#10 エルシャの夜 III

それまで、マサヤは自分の生い立ちをウェスパ―――エルシャの仲間達に語ったことはほとんどなかった。
唯一話したことは、かつてはシェインシェイルーという村に住んでいたことだけだ。

そのシェインシェイルーで。
マサヤは幼い頃、奇跡の子、と呼ばれていた。
彼の体にくっきりと現れたその「奇跡」に、ある者は神の授かり物だ、と歓び祈り、
またある者はこの子供こそ悪魔だ、とも言った。






「僕の身体は特別なんです。 10年に一度、魂が謎の反応を起こして産まれるといわれる
 奇跡の身体―――。」

「・・・10年に一度・・・まさか・・・中性魂者(ルシュール=リアン)!?」

チサトは驚きを隠しきれず、夜中であるにもかかわらず叫んだ。
一方のアキホは全く動じない―――彼女の感情表現は、ほとんど見られなかった。
もう一人のヨシヤスは、既にこのことを知っている
小さい頃から、特別な感情も抱かず接してきている。
地上人にはまれな金の髪を持つ彼は、珍しい身体と言うことではマサヤも自分も同じだと考えていた。






中性魂者とは何なのか―――。






その名の通り、男性と女性、それぞれの特徴を併せ持った奇跡の存在。
10年に一度あるかないかの割合で、全ての魂の中から1体、現れると言われる。

この世界では、基本的に男性は腕力、女性は魔力に長ける者が多い。
生まれつき、血筋などと関係なく戦士系・魔道士系の人間に分かれてはいるが、
それ以前の問題で、性別での腕力・魔力の差が生じる。

ただ、中性魂者というのは腕力・魔力、その両方が男性並・女性並に長けている者や、
あるいはその片方が異常なほどに長けるなど、常人をはるかに越えるチカラを持つ。

マサヤの場合、後者だ。 魔力に長ける。

ただし、両性共有は、男と女の中間―――というわけではない。
5:5ではなく、6:4〜7:3くらいにどちらかの性別に偏っている。
ちなみにルシュール=リアンとは、古代語で「両方を兼ね備える者」の意味である。

マサヤの場合、見ての通りだが男に偏っている。
ただ、両性共有など見た目ではそんなに判断できるモノではない。
だからこそ、彼は今までそれを隠していた。
子供の頃の思い出があるからだろうか―――。

マサヤはひたすら隠し通し続けた。
しかし、アキホがココで問わなくとも、そう遠くない内にこのことはバラすつもりだった。
16歳となったマサヤの身体は、少しずつ女性の部分も出てきている。
もちろん、そのことにヨシヤスも気づき、心配していたが。
だがその反面、彼の魔力もまた強くなっていた。






「だけど・・・、いくら、その、中性魂者だとしても・・・
 結局の所人間は人間なんじゃ・・・。」
チサトはさすがに焦りが隠せない。
世界中でもほとんど確認されない中性魂者、それが近くにいたのだからそれも当然だが。

マサヤはそのチサトに向かって少し久しぶりの笑顔を見せて答えた。

「僕は人間ですよ。 ただ、僕の先祖は多分、人間じゃないんです。
 言い伝えですけどね。 僕の村の民の先祖は魔族という伝説があったんです。
 アキホさんがそう言うんだから、伝説は本当かもしれませんね・・・。」

マサヤは次々と自分の生い立ちを明かした。
彼が自分のことをこんなにも話すのは、一体いつ以来だろうか―――。
現に、彼の義理の父となっていたヒムロ以外の人間に話したことはほとんどなかった。

ちなみにヨシヤスの場合は話すまでもなく知ってるのだが・・・。

「さて―――今度はアキホさん、あなたの正体を言ってもらう番だな。」
彼女の方をむき直し、そのヨシヤスが言った。
美しい黒髪のその女性は、相変わらず感情をほとんど見せていない。

「ええ、わかりました・・・。
 私は・・・果たして信じてもらえるかわかりませんが・・・、
 私の身体は・・・人間です。 人間へと転生したのです。」

「転生・・・?」
「天使とか魔族がチカラや意識をそのままに再び自分として生まれ変わることだよ。
 だから、彼らは不死身といわれてるんだ。」
マサヤが素早く解説する。 何となくわかってヨシヤスは頷いた
すると、チサトが問いかける。

