死者の書   1980年 <邦訳1988年>
【オススメ文】
デビュー作らしく、途中までは現実世界、それが続いて慣れた頃、突如として空想世界が入り混じり だします。後半の作品に見られるような都会的なお洒落感はひかえめですが、ジョナサン・キャロルって どんな作品を書く作家なんだろう、とお考えの方はまずこれを読めば理解しやすいと思います。
 
【簡単な説明文】
地味な教師トーマス・アビィの父親は有名な映画スターだった。トーマスはある日、古本屋で、むかし 父からもらった本を見つける。作者はマーシャル・フランス。トーマスは彼の伝記を書くために、 アメリカの田舎町ゲレインを訪れた。天才作家マーシャルの愛した静かな田舎町、だが、そこはなにかが おかしかった。
 
我らが影の声   1983年 <邦訳1991年>
【オススメ文】
キャロル作品のなかで、一番怖いという方が多いようです。こういう怖がらせ方もあるのかと、 驚きながらも脚が震える、そんな作品です。心して読んでください。キャロルが読者をいたぶる、という 構図が、この作品からすでに出てきたように思います。
 
【簡単な説明文】
ジョゼフ・レノックスの兄は、ジョセフが十三歳の時に死んだ。線路を渡ろうとして転び、第三軌条に 触れて死んでしまったのだ。そんな記憶もいつしかついえ、ウィーン在住の新進作家である彼は、映画好き のテイト夫妻と知り合い、楽しい時を過ごすこととなる。だが……。
 
月の骨   1987年<邦訳1989年>
【オススメ文】
 はじめてジョナサン・キャロルを読まれる方、とくに女性の方にオススメです。 この作品に出てきた登場人物が、のちの作品にも出てきますので、早めに読んでおくのも手か もしれません。女性が主人公で、ちょっとかわいらしめですが、キャロルの都会的なセンスが前面に出て きて、愛すべき登場人物も多数登場します。こういう痛めつけられ方もあるのか、と愕然としながら読んで ください。
 
【簡単な説明文】
中絶という過去がありながらも、今は愛する旦那様と幸せに暮らし、新しい命を授かったカレン・ ジェイムズは、妊娠した頃から、おかしな夢を見るようになった。ロンデュアという不思議な世界から、 ペプシという彼女の息子が助けを求めているのだ。おまけに、現実生活でも、人生においてまったく接点の なさそうな映画監督の男性が現れ、彼女を愛しているという。おかしな夢、おかしな現実はやがてひとつに なって、戦いは現実味をましていく。
 
炎の眠り   1988年 <邦訳1990年>
【オススメ文】
設定としては、とてもファンタジックな童話の世界ですが、抜け出せない恐怖は、読んできて息づまる ほどです。前半部分がかなり甘い男女のロマンスですが、後半は一気に加速し、絶望感が襲いかかってきま す。これぞブラック・ファンタジー。キャロルがはじめての方も、楽しんでいただけると思います。
 
【簡単な説明文】
ウォーカー・イースタリングはマリス・ヨークと恋に落ち、ウィーンで新しい生活をはじめる。 愛する人との幸せな日々。ところが、道を歩いていたウォーカーとすれ違った、自転車に乗る奇妙な 小男が、すれ違いざまに「レドナクセラ! よく戻ってきた」と叫んだ。レドナクセラとは何者なのか。 捨て子だったウォーカーは自分の出生に疑問を持ちはじめる。そこが、おかしな運命の世界への、 戻れない入り口だった。
 
空に浮かぶ子供   1989年 <邦訳1991年>
【オススメ文】
他の作品と違い、虚構と現実の交錯が最初から始まっているので、キャロルをはじめて読む方には、 ちょっととっつきづらいと思います。慣れている方なら、前置きがなくて、かえっていいかもしれ ません。他の作品と違って、甘いロマンスもファンタジーさもなく、ホラー色が強い作品です。 登場人物も男性ばかりで、かなり、硬派(?)なほうだと思います。
 
【簡単な説明文】
引退した映画監督ウェーバー・グレグストンは、自殺した売れっ子のホラー映画監督から ビデオ・テープをおくられた。なかには、幼い頃に亡くなったウェーバー母親の、飛行機事故で 死ぬ最後の数分間が映っていた。驚くウェーバーに、ビデオテープは更なる驚愕の事実を伝えだす。 これは死んだ友人の助けを求めるメッセージなのか。それとも……。
 
