#6 勇者、目覚めよ

微笑みを浮かべたまま、ティアラは『神』とともにサオリの前へと歩み寄った。
「あなたのおっしゃるとおり、彼は神ではありません。」
「へ?」
思わず間の抜けた声を出してしまったことを、一瞬後にサオリは激しく後悔した。

だが、ティアラは気にせずに続ける。
「彼の本当の名前はコテージ。 コテージ=ノインです。」
「こ・・・コテージ!?(笑)」
「・・・笑わないでくれないか?」
思わず吹き出したサオリをみて、神―――コテージは、ハァとため息をついた。

しばらく失礼なくらい笑ってしまったサオリだったが、しばらくしてから真面目モードへと復帰した。

「あれ、ノインってあの大天使リディア=ノイン様と同じ苗字ですよね?」
「・・・まぁ、俺はリディアの弟だから。」
と言っているコテージの顔は少し陰っていた。
父親が優秀な剣士だったサオリも時々感じることだが、やはり比較されるのは嫌なことだ。
姉があの大天使となれば、彼にも期待の目が行くのも当然、か。

「―――コテージ、そんなに気にすることはないですよ。」
そう言ったのはしばらく黙っていたティアラだった。
「あなたはあなたなのですから。 あなたのチカラを誰もが認めていますよ。
 それでも気になるのなら、誰もリディアのことを口にしないくらいのチカラを目指せばいいのですから。」






「ところであの、本物の神様は一体―――。」
話を元に戻したサオリの言葉に、ティアラは一瞬口を詰まらせた。
微笑みが消え、真剣な表情へと変わる。

「・・・我らが神は、天界大戦の際忌まわしきあの魔王ヴェルナークを封じるため、
 自らのチカラのほとんどを費やしました。
 大戦が終わったあとも、その反動は大きく―――。」
それを聞いて、サオリは思わず息をのんだ。
天界大戦のあと神がどうなったか、それは誰も知らない。
天使・精霊達とともに天界と地上世界を分離して天界で世界の守護をしている、
と言うのが一般の見解だが、それを確かめたものは誰もいない。
神が今いるのかどうか、それすらも誰も知らないのだから。






「ま・・・まさか、神様はもういないってことですか!?」

「な・・・、そんなわけないだろ。」
間の抜けた調子で返したのはコテージ。

「え・・・でもチカラがなくなって・・・。」
「誰も『力尽きた』とは言ってませんよ。」
あわてるサオリに再び微笑み、ティアラが言った。






再びティアラが口を開いた。
「サオリさん。 あなたは『転生』はご存じ?」
「え、ええ。 生まれ変わりのことですよね。」
と答えるサオリの顔は、赤い。
微笑みながらティアラが頷く。

「この世の生は死んだあと、再び新たな生へと生まれ変わります。
 同じように天使や精霊は、寿命―――20万年くらいですが―――を全うすると転生します。
 ただ、この転生は普通の生の「生まれ変わり」とは違うのです。
 新たな生ではなく、新たな自分として生まれ変わる―――。
 記憶などもすべて引き継いで、再び自分として転生するのです。
 転生直後はチカラが多少弱まりますが―――。」

「・・・じゃあ、それが天使や精霊が不死と言われる由来なんですか?」
「その通り。 魔族や悪魔も同じ転生の仕方で不死を保つと言われている。」
ちょっと忘れられかけていた【ひどい・・・。】コテージが乱入する。

「神は力を一気に使ったことで寿命が大幅に縮んでしまった。
 そのため、魔王を封じてからわずか5000年で寿命が来てしまった。
 神は俺達と同じ様に転生したが、その分少しチカラが落ちてしまって、
 封印が完全に抑えきれなくなってしまったんだ。」
「ちょ・・・、それって、悪魔や魔王が復活するって言うことですか!?」

サオリの顔色が変わった。 思い当たる節はある。
忘れもしない、1年前のあの事件が脳裏に浮かぶ。

「それを防ぐために、ここに君を呼んだ、と言うことだ。」






その声は、男の声、しかしコテージとは違う声だった。
もっと高い、少年に近い声。
だが、その声にサオリは妙な威圧感を感じた。

そして。






最初にコテージの座っていた大きな玉座の後ろから一人の人影が出てきた。
金の髪に金の瞳。 まぎれもなくそれはサオリの言った神の姿―――。






では、なかった。






「か・・・
 かわい〜〜いっ!!!(爆)

