#1 鮮血のプロローグ(前)

北の都、スノーノウェスパ。
一年を通して寒さにさらされ続けるこの土地が、この物語の始まりの地でもある。

都の一角にあるレストラン。 「秋葉亭」という看板が掛かっている。
都の人々が一日の終わりの食事のため自然と集まる店。
既に賑わいの時も終わり、空が完全に闇に包まれた頃、一人の女剣士が店を訪れた。

「あら、こんな時間にとは珍しいわね。 サオリ?」
店の奥から女性が姿を現す。
茶色い短い髪のよく似合った、明るそうな女性だ。
「仕方が無いじゃない、兵士って仕事には昼や夜はあまり関係ないのよ?」
女剣士――サオリはつぶやきつつ店のカウンタに腰掛けた。

「今や北の都期待の星と言われる若き女剣士さん、今日はやけにご機嫌ね?」
「え」
動揺を隠しきれずにサオリは顔を上げた。
長い黒髪がその動きにあわせて、揺れる。
「何かいいことでもあった?」
「別に・・・?」

とまぁ誤魔化してはみたが、どうもサオリはウソがつけない性分である。
「さては、タツヤさんとデートだね?」
「・・・・・。」
黙りこくったまま、動かなくなる。
それを見た女性はクスリと笑った―――。
「女の鋭い勘にはサオリはただ沈黙するのみ・・・かしら?」
【何であんたが勝手にナレーションするんだ・・・?】←天の声

タツヤ=オダは北の都一と言われる剣の使い手であり、魔法や武術まで扱うという
天才的戦士であり、そして・・・。
父を早くに亡くしたサオリの世話をしてくれていたのが、サオリの養父の一番弟子であり
彼女にとっては兄のような存在であったタツヤなのだった。
そんなタツヤにサオリが恋心を抱いたのは・・・と言う話はそのうちと言うことにして。

「私は兵士なんて華のない仕事、女がやるべきじゃないなんて思ってたけど、あんたたち二人を見てたらそんな考え吹っ飛んだわ」
「言うわね、チサト。」
ふふっと笑いながらチサトが紅茶を手渡した。
サオリは紅茶を飲み終わるとすぐに立ち上がる。
「あれ、もう行くの?」
「兵士は華のない仕事なのよ。」
「そう、華がないんじゃやっぱり私には向いてないわ、兵士は。」
「兵士じゃなくても向いていないんじゃないの?」

ぴくっ・・・。

「サオリ・・・それは何か・・・?」
「別に、深い意味はないわ。 お金ここに置くわね。」
明らかに殺気を放っている
【と言うよりむしろ何か違うオーラが出てるんですけど・・・】
チサトに背を向けて、サオリは店を出ようと歩き出した。

その時。

―――――!!

城の方から大きなサイレンの音が響き渡った!
「この音は・・・!!」
緊急時のみ鳴るサイレン。
これが鳴るのは都の危機、すなわち魔物などが都へ進入してくるときに限られる。
住民は直ちに城に避難、兵士は戦闘の準備をする事となっているが
サオリ自身、このサイレンを聞くのは初めてだ。

「ちょ、ちょっと!?」
カウンタから出てきたチサトの表情は青ざめている。
「どうなってるのよ、都は城から張られている結界に守られているはずでしょう!?」
「私に言われたって分からないわよ!! とにかく、私は城に戻る!」
サオリはそう叫ぶと、サイレンの鳴り響く城へと走っていった――。

・・・・・・・

「サオリさん!!」
城へ戻ったサオリの目の前にいたのはこちらも青ざめた表情の兵士だった。
「マサヤ! ほかのみんなは!?」
「一応、王が会議を行っていますが、敵の数があまりにも多すぎてまともに戦っても勝ち目は・・・。」
マサヤの顔は絶望感に覆われている。 サオリの記憶が確かなら今日の見張りは彼のはずだった。
大量の魔物がこの都を襲おうとしている。
サオリの背筋に悪寒が走った――。
「何が・・・どうなってるの・・・!?」

「マサヤ。 他の仲間たちは?」
「あ・・・、一応みんなは避難所に住民の方々を誘導してるはずです。」
「そう、じゃあ、ここの城門は私が代わるから。
 とりあえずあなたも避難所の方へ回って。」
「あ、はい――。」
その時。
「サ―――――オ―――――リ―――――」

