=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「カルカッタ染色体」 アミタヴ・ゴーシュ (インド→アメリカ)
<DHC 単行本> 【Amazon】
ニューヨークの古びたアパートの一室で、アンタールは退職してインドに戻れる日を夢見ながら、AVAが モニターに映し出す画像をチェックしていた。アンタールはもともとライフ・ウォッチの職員だったが、ライフ・ウォッチが 国際水利委員会に吸収されてからは、未来に記録を残すため、現在ある品物の情報をまとめていくという、なんとも 地味な仕事をこなすため在宅勤務に追いやられていた。ところがある日、モニターに古ぼけたIDカードが映し出されたことで、 すべては一変してしまった。それは、マラリア感染の研究でノーベル賞を受賞したロナルド・ロスについて調べるため、1995年にカルカッタへ 行ってそのまま消息を絶ってしまったかつての同僚、ムルガンのIDカードだった。 | |
カルカッタ出身、デリー大学を卒業後にイギリスのオックスフォード大学へ、 今はニューヨーク在住のインド人作家アミダウ・ゴーシュの初翻訳本です。 | |
あと2作、邦訳出版されることがすでに決まっているのだそうな。 | |
これから出る2作は、インド版「百年の孤独」か、サルマン・ラシュディの「真夜中の子供たち」やアルンダティ・ロイの「小さきものたちの神」の 系統で、あそこまでは濃くないものかなと予測してるんだけど、どうでしょう。 | |
この「カルカッタ染色体」はアーサー・C・クラーク賞を受賞しているからSF小説って ことになるんだろうけど、今のところ著作のなかでSF的な色合いがあるのはこの作品だけだから、純文学作家といったほうがいいみたいね。 | |
「カルカッタ染色体」もSF小説とは言い切れないけどね。歴史&医学サスペンスというか、幻想ホラー小説というか、 濃厚ミステリ小説というか、インドを舞台にしたオカルト小説というか、とにかくいろんな要素が混じってるの。 | |
これ1作で、並々ならぬ才能を持った作家さんだなとはわかったよね。 | |
なんというかな、スンゴイいきおいで展開していくストーリーにグイグイ引き込まれながらも、腹の底でつねに「こわいよ〜、こわいよ〜」って怯えながら 読んでた感じ(笑) 独特の迫力があった。 | |
うんうん、読んでると過去の複雑な謎をぜんぶ知りたいって気持ちと、どんどん迷宮の深いところに導かれていくから怖ろしくて逃げたいって気持ちが 入り混じるよね。どっちにしても途中で読むのをやめることなんて決してできないんだけど(笑) | |
最初はね、ちょっとSFっぽいの。ごくごく近い未来のニューヨーク、AVAなるシステムでモニターに 映し出される映像を見て、AVAからの質問に答えるという仕事を自分の部屋でやっているインド人男性のアンタール。 | |
アンタールは年齢を明記されてないけど、定年退職まであと1年みたいだから、それなりのお歳のはずよね。 | |
アンタールがムルガンっていうかつての同僚のIDカードを見たことで、まず話は 1995年と現在を交差するようになるの。 | |
ムルガンって男は、1898年からカルカッタに滞在し、マラリア感染の謎を暴くことで ノーベル賞を受賞したロナルド・ロスっていう人の生涯を調べることをライフワークにしていたのよね。 | |
ロナルド・ロスっていう人は、作家であり、詩人であり、それから急に思い立って医学に関わり、 わずか500日でマラリア感染の研究で成果を上げた人。 | |
だけど、じつはロナルド・ロスは単なる傀儡で、裏で糸を引く者がいたのではないかと ムルガンは疑いはじめるのよね。 | |
ムルガンの話は途中で難しくなっちゃって、どこまで行くの〜と不安になったけど、 聞いてるアンタールも理解できなくて止めてくれたんでホッとした(笑) | |
とにかく、裏で糸を引く者は「彼女」って呼ばれているから、おそらく女性だろうってことがわかるの。 | |
ということで話は、近未来のニューヨークにいるアンタール、1995年のカルカッタにいるムルガン、それから ムルガンが関わる人たちから引き出されていく19世紀