#11 上陸、ウェセント大陸

再び舞台は元の3人へと戻る。

ウェセント大陸。
西と北の2国によって治められているこの大陸は、
南の国によって治められる南の大陸・イルストローア大陸とは正反対の気候となっている。
イルストローアは砂漠有りジャングル有りの熱帯系の気候なのに対し、
ウェセントは少々気温が低く乾燥した冷・寒帯系の気候である。

「やっぱり、気持ちこっちの方が私の肌には合ってるわ。」
船から下りて港町をぶらつく女性がつぶやいた。
長い黒髪を後ろで束ねた剣士風の女性。 サオリ=イガラシ。

「こっちの方が少しからっとしてるからね。
 なんて言うか・・・向こうは、じめじめしてたからなぁ・・・。」
後ろの男がつぶやいた。
大柄で、その身長は2メートルほどもある。
北の都・スノーノウェスパに伝わる霊拳士の家系の男。 アキラ=コマツザキ。

そしてもう一人。
彼の横でかすかに気品を漂わせている女性が微笑みながら歩いている。
スノーノウェスパの王位継承者。 ユイナ=キタミ。






この港町・ジレスに着いたのはついさっき。
程なく、3人は宿屋を見つけそこの1室へと入った。
「さて・・・と。」
サオリが剣と一緒に腰につけていた袋を取り出す。
と、中から凄まじい勢いで光る球が飛びだして来た。
普通の光とも、魔力の光とも違う、独特の光を放っている。

「おい!! あんな中に閉じこめおって、お前ら俺を殺す気かい!!」
「うるさい。」
飛び出してきた光球を、あっさりとサオリが袋に押し戻した。
そして、そのまま袋の口を元通り縛ってしまう。【鬼だ・・・】←天の声

「・・・サオリさ〜ん・・・今のはあまりにもヒドイかと・・・、
 ジャスも聞いてたら少しソフトな態度で頼むよ〜・・・。」
2人(人・・・?)の間に挟まれる形となっているアキラが恐る恐ると口を開いた。

「わかったわよ。」
サオリの声とともに再び袋の口が開かれる。
出てきた光球―――自称、天使はなにやら不満そうな動きを見せながらも
それを口には出さなかった。【口あるのかなぁ・・・】

サオリはそれを見て、満足そうな表情。

「じゃあ、反省してるみたいだから本題にはいるわね。」
「・・・暴挙や。」(ぼそ)
「何か?」
「いや、なんにも。」
すっかり尻に敷かれ、天使・・・ジャス=フェツェルがつぶやく。






「ジャスの言う所によると、ウェセント大陸に勇者がいる―――とのことだけど?」
「それは間違いないで。 大陸っちゅーても、この港町から大して遠ないはずや。」

「なんで近いってわかるんだ?」
アキラが質問すると、ジャスの顔が曇る。
「・・・いや、別に遠くまでは分からんだけや。」
「天使なのに?」
「やかましわっ!!」

ジャスは元々天宮殿に住まう天使だ。
しかし、天使と言うのは綺麗な空気(?)の天界の住民。
本人いわく汚れた人間界に降りてきた時にそのチカラの多くを失い、
このような姿になったらしい。

本人にとっては屈辱的らしいが、人間にはその屈辱の基準がよく分からない。
そのため、サオリたちはジャスの心に刺さるようなことをたまに言ってしまい、
大陸上陸後も彼はしばしば落ち込んでいた。

また落ち込む彼をユイナがなだめる。
「まぁまぁ、八勇者を見つければチカラも戻って来るんでしょう?」
「そや! 俺の外見のためにも早よ勇者を見つけなあかんねん。」
「ジャスの外見云々じゃなく世界のためなんじゃ・・・」
アキラ、再びうめく。

どちらにせよ、ジャスの言うことにはこの港町に勇者はいない、
しかしそう遠くない場所に勇者がいる、とのことだった。

「それじゃあ、いつまでもこの街にいても仕方ないわね。
 必要な荷物まとめて、明日にでも街を出ましょう?」
肝心なところのまとめ役・ユイナの一言で、3人(+1)は翌日、
次の街―――と言うほどでもなく、村だが―――へと旅立つこととなった。






「ねえジャス。」
「なんや?」
「あなた、勇者がどんな人なのか分かる?」
「・・・いや、実はわからへん。
 せやけど、俺は天使やさかい、要するに神の象徴・正のカルマの塊や。
 同じ「神のチカラ」が共鳴して、目覚めるって俺は聞いとる。」
「ふ〜ん・・・そうなのか・・・。」
ジャスの説明に、サオリは感嘆の声を上げた。

―――カルマと言うのはその魂の純度を表す基準と言われる。
正のカルマを持つのが天使や生物、基本的に平和を望む物が多い。
負のカルマは魔物や悪魔、性格は正反対だ。 もちろん、魔物にも平和主義者がいるのだが。

悪事を重ね、カルマが負に傾いた人間などが魔物と化す、と言う話もまれにある。
とはいえ、とてつもない大悪人でもない限り、普通人間がカルマを負にする事はないのだが。
しかし、例外もある。

