無知なところがあるようだ・・・。
剣を多少操るらしいが、さっきから頭痛を感じるらしく心配されている。
ミサの話によると、彼女たちは従姉妹同士とのことらしい。






そんな2人を加えた4人はずんずん廃坑の中を進んでいた。
しかし、アキラのいる場所とは全く違うところへ向かっていることを、4人は気付いていない。






一方。

「・・・いよいよかな・・・。」
アキラはそうつぶやくと、彼の後ろにいるサブロウへと視線を向けた。
彼も、そろそろ覚悟を決めたらしい。
そして。

彼らの目の前の岩の壁から少しずつ、白い煙のようなモノが漏れ始めているのがハッキリと分かった。
煙はまるで生き物のように動き始め、少しずつだがその大きさを増していく。
やがて『それ』は巨大な真っ白いかたまりへと変わっていった。
すでにそれ以上岩からは煙は出ていない。

「あ・・・。」
後ろのサブロウはやはり実物を目にして少し引いているようだった。
だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
自らの霊術士としての力を発揮するチャンスなのだから―――。

しかし、そこでアキラの動きが止まる。
「・・・。 コイツは本当に霊なのか・・・?
 霊気は感じるが―――何かおかしいんだよな。」
アキラはそう言いつつサブロウを再び見た。
「アキラさん! 今はそんな事言ってる場合じゃないッスよ!?」
「―――それもそうか・・・。」
サブロウの言葉で、とりあえずアキラは目の前の『それ』へと再び向き直った。

「・・・さて、いますぐ楽にしてやるからな。」
そう言うとアキラは懐から1枚の札を取り出し、ブツブツと呪文を唱える。
やがてその札はうっすらと光を帯びて、空気と霊力との摩擦が小さな音を発生させた。

(勇者探しもあるさかい、さっさと倒してくれや!)
(わかってる!)
ジャスの心での問いかけに、アキラが力を解き放った!
「さまよえし者よ、天へと昇れ、地に還れ!!!!」
その言葉と同時に札が火花を散らし、『それ』へと一直線に放たれる!

「やったか!?」
叫んだのはサブロウ。
アキラが力を放った次の瞬間、『それ』は札と激しく激突し、あっけなく砕け散ってしまった。






だが。
砕け散ったのはあくまで『それ』の一部分でしかなかった。
それどころか、残った部分がその札を押さえつけ、やがて札に封じたアキラの力を吸い取るかのように
『それ』は更に巨大化したのだった―――。






「ちょい待ち〜〜〜っ!!!
 どーなっとるんやこれはぁっ!!!」
「俺に聞くなぁっ!!」
もはや『心で会話』なんて忘れてジャスとアキラが怒鳴りあう。
「光球が喋ってる・・・?」
さらに後ろでサブロウ、呆然。

と、そんなことをやっている間にも『それ』は待っていてはくれない。

「危ない!」
叫びと同時にサブロウが、アキラが後ろへ飛ぶ。
と、サブロウが居たところに『それ』から発された魔力のかたまり―――
『それ』のかけら?―――が次々と突き刺さる。
「俺の霊術を吸収したって事は霊じゃない・・・アイツ、魔力のかたまりか―――?
 だとしたら・・・。」
「だ・・・だとしたらなんなんスか?」
悲鳴に近い声をあげながらサブロウが逃げ回る。
さすがに剣では太刀打ちできない。 と言うより彼自身幽霊とかが苦手なのかもしれない。

「だとしたら―――ジャス!」
「・・・ジャスって?」
「なんやなんや!?」
次々と放たれるかたまりを必死でかわしながら、光球はふわふわとアキラの方へと近づく。
それを見て、サブロウは彼がジャスという名前だととりあえず理解したらしい。

近づいてきた彼に向けて放たれる魔力のかたまりをかわしつつ、アキラが口を開く。
「ジャス、あれに一発魔法をぶっ放してくれ!」
「せやけど、さっきお前の霊術吸収しとったやん。
 さっきやっとった霊術、聖光の属性やろ?
 俺の魔法は聖光属性ばっかりや。 吸収されるのがオチとちゃうか?」
「いや―――良いから頼む。」
それを見てジャスもしばし黙り込み、
「天使に指図するんか・・・、全くとんでもない霊術士や。」
そう言うと、ジャスはブツブツと呪文を唱えだした。

さっきより『それ』自身の大きさは小さくなっている。
やはり『それ』自身のかけらを発射しているせいだろう。
そして、ジャスが『それ』に向け完成した魔法を放つ!

「吸収されたら恨むで、アキラぁ!!!
 聖光矢(シャイニングアロー)!!」

ジャスの言葉と同時に、彼の身体【と言っても光球だけど】から数本の光の矢が
『それ』に向け一直線に放たれた!