犬博物館の外で   1991年 <邦訳1992年>
【オススメ文】
はじめてキャロルを読む方には、かなりわかりづらい作品でしょう。 甘いロマンスもファンタジックな世界もなく、ホラー色、というか怪奇色の強い話で、 設定からストーリーまで、すべて歪んだ印象を受けます。何作か読んだあとで手にとることを勧めます。
 
【簡単な説明文】
性格の悪い天才建築家ハリー・ラドクリフは、鼻持ちならない、いわゆる才能で成功したあげくの アメリカ人の典型のような男。ハリーは中東の小国サルーの富豪から、犬の博物館を造ってくれと依頼を 受ける。しかしそこでは、犬はタブーとされている。ハリーの身辺では、次々におかしな事が起こりはじめ ……。
 
沈黙のあと   1992年 <邦訳1994年>
【オススメ文】
かなりファンタジー色を押さえた、ほとんど現実に起こることのみを中心にしたストーリーです。 キャロル作品のなかでは、かなり異色といえるでしょう。現実味が強いだけに、恐怖も衝撃も強いかも しれません。男性が女性に惹かれる描写、たったひとことで崩れる人間関係、などキャロルの巧みさを 感じさせます。かなり後味の悪い、キャロル流家族崩壊の物語です。最初にこれを読んでしまうと、 キャロルという作家がわからなくなってしまうかもしれません。何作か読んだあと、手にとることを お勧めします。
 
【簡単な説明文】
漫画『ペーパー・クリップ』の作者、マックス・フィッシャーは、展覧会の会場で、リリー・アーロン とその息子、リンカンに出会った。リリーに恋をしたマックスは、リリーの嘘、秘密、そのすべてを受けと めようとする。すべてがうまくいくかに思えた三人の生活は、やがて四人となり、待ちぶせした悲劇に 襲いかかられる。それは、あまりにもむごい当然の報いなのか。
 
天使の牙から   1994年 <邦訳1995年>
【オススメ文】
「死」という魔物との戦いの物語ですが、最初は甘く、やがて辛みをますロマンスの手法は、キャロル らしさが前面に出ていると思います。多少、戸惑いはあるかもしれませんが、はじめてキャロルを読む方に も、とっかかりやすいのではないでしょうか。すでに何冊か読んだ方は、わかっていてもやっぱり痛めつけ られるのね、といつものマゾ的な快感を味わえます。童話的な要素はなく、終始大人な雰囲気。 珍しく、後味が爽やかな作品です。
 
【簡単な説明文】
人気テレビ番組で「フィンキー・リンキー」として知られるワイアット・レナードは、癌にかかり、 余命いくばくもない。彼の前にあらわれた「死」という存在は、彼に不思議な力を与えはじめた。 一方、もとハリウッド映画の大女優のアーレン・フォードは、リーランド・ジーヴィッチという カメラマンと知り合い、恋に落ちる。だが、アーレンもまた、「死」との戦いに迫られていた。
 
パニックの手(短編集)   1995年 <邦訳1996年>
キャロルの短編については、手放しで賞賛するというところまでには至りませんが、この短編集 には、「空に浮かぶ子供」のなかに作中作として出てくる「フィドル・ヘッド氏」と「君を過ぎて十五分」 もあらためて短編として収録されています。
 
黒いカクテル(短編集)   1995年 <邦訳1997年>
これもまた、やっぱり出来の良いものと悪いものが混じってい るように思われます。上手な作家ですから、全体にそつなくこなしてはいるのですが。魅力的な人物が 多数登場するキャロルの長編が好きなものとしては、短編はどうしても、やや物足りない気がしてしまいま す。
蜂の巣にキス   1998年 <邦訳2006年>
ブラックファンタジーの作家であるはずのジョナサン・キャロルが、ミステリ作品に挑んでいます。とはいっても、もとから読者心理を巧みに誘導することに長けている人ですから、意外と違和感もなく、スンナリとキッチリとジョナサン・キャロルのワールドは保ちつつ、ミステリ作品として仕上げています。
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