「じゃあ、マサヤも転生できるの?」
「いえ・・・、僕の場合は魔族の血が薄すぎますから・・・。
 天使や魔族の血が濃い者にしか、出来ないでしょうね。」






少々ずれた話を元に戻したのはヨシヤスだった。

「で、身体は、っていうことは・・・中身―――魂は人間ではない、ということですよね。」
ヨシヤスの言葉に、さらにマサヤが続ける。
「つまり、あなたは天使・・・なんですか?」
「いえ、私は・・・精霊でした。
 地底で・・・、精霊女帝様に使えていた者です・・・。」
「精霊女帝・・・フィアナ様!?」






思わずマサヤは叫んでいた。

精霊女帝フィアナ=ファンは、4大天使の生き残りの一人。
彼女は天使でありながら精霊のチカラ―――自然や属性を司る―――を持っていた。
大戦終結後は地底の守護をしている、と伝説では伝えられている。

さすがに全員がしばらく沈黙したが、それを破ったのはまたもやヨシヤスだった。

「地底のフィアナ様に使えていたとは・・・すごいな・・・。
 だけど―――、転生って言うのは自分に生まれ変わるんだろう?
 アキホさんは・・・人間に転生してるじゃないか?」
「フィアナ様のチカラを侮らない方がいいよ。
 おそらく、精霊の魂を人間に宿らせるなんて事も可能なんだと思う。」

「いえ・・・、フィアナ様といえ、今回の私のケースは・・・
 そう簡単に出来たわけではないんです・・・。
 私たちのいた・・・あなた方の呼ぶ地底世界の危機を伝えるため・・・、
 フィアナ様は秘術を用いて・・・私をこちらの世界へと転生させたのです。」
「地底世界の危機?」

アキホの言葉に反応したのはチサトだった。

「・・・危機は地底だけではないのですが・・・。
 私はこのことを神に伝えるため・・・、ここに来たんです。」

『神!?』
秋葉亭に、ハモった3人の声が響いた。






とその時、秋葉亭の扉を誰かが叩いた。
叩いたのは、先ほどアキホの後ろにいた兵士・イシグロ。

「なんだ・・・、まだこの女性(ひと)と話してたのか?
 もう時間も遅い、そろそろ一度お開きにしてまた明日話したらどうだい、チサちゃん―――?」

一瞬チサトは迷った表情をする、が、決断は実にあっさりと下された。

「・・・それもそうね、明日のお店のこともあるし。
 アキホさん、今日はこの店に泊まっていきなさいよ。
 幸い部屋も空いてるし。」

それを聞いて、ヨシヤスはチサトの横に移動して嫌な予感を漂わせたまなざしを向ける。

「・・・チサトさん、部屋って・・・俺ら2人でいっぱいじゃ・・・?」
「何? あなた達の部屋なんてあったかしら? あなた達の部屋はココでしょ?
 食堂の隅っこでしょう?」

「・・・鬼だな。」
マサヤはそれを口に出さず、心の中でつぶやいていた。

無論、ヨシヤスも、イシグロも同じだったが。






結局、チサトの意見が通り【強い女性だ・・・】←そりゃちょっと違うぞ天の声・・・
アキホは秋葉亭に一晩泊まることとなった。
ちなみに、ヨシヤスとマサヤはイシグロの同情心から、彼の家に泊めてもらえることとなったが。






翌日。
アキホは、既に姿を消していた。






マサヤもヨシヤスも、彼女を探したが見つかることはなかった。
彼らの頭に、彼女の最後に言った言葉が残る。

『危機は、地底だけではない―――。』



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慧太のつぶやき。

なんスか地底世界って?(おい)
というのは冗談としても、地底世界がやっと話に絡み始めました。
まぁ、実際登場するのはずっと先ですが。(おい)

しかし・・・、文章力が落ちていますね。(笑)
まぁ、元々人に見せるようなチカラはないし・・・。
暇つぶしと称して不定期で書いているだけに、ばらつきが出るんですよね・・・。
特に、夏は頭が働いてくれません。

・・・オフシーズンなので。(謎)