「堕天」と「聖還」。
限界を超える精神的ショックを受けるとカルマの正負の値がそのまま逆になることがある。

悪魔が聖還し、強力な精霊へと姿を変えたこともある。 だが、そんな事はほとんど起こらない。
カルマと言うのは、生き物の心と言う物は負の方向へと偏りやすい物なのだから。
天使が堕天し、恐るべき堕天使と成り果てること―――それが一番恐ろしい。
現に天界大戦では、それが何度もあったのだから。

悪魔たちは人間たちの弱みに着けこんだりして、生物たちを堕天や魔物化させようとしてくる。
それを防ぐのもまた、八勇者の使命だとジャスは言った。
(ちなみに、魔族と言うのは例外的にカルマの値がほとんど変わらないらしい。)






さて、話は戻る。

今3人(+1)のいるところはウェセントの南の端・港町ジレスから北上したところにある
草原地帯で、もう少し北へ行けば山岳地帯へとさしかかる。
「山が見えてきたわよ?」
先頭を行くユイナが前方を指さすと、そこにはかすかに山の輪郭らしいモノが見えた。

ちなみにこの王女(次期女王?)様は、本当に「1人の人間」として旅をしているので
最前列をずかずか歩くこともしばしばある。

普段はサオリとアキラが前列で引っ張っているが、今日は
サオリはジャスと勇者について話しながらのため歩くのが遅く
アキラは例によってサオリのジレスでの買い物の産物を含んだ
大量の荷物を背負っているため、最後列を歩いていた。

「・・・あの山をこの荷物背負っていくとなると気が滅入るな。」
へとへとのアキラがぼやく。
鍛えていても、さすがにしんどいものはしんどい。

「確か山の麓に村がありましたよね?」
「あるわ。 ・・・ルガルマーダという小さな村ね。
 宿場町のような村だから、そこで一休みして山越えの体力を回復させましょう。」
「良かった・・・。」
ユイナの言葉にアキラは久しぶりに本気で安堵感を感じていた。
それは同時に、さすがに小さな村ならこれ以上荷物が増えることはあるまい、と言う意味も含まれていた。
残念ながら彼のもくろみはあっさりと崩されることとなるが。(笑)

「村ってことは、あそこに勇者がいる可能性もあるわね?」
「そやな。 段々チカラが近づいて来とる気がするんや。」
ジャスがふわふわと揺れながら声を出す。
ちなみに、彼はどうやら止まることができないらしい。
本人が言ったわけではないが、3人は勝手にそう判断させて貰っている。






「それにしても、噂通り治安が悪いと思わない?」
「そうですね。 まぁ、都があんなですからね。」
そう言ったのは、見るからに大量の荷物を狙った盗賊を3人が軽く一蹴したあと。

西の都・スティアーレインは天然の要塞。
三方を山に囲まれ、もう一方は海の入り江となっている。
入り江には巨大な水門があり、侵入者を寄せ付けない。

そのため、スティアーレイン内部は謎に包まれていると言っていい。
以前から各国の王たちも都の開放を求めていたが、未だそれは実現していない。

都が外部とかかわりを絶った鎖国状態な訳なので、国土はかなり治安が悪い。
盗賊の数も、今までサオリたちの旅した北・東・南とは格段に多い。
それでも、数人の諸侯が頑張っているのでなんとか成り立っているようだ。

「叔母上はどうなっているのかしら・・・。」
ユイナのつぶやきに、サオリはようやくそのことを思い出した。

ユイナの父・故トウジ王の妹は西の王妃となっている。
政略結婚らしい。
同じ大陸と言うことで何かといざこざの多かった北が、西との和平を図るための。
しかし、それでもなお西は他国と国交を開かなかったのだが。

ところが、20年ほど前から王と王妃は全く姿を見せなくなった。
公式の場に姿を現さない。 一般人は都に行くことが出来ないのだから
もちろん、公式の場以外の王達の姿を見ることは出来なかった。
一説では死んだとも言われるが、何しろ証拠はない。

そのため、現在西で実権を担うのは、国の上層部・・・宰相や大臣達だ。

父を失い、今やユイナの唯一といえる親族の叔母は今何をしているのか―――。
それを考えると、ユイナの足取りはわずかに重くなっていた。






それにつられるように、サオリやアキラも自然と足取りを遅くしていた。
が。

「さ、いつまでものろのろと歩いていたらルガルマーダに着く前に日が暮れるわよ?」
ユイナの声に、2人は顔を見合わせ、そして再びその歩みを早めた。

(・・・無理しているなぁ、ユイ様・・・。)

ルガルマーダの街は、もはや目と鼻の先だ―――。



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慧太のつぶやき。

文字多くなってきましたね(汗)

イヤ、まぁいいんですが、多いと読みにくい気がして。
まああまりに少なかったら小説になりませんが。(笑)

ああ、なんでテスト中に小説書いてるんだ、俺・・・?