「道が2つ。 さて、どっちへ行くの?」
「左ですよ。」
サオリの問いに、簡単な地図を見てミサが答える。
もう何度目なのか・・・ひたすらその繰り返しでサオリたちも坑道を進んでいた。
アユミの妙な頭痛という心配の種は消えては居ないが。

「左・・・か。 サオリ、私右に行きたいんだけど。」
「ユイさん、いきなりまた何言いだすんですか。(汗)」
いきなり妙なことを言いだすユイナに、3人はコケる。

「大したことじゃないんだけど。少し右の方から霊気を感じるのよ。
 ちょっと気になって、ね。」
「でも、亡霊が出るのは左なんですよ?
 それにユイさん一人じゃいざというとき危ないです。」
さすがにサオリも(弱〜く)反論する。
魔輝石の一族、と呼ばれる王家の血筋のユイナには霊感が少々あるのだ。

「じゃあ二手に分かれるって言うのはどうかしら? 私とアユミくん、サオリとミサちゃんで。」
「だからですね・・・。」
こういうときなかなかユイナは折れない。
口論が続くほど、サオリの口元もひくひくとゆがみ―――、






「分かりましたよ! 生きたいのならどうぞご自由に! 私は知りませんよ!
 ユイさん責任取ってくださいよ!!」

子供のように怒鳴りながら、サオリはずんずんと左の通路へと行ってしまった。

後に残されたのはアユミ、ミサ、ユイナ。
沈黙の中、アユミが呆然としながらも口を開く。
「あのー・・・、ボクたちはどーすればいーんでしょーか・・・。」
「う〜ん・・・。 貯まってたモノがどっか〜ん、って出て来ちゃったのかしら・・・。
 後で謝らないといけないわね―――。 ミサちゃん、あなたはサオリについていって。
 地図を持ってるのはあなただから。」
了承して頷く巫女の少女、が、すぐにユイナに問い返す。

「ユイナさん、アユミはどうするんですか?」
「サオリの言うとおり、私一人じゃ不安なところがあるの。
 アユミくんは私と一緒に来て欲しいんだけど。」
最初男の子だと思っていたため、少女だと分かってもユイナは『アユミくん』と呼んでいる。
呼び方については本人も慣れてるのか気に入ったのか、別に何も言っては来ない。

「分かりました!」
頭痛を吹っ飛ばすかのようなアユミの声が坑道に響いた。






ジャスの一撃で『それ』が完全に散り消えたあと。
ハァ、とため息をつくとジャスが問いかけた。

「・・・で、アイツはいったい何やったんやろ。」
「それは・・・。 とりあえずここを離れてから話すよ。
 ここにじっとしてたらまた奴が出てくるかもしれない。」
そう言ってアキラは足元に転がっていた手のひらより少し小さい程度の大きさの石を持ち上げ、
それをポケットにしまいながら2人と共に外へと歩き出した。






数分後。 少し広いスペースに出たところで3人は一休みすることにした。
そこでサブロウ達がアキラに問いかける。

「で、アイツはなんだったんスか?」
「コレだよ。」
そう言うと、アキラは先ほど拾った石を取り出した。
「石? ・・・魔石やな。」
「ご名答。」

【魔石とは、魔力を秘めた石の総称。 その種類はとても多く、未知の魔石も数多い。
 スノーノウェスパにあった「魔輝石」も魔石の一種である。
 その一つ一つの特性を生かし、様々な形に活用される事が多いが、
 鉱山などで発掘された天然魔石はその力が暴走することもあり、危険。
 基本的にはアキラ達のような霊術士や魔道士によってそのチカラを人間にも扱えるよう封印する。
 「石導印」と呼ばれるその封印にも個人差があり、
 優秀な魔道士ほど天然魔石を質の良い魔石へと変えることが出来る。】

手にした天然魔石を放りながらアキラがつぶやく。
「これは世界でも珍しい「幻霧霊石」って言う魔石だと思う。
 ちょっと待っててくれないか、石導印をしたいんだ。」
「そやな・・・、とりあえずその方がええな。
 またあんな亡霊もどきが出てくるんやったらさっさと封印せえ。」
「・・・話が良く掴めませんが、待っていれば連れのお二人も来るかもしれないッスね。」
「あ。」
サブロウの何気ない一言でアキラの顔色が変わる。

「そうだ・・・。 サオリさん達はどうしたんだろう。
 好奇心旺盛な2人のことだからここに来てるはずだけど、ここに戻る途中で会わなかった・・・
 と言うことは、来なかったのかな?」
すると、サブロウの顔つきも変わった。
「あの、アキラさん・・・、実は亡霊騒ぎはこの廃坑以外でも起こってるんスよ。
 もしかしたらミサやサオリさん達は別の穴に行ったのかもしれません。」

「・・・こりゃ早めに行った方がよさそうやな。」
ジャスがふわふわ〜、と浮遊して近づいてくる。」
「確かに。 向こうにも魔石のプロのユイさんが居るけれど・・・やっぱり少し不安だな。
 石導印が済んだら、そこへ案内してくれないかい?」
「はい!」
サブロウの声が静かな坑道に響いた。



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慧太のつぶやき。

文章多い(滝汗)

以降読みやすい様少しでも気をつけます・・・。