すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ベルリン1945」 クラウス・コルドン (ドイツ)  <理論社 単行本> 【Amazon】
終わりがないようにさえ思えた戦争はいよいよ悲惨な様相を見せはじめ、ベルリンを廃墟にしてようやく終わった。12才の少女エンネは、ずっと両親だと思っていたルディとマリーが実は祖父母で、本当の父親は強制収容所に入っていることを今は知っている。もし、生きていて戻ってきたら、一緒に暮らすことになるのだろうか。それを考えると不安になるが、親友も他の同級生たちも疎開してしまっていたから、相談することもできなかった。たとえ身近にいたとしても、これまでは家族の秘密を打ち明けることはできなかったのだが。
にえ ベルリン1933」に続いて読みました、私たちにとっては2冊目ですが、これが三部作の最終巻。
すみ どうしても続編となると、読んでない方にどう配慮して話すか、悩むところだよねえ。
にえ それよりもまず、読んでない方には、やっぱりこの三部作、年代順に1919、1933、1945と読むのがいいですよとオススメしたいっ。
すみ う〜ん、まあ、たしかに。この1945が出ていない時だったら、1933のあとに1919が出たら、じゃあ、とりあえず1919を読むかとなっただろうけど、揃ってるとどうしても先が知りたくて、1945に手が出ちゃうよね。というのは、辛抱強さが足りない私たちだけ?(笑)
にえ とにかく、1933、1945と読んでしまうと、今さら1919を読むのはちょっと気合いが入らないってところはあるよ。いや、読むつもりだけどさあ。でもやっぱり、この家族は一体どうなるんだろうと興味に惹かれて読みつづけるには、年代順が一番いいんじゃないかと思うんだけど。
すみ 歴史的な流れを肌で感じながら読み進めるためにも、年代順がいいかもね。ドイツがどうしてああいう道を辿ってしまったかというのを一番実感できるのは、年代順にゲープハルト一家を追うのが最良という気はする。
にえ でしょ。とかグチっぽく言ってる場合ではないか。とにかく皆さんが絶賛するだけあって、本当にこの小説には考えさせられるものがありました。第二次世界大戦の悲惨さが一番実感できるのは、この巻だろうね。
すみ 歴史的背景だけでなく、登場人物がみんなそれぞれに違う考え方を持って生きているというのが実感できて、読み深いよね。善人はなにがあっても生き残り、悪人は最後には必ず酷い目に遭うっていう単純な物語ではないことは読みはじめた時からわかるから、それぞれの登場人物がどうなっていくのかと目が離せなくなるしね。
にえ 「ベルリン1933」は少年と青年のあいだといった印象のハンスの目を通して語られていたけど、この1945は等身大の少女の目を通しているから、より物語に引き込まれたな。
すみ うん、家族に対して激しく揺れ動く心情とか、親友への想いとか、成長していく過程での気持ちの変化とか、そういったものがありありと伝わってきて、わかる、わかると思いながら読んだ。
にえ エンネは1933ではまだ赤ん坊だった、ハンスの兄ヘレとユッタ夫婦の娘なのよね。
すみ ヘレとユッタといえば、熱心な共産党員。戦争前にはなんとかヒットラーの暴走を阻止しようと、抵抗運動を呼びかけていたんだけど。
にえ まあ、歴史的背景については周知のことでネタバレにはならないから安心して話すけど、ドイツが戦争に負けて、ソ連兵が押し寄せてきて、ひそかに社会主義や共産主義を守り抜いてきた人々は当然、ようやく独裁者の時代が終わって、平和な社会主義国になれるといったんは喜ぶところだろうけど……。
すみ そうはいかない、社会主義国になっても、共産主義国になっても、結局はごく一部の権力欲に取り憑かれた者の独裁国になってしまうだけだと、物語中の登場人物たちは知らなくても、その登場人物たちにとっては未来の人となる私たち読者は知ってるわけだよね。
にえ ベルリンの苦しみがそう簡単には終わらないこともね。
すみ ようやく洗脳状態から抜け出した人々も、洗脳されたふりをして生き延びた人々も、なにか圧迫してくるような流れの中で、なにを信じてどう生きるのか、もがき苦しむことになるのよね。
にえ 自分のことだけで精一杯で、いつのまにか流れに巻き込まれてしまう人がほとんどなんだろうけどね。この物語でも、子供たちを抱えて戦争未亡人となった女性がこの苦しい激動の時代を生き抜くためにどんな道を選ぶことが多かったのかとか、兵士に強姦された女性たちのこととか、親のいない子供たちの廃墟での暮らしぶりとか、良い生活を保障されると信じてナチ党に入った人たちがどうなるのかとか、さまざまな人々の様子を見ることができた。
すみ ヒトラーの独裁を嫌って、ソビエトに亡命した人たちのその後についてもわかってくるよね。1933でいったんは姿を消した人たちがまた戻ってきたりするんだけど。
にえ その後にドイツがどうなっていくか、ゲープハルト一家の住むベルリン、アッカー通り37番地がどうなるのかといったことを考えると、気持ちは暗く沈んでいってしまいそうにもなるけど、そうはならないのがこのシリーズのいいところだよね。
すみ うん、大人たちの悲惨な状況を見て、自分自身も千々に心を乱しながらも、成長し、活き活きと生きつづける少女エンネの溌剌とした姿が救いになっているよね。
にえ あとはゲープハルト家の清貧ぶりでしょう。1933では、この一家はいつになったら貧乏から抜け出せるんだ、なんて思いながら読んだところもあるんだけど、貧しくて、労働に追われながらも、心豊かに生きようとする姿に、ようやくここで私も、貧乏から抜け出すことを目標に生きているわけではない家族の清々しさが身に沁みてわかってきたよ。
すみ そういえば、1933を読み終えるまでには、この人はこうなるだろう、なんて、登場人物の一人一人の近い将来をどうしても想像してしまうじゃない? それがかなり予想と違っていて、驚いたな。そういうところもこの作品の奥行きの深さだろうな。
にえ そうだよね。私なんて、こういう運命を背負わせるために、この登場人物にしたんだなとか、そういう深読みまでしていたんだけど、かなり違ってた。
すみ 前にも言ったけど、ホントにこれは単なるYA本じゃないですよってことで、オススメです。
 2007.1.19