変わらぬ―――はずだった。
「・・・世界?」
チサトの後ろから顔を覗かせ、ヨシヤスがつぶやいた。
「解って・・・いただけないことは・・・、こちらも承知です。
・・・ただ、私は・・・、嘘を言っているわけでは・・・ないのです。
世界の危機は・・・、目前に・・・迫っているのです・・・から。」
黒髪の女性は、とぎれとぎれに、つぶやくように、しかし、
強い心を込めた口調でそう言った。
その様子を見て、チサトも困惑する。
「・・・確かに、まぁ、世界の危機・・・?
ウェスパの一件・・・の事を考えても、解らないことはないけど・・・。」
と言いつつ、後ろの2人に目をやる。
青髪の青年は『話を聞くのも良いんじゃないですか?』と目で語る。
金髪の青年は・・・状況をつかみきっていないらしい。
と、女性の後ろにぱたぱたと足音を立てて一人の兵士がやってきた。
「ちょ、ちょっと!! な、何やってるんだあんた!?
こんな夜更けに・・・!!」
興奮した様子で言う兵士、確かに、こんな夜中に女性が一人で別の街へ来るなど
普通あり得ない―――と言うことでも彼女が常人ではない事が分かる。
チサトはもう一度後ろの2人をちらりと見て、女性に言った。
「分かりました。 とりあえず、中へ入って下さい。
訳有りみたいですし・・・。 話を聞きます。」
「ちょ・・・、チサちゃん! 大丈夫なのか!?」
「イシグロさん、心配しないで下さい、いざとなったら後ろの2人が居ますから。」
チサトはそう言うと、まだ不服そうな兵士・イシグロを遠ざけ、
彼女を店に入れ、その扉を閉めた。
それからしばらく。
彼女の話は、とぎれとぎれに続いた。
彼女の名前は、アキホ。
西の国に広がる、広大な草原・フィルネファーラ平原の集落の出身らしい。
「で、あなたの言う世界の危機というのは・・・何なんですか?」
そう言ったのはマサヤ。
「・・・皆さんもご存じだとは思いますが・・・、
かつて・・・5000年前、世界中を巻き込んだ・・・大戦があったことを・・・。」
「それは・・・天界大戦ですか?」
「そうです。」
「それが世界の危機と一体どんな関係を?」
「それは・・・。」
ヨシヤスの連続の質問に、無表情で答えるアキホ。
「魔王の復活ですか?」
アキホより早く、マサヤが言った。
「はい。 かつて神は・・・八勇者とともに魔王を・・・封じました。」
「ちょ、ちょっと待てよ、魔王の復活?
どーゆーことだよ!?」
「だって、普通に考えてみてみなよ。 いままでおとなしかった魔物達が
最近は・・・暴れ出したり、大群になって行動したりして居るんだ。
―――1年前のように・・・。」
自ら、切り出したくない話題だと分かっている。
だが、マサヤはあえてそれを口にした。
それを聞いて、ヨシヤスも黙り込む。
「アキホさん、続きを話してもらえる?」
完全に沈黙していた彼女に、後ろからお茶を持ってきたチサトが話しかけたのは、その直後だった。
「ええ・・・、ところで・・・どこまでお話ししましたっけ?」
「魔王の復活、までです。」
「そうでしたね・・・。」
とだけ言って、アキホはしばし黙り込む。
4人を重い空気が包んだ。
「すいません・・・、次に何言うか・・・忘れてしまって・・・
ちょっと・・・待って下さいね。」
ごん。
どご。
ばき。
3人の頭がテーブルに突っ伏した音が、店内に気持ちよく響き渡った―――。
「話は分かりました。」
ヨシヤスがそう言ったのは、アキホの長い長い話が一通り終わってから間もなくだった。
「でも、アキホさん。 あなたは何故ここに来たんですか?
アキホ=タカマガハラさん・・・。 ”タカマガハラ”ということは神官職の家の出でしょう?
フィルネファーラの天神崇拝の神官といえば、その地を動くことがないのが鉄則ですよね。」
「あまり長く話すと、彼女また忘れるわよ・・・。」
ヨシヤスを横目で見ながら、2杯目のお茶を運びチサトが言った。
と、アキホも口を開く。
「それは・・・大きなチカラを感じたから・・・ですよ。」
「大きなチカラ?」
「この街から・・・、普通の人間とは違う・・・、何か、別のチカラを・・・。
そのチカラを・・・たどってきたのです。」
チサトは、ただ訳も分からず、お茶をテーブルに置きながら他の2人の表情を見ていた。
その2人―――マサヤとヨシヤスの表情は険しい。
と、そのヨシヤスが話を切りだした。
「アキホさん。 そのチカラの源というのはおそらくマサヤのことですよね。」
「そうです。」
「はい?(滝汗)」
【チサトさんもはや話題に置いてけぼり?】←天の声
困るチサトには目もくれず【おい!!】話を続けるアキホ。
「・・・マサヤさん、あなたは・・・純粋な人間ではないですね・・・?
普通の人間とは・・・明らかに違う・・・と思うんです。」
それを聞き、しばらく黙って話を聞いていたマサヤがようやく口を開く。
「―――アキホさん、何故そう思うんですか?」
「私も・・・、あなたと同じ―――純粋な人間ではないですから・・・。
私には人のチカラや・・・人の意志が、形になって・・・見えるのです。」
「形? いや・・・それよりも、純粋な人間じゃ無いというのは・・・?」
横から口を挟んだのはヨシヤス。
彼はマサヤの幼なじみ。 故に、マサヤの生い立ちも知っている。
彼のチカラの秘密も―――。
「ちょっと待って。
私、このままだと存在忘れられかねないんだけど。」
「チサトさん・・・勝手に話を進めたことは謝りますから・・・。
そろそろ、僕の首の後ろつかむのやめてもらえますか・・・?」
チサトの機嫌が直ってから、ようやく話は再開した・・・が、
それに費やした時間・約10分・・・。【え?】
まだカンペキには機嫌の直っていないらしいチサトが何故か場を仕切る。
「で、どっちから話すの?」
「え、あ、僕から話しますよ。」
(―――マサヤ・・・チサトさんの機嫌を取り戻すことに必死だなぁ・・・)
不謹慎だと思いつつも、ヨシヤスはそんなことを考えていた。
これから話すことはそんな雰囲気を吹き飛ばすくらい重い事だと知っていたからこそ―――。
マサヤ君の生い立ちがいよいよ明らかになります。
結構話の重大なキーマンへとなっていくであろうマサヤたち4人。
この話・・・雰囲気重くて書くのが大変なんスけど・・・。