そこにいたのは、金の髪と瞳を持った、一人の少年だった。
見た目からして、12〜3歳と言ったところ。
サオリのリアクション通り、なかなか可愛い少年だ。

「お、おい!! 神に対してなんてことをっ!!!」
「いいんだ、コテージ。 このリアクションは私も予想していたからね。(笑)」
あわてふためくコテージを遮るその声は、間違いなくさっきの威圧感を感じた声だった。

つまり。
この可愛い少年(笑)が、この世の生を造り上げた神、であった。

「正確には、転生した神の姿、というべきですけれどね。
 元々の神は、もっと背の高い素敵な男性でしたよ。」
いきなり人間の女性的な事を言い出しながら微笑むティアラ。
見た目160センチくらいのティアラと180センチくらいのコテージに挟まれて
神は本当に、その辺の街に放り込んでも大丈夫なくらい外見は子供だった。(笑)

だが、彼からは何か特別な威圧感がひしひしと感じられた。
今までにサオリの感じたことのない感覚。

動けないサオリの前に少年神(笑)が歩み寄る。
【いや、いくら何でも少年少年っていじりすぎだろ・・・。】
「そうだ!! その通りだ!!」
【だからこっちの行動に突っ込むなって言ってるだろうが! 今度はコテージかい!!】






「話を聞いて分かったと思うが、今私はこんな身体だ。
 見ての通り、チカラもだいぶ下がってしまった。
 このままでは、この世界に再び悪魔や魔王が復活する恐れがある。」

一言一言が、サオリの心に深く伝わってくる。

(これが・・・神・・・。)

「天界大戦を再び起こすわけには行かない。
 そうなる前に再び魔王達を異空間の奥深くへと封じ込めなくてはならない。
 そのために・・・私は現代に再び「八勇者」を集結させたいと思っている。」

その言葉に、今まで全く声を発することの出来なかったサオリもようやく口を開く。

「八勇者!? あの天界大戦の!!
 まさか、私が八勇者に!?」

神は頷くと再びサオリを見上げた。

「勝手なことを言うようで申し訳ない。
 だが、これは世界の運命をかけたことだ。
 君にとって辛いかもしれない、それでも、やってもらいたい。」

その言葉に、サオリは少し考えた。
自分に世界を救うことが出来るのか?

だが、迷っている場合ではない。
重圧に心が押しつぶされそうになったが、サオリは口を開いた。

「私は行きます。 天界大戦なんて起こすわけには行かない!」
「ありがとう。 サオリ。」

神はそう言うと少し後ろへ下がると目をつぶり、なにやら呪文を唱えだした。

「今から神の力の一部を、あなたに分け与えます。
 大変強い衝撃ですが、あなたならきっと大丈夫ですよ。」
ティアラが相変わらず微笑みながらサオリに言った。

逆に、サオリの表情は一瞬陰る。
「あの・・・、大変強い衝撃とか言われると逆に怖くなるんですけど・・・。」






長い呪文を唱え終わった神の身体から、「チカラ」があふれ出てくる。
その「チカラ」の一部が1カ所に固まって、サオリへと飛んでくる。

「勇者、目覚めよ!!!」

次の瞬間、凄まじい衝撃とともにサオリの身体にチカラが流れ込んでくる!

(くっ・・・!!)
意識が飛びそうになる。 それをグッとこらえ、サオリは一点を見つめ続ける。

その先に見えるのは―――。








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慧太のつぶやき。

まぁ、そこそこいいタイミングで次回へ続きます(え)
ついに八勇者の力を得る(予定)のサオリ。
そして登場、少年神(爆笑)
金髪の威圧感発した美少年です(おい)
マジでなんなのかよく分かりません(え)

あと、余談ですが。
コテージ、初期設定では名前が「テント」でした(実話)
テントじゃヤバイだろ、ってことでコテージに(おい)