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「ガラスの宮殿」 アミタヴ・ゴーシュ (インド→アメリカ)
<新潮社 クレストブックス> 【Amazon】
熱病で両親と妹、弟を亡くし、孤児となった11才のラージクマールはインドを出て、ビルマのマンダレーにたどり着いた。船員として働いていたラージクマールは長く留まるつもりはなかったのだが、イギリス軍の侵略により、船で出ることは不可能になった。ビルマ宮廷の王や王妃はビルマからインドへ移されることになり、民衆は遠くから眺めるだけだった国王一家や美しい侍女たちを見る機会を得た。そこでラージクマールは一人の侍女に心奪われる。侍女の名はドリー、まだ9才か10才ぐらいの少女だった。 | |
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4年ほど前に「カルカッタ染色体」を読んで、これは凄い作家だと目をつけていた(笑)、アミタヴ・ゴーシュの邦訳本が出ました! |
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まさか今になってメジャーどころから出してもらえるとは、嬉しいビックリだよね〜。 |
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でもさあ、読んで納得だよね。たしかにこれは価値ある一冊だわ。今年読んだ本の中でも出来で言えばナンバー1でしょ。 |
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うん。素晴らしい小説だったよね。困ったことに、読んでるうちにフィクションだか、ノンフィクションだかわからなくなってしまう。よく、登場人物がリアルに感じるとか、物語がリアルだとかってあるけど、そうじゃなくて、本当にいた人じゃないの? 本当にあったことじゃないの? と混乱してしまいそうになるような。 |
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イギリスに支配されてしまう前のビルマから、アウンサンスーチーさんが囚われの身となっている現代のミャンマーまでの長い長いお話なんだけど、どこをとっても、どれだけ調べたらこんなに活き活きと描写できるのってぐらいにありありと情景を描き出していたよね。 |
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しかも登場人物たちがうまくビルマからミャンマーに至るまでの歴史に絡んでいて、実在する(した)人物との接触もあったりで、ホントにこれ一冊でビルマからミャンマーまでの歴史が丸ごと伝わってくるって内容だった。 |
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しかもしかも、登場人物たちそれぞれの生き様が、実在しても不思議じゃないというか、当然、このままの生き方をしたモデルがいるはずだと思ってしまうような? |
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そう、そうなのよ。それだけに、一人一人がどうなっていくのか、先が読めなくて。 |
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まず中心となるのが、インド人孤児のラージクマールと、ビルマ王家の最後の侍女ドリー。この二人が運命の出会いをするの。 |
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それから、ラージクマールの面倒を見る師のような存在の中国系男性のサヤー・ジョン。サヤーは名前じゃなく、先生という意味なのだけどね。それに、王や王妃たちが連れていかれたインドで出会う、収税官の妻ウマ。 |
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2世紀にわたる3世代の物語で、このラージクマール、サヤー・ジョン、ウマの3つの家系の人々の物語となっているから、当然、登場人物も次の世代になるに従って、人数が増えていくのよね。 |
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話としては、かなり正統派の大河もので、ほぼ時の流れに沿って順序正しく、それぞれの家族がどうなっていくかが語られていくの。 |
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ビルマは王の一家が追い出され、イギリスに支配され、世界大戦を経て、独立運動の気運が高まっていくという激動の時代。そこにインドの歴史も複雑にからんでくるのよね。 |
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経済にしても、豊かな黄金の国ビルマから、チーク材を扱う材木業の大きな発展、それからゴムを中心としたプランテーションの時代、そしてさらにと進んでいくし、そういう経済にもまた3家族がからんでくるんだよね。 |
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材木を運ぶ象と象使いのエピソードとかも迫力があったな〜。 |
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インドに連れ去られた最後のビルマ王の一家のその後の暮らしぶりも詳細だったけど、この人たちは実在したのよね? なんかあまりにも小説的な面白味といってはなんだけど、濃いテイストのある人たちで、かえってこれもまた混乱させてくれたんだけど。 |
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いくつもの恋愛の話も出てくるんだけど、これもまたドラマティックで、ある意味、壮絶でもあった。3つの家系のどの人も激しく生きた人たちよね。 |
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うん、リアルであり、ビルマ(ミャンマー)そのものを象徴している人たちだけに、最後の最後はなんだか寂しくなってしまったけど、それにしても熱い生き様だった。 |
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次々と悲劇が襲いかかってくるけどね〜。隆盛期もあり、突然の悲劇もありで、倦むことなく一気に読めてしまった。 |
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それにしても、読む前にはミャンマーにどれぐらい興味があったかと考えると、この本を読んで全身でビルマ、ミャンマーを感じて、これほど心惹かれ、良くなってほしいと心から願えるようになるとは驚きだなあ。 |
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そうだね。あと、ビルマを侵略したイギリス軍に多くのインド人兵士がいて、その人たちがどう考えていたのかとか、まったく理解できないってところから始まって、だんだんと無理なく伝わってくる流れとか、そういうところにも細やかな配慮が効いていて素晴らしかったなあ。 |
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一人の人間がよくまあここまで壮大な物語が書けるものだと驚いてしまうよね。現時点で、ビルマ、ミャンマーを書いた小説でこれを超えるものはないんじゃないかな。とにかくこれを読まなきゃ始まらないって気がする。こういう小説にであるからこその翻訳本読書でしょう。ということで、強く強くオススメですっ。 |
2007.12.13 | |
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