と、遅れて汗だくになりながらゾンビのごとく避難してきたのはチサト。
地獄の底から湧き出てきたような声を発している。

「じ―――ぶ―――ん―――ひ―――と―――り―――で―――
 い―――く―――な―――ん―――て―――ひ―――ど―――い―――・・・。」

チサトの表情は、怒りと疲れと恐怖で口では言えないような状態。
「マサヤ、ついでにチサトを避難所に連れていって。」
「は、はい・・・!」
「つ―――い―――で―――っ―――て―――ひ―――ど―――い―――・・・。」
まだ動揺が抜けきっていないのか【いや、チサトにビビったんだろ・・・。】
おずおずとするマサヤ君。

彼はこの城の「準兵士」であり、正規の兵士ではない。
怪我人などによる人手不足や、このような緊急事態などを中心に兵務を行う、いわば非常勤なのだ。
だが彼は魔法に精通しており、彼の実力は間違いなく正規兵クラスであった。
(ただ、兵士になるには闘争心に欠けてる気がするのよね・・・、だから準兵士なのかしら?)

「あ、サオリさん。 タツヤさんは2階の会議室の前にいるはずですから。」
「さっさと行けぇっ!!」

・・・・・・・

(でも・・・こんな風に魔物が結束してここを襲うのも奇妙な話ね・・・。)

チサトを連れていく【正確に言うと引きずっている】
マサヤの後ろ姿を見送りながらサオリは一人そんなことを考えていた。

魔物は単独、もしくは数匹の小さな群をなして暮らしている。
人間を襲う魔物は確かに多いが、たいていそのような魔物は単独で暮らしていることが多い故
町を魔物の大群が襲う、というのはサオリ自身、聞いたことがない。
ただ・・・、かつて5000年前に終わったといわれる神と魔王の戦いでは
悪魔や魔王の命令で魔物が動いた、とも言われているが。

(じゃあ、悪魔が動いているとでも言うの・・・?)






「じゃあ、悪魔が動いているとでも言うのですか?」
「兵士長。 まだそうと分かった訳じゃない。 第一奴らはこの地上世界にいないはずだろう。」
「しかし現に魔物が大群をなしているのですよ?」

サオリが城に戻る少し前の話。
城の会議室には数名の人々―――王を初めとした国の幹部達が集まっていた。
選択肢はほとんどないに等しい。
さらに魔物の数を見た以上、戦うという選択肢は消えたも同然。
それよりも魔物を動かしているのが「誰」なのか、そして――
「魔輝石はどこへ行ったのか、だ。」

魔輝石・・・、かつて高僧が作り上げたと言う伝説の魔力石。
この北の都はその魔輝石の魔力によって結界を張り、魔物の進入を防いでいたのだが――。

「申し訳ありません、王、部下の油断が――。」
「シマ兵士長、今は責任がどうという問題ではない。
 それに・・・その不届き者が誰なのか考えている暇は無さそうだ。」
王は立ち上がると窓の外へと目をやった。 城壁の向こうでうごめく大量の魔物――。

と、今度は口を開いたのは神官長と思われる男性。
「しかし、結界が張ってあった以上、魔輝石を盗んだのはこの城にいた人間、なのですよ?」
「確かにそれで魔輝石が見つかればいい、だがもしも見つからなかった場合はどうする?
 魔物はすぐそこだ。 進入してくるのも時間の問題だ。」

しばしの沈黙。 そして――。

「・・・シマ兵士長、都の住民は全員城内へ避難しているか?」
「はっ・・・、まだ都に一部残っているようですが・・・。
 今は兵士・準兵士らが避難所へほぼ全員を誘導したはずです。」
「そうか。 残っている住民を集め、住民全員を地下から外へ逃がせ。 即刻だ!」
王がいまだかつて見たことがないような形相で叫ぶ。
「はっ!」
シマが立ち上がり走り出して間もなく――。
数匹の魔物が、ついに城壁を越えて進入する!
「しまった!! 急げ!!」
王の叫びは、街の悲鳴にかき消されていった――。



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慧太のつぶやき。

――――――はぁ・・・。 何なんでしょうこれ(汗)
めちゃくちゃへたくそですね・・・動きがないかなぁ・・・。
とりあえず重要人物が数名でてきてるのですが・・・。
一人は主人公(?)であるサオリ。
そしてその恋人タツヤ・・・。
んでもう一人重要な人がいるんですが・・・。
まぁそのうち分かります(続くのか、本当に?)
この調子で大丈夫かなぁ・・・。
ていうかこの先登場人物が増える増える(汗)
こりゃいかんだろ・・・一応メインは8人ほどいてその周りに・・・って感じでしょうか。