すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「生存者の回想」 ドリス・レッシング (イギリス)  <水声社 単行本> 【Amazon】
あのとき、この街の人々は次々に集団となり、去っていったが、私はかつて高価だった土地に建つ頑強なアパートの一室にとどまりつづけた。そんな私のもとを訪れた男は、エミリという女の子を私に預け、去っていった。エミリは12歳、大人ではないが、少女とも言い難い見かけをした女の子だった。
にえ 2007年にノーベル文学賞を受賞したドレス・レッシングの、これはSFです。
すみ もとはサンリオSF文庫に収録されていた作品なんだよね。
にえ 読んでみて、つくづくサンリオSF文庫のラインナップって凄いなと思ったよ。これはたしかにSF設定のSF小説なんだけど、さすがはノーベル文学賞を獲る作家の作品って感じで、SFファンがかならずしも好むタイプとは思えないんだよね。そういう作品をあえてラインナップに入れてたことへの感動と売れなかったのも無理はない納得が(笑)
すみ そうだね〜、ドリス・レッシングは30年間、ノーベル文学賞候補と言われつづけてきたでしょ。サンリオSF文庫でこの作品が出たのは約20年前…知らずに入れちゃったんじゃなく、あえて狙ったのかしら(笑)
にえ ただ、しっかりSFではあるんだよね。地球に何かあって、原始時代のようになってしまった未来を描いたSFってよくあるけど、普通に文明が発達した現代から、少しずつ少しずつ文明が抜けていき、原始的になっていく過渡期を描いた小説って初めて読んだかも。
すみ あとがきを読んで知ったけど、レッシングってけっこうSFを書いてる作家さんだったんだね。レッシングは前に「夕映えの道」を読んだだけだから、SF書くんだ〜と思っちゃったけど。
にえ 「夕映えの道」もそうだったけど、読みやすいのに、う〜んって考えこまされちゃう小説だった。問題提起たっぷりで考えさせられますっていうんじゃなくて、結局、なにが書いてあったんだろうって考えさせられちゃう方なんだけど。
すみ なんか大事なことがたくさん書いてあったに違いないって感触がすごく残るよね。実際、これを題材にして語ろうと思えば、いろんなパターンでたっぷり語れそうだし。フェミニズムとか、老いと若さとか、エコロジーとか、もっと哲学的な人間についてとか、その他もろもろ。
にえ 読んでると、どうしても考えちゃうしね。軽く読み流しちゃうと、地味なSFだなあってことで終わっちゃうんだけど、つい考えながら読んでしまって、考えれば考えるほど、奥の深い小説だな、けっこう怖いなと思えてきて。
すみ 傍観者を決めこんだような語り手が思考をいろんな方向へと誘ってくるよね。でも、逆に怖ろしいことが起きているのに、そっちの思考のほうに気を取られている語り手だから、考えながら読まないと怖さがわからなくて通り過ぎそうになってしまうってところもあるんだけど。
にえ でもさあ、主人公はエミリということになるのかな。ほとんど移動もしない、言葉も発しない傍観者となっている語り手の女性の存在がやけに気になったりもするんだけど。
すみ けっこう年配の女性みたいよね。なんの仕事をしていたのか、どんな家庭で育ったのか、そういうことはまったくわからないんだけど、高級なアパートに一人で住んでいるの。
にえ 名前さえも出てこなかったよね。やけに徹底した傍観者なんだけど、知的な思考もたっぷり見せるし、エミリへの執着心とかの感情も隠さず伝えてくるし。
すみ どうしてエミリが彼女のところに預けられたかも説明されてないよね。エミリを連れてきた男性についてもまったく説明なしで、語り手とどういう関係かわからないし。
にえ 変化を始めた世界についても最小限の説明しかないよね。世界中がそうなのか、語り手が住んでいる都市とか国だけがそうなのかわからなくて、理由の説明もないけど、とにかく都市の機能は麻痺して、ライフラインもだんだんと止まっていって、人々はどこかへと逃げていってくるの。
すみ 政府とか、警察とかはどうにか形だけは残ってるみたいよね。それに、いつかはこの都市を出ていかなくてはならない危機は迫っているみたいなんだけど、それは本当にゆっくりと迫ってくるだけで、いつ出て行くかは自分次第というような。
にえ 語り手が出て行かなくてはいけないと思いながらも、ぐずぐずしてしまう気持ちはわかるよね。
すみ で、ほとんど変化も感じられないまま、ズルズルと下降していく世界の中で、突然、エミリを預けられることになるの。エミリをエミリは大人びた12歳の少女で、それこそ歳をとった者にとっては瞬く間に大人の女になっていくの。
にえ 語り手は独り暮らしを苦痛と思っていた風もないのに、たちまち理解し難いところの多いエミリの存在が大切になって、失いたくないと思ってしまうのよね。だからといって、エミリの行動に口出ししたり、態度で表わしたりはしないんだけど、エミリを思うあまりなのか、壁の向こうにエミリの子供時代が見え始めたり。
すみ エミリはヒューゴウという名の動物を連れているんだよね。これがまた、色は黄色で、顔は猫なのに全体的には犬という謎の動物なんだけど。
にえ 都市の機能が止まってしまうと、子供たちはすぐに原始的とも言える生活を始めるようになっていき、大人たちは昔を懐かしみ、嘆くばかりで……。そんな中、エミリは大人と子供の世界を揺れ動きながら、恋をしたり、グループ行動に悩んだり。語り手はひたすらその姿を傍観しているの。
すみ ホントに不思議な感触の小説だったよね。怖ろしいようで美しいようでもあり。う〜ん、こういう小説読むのはかったるいという人もいると思うけど、ノーベル文学賞受賞作家って肩書きが付いているんだからってことで、あえてオススメで。
 2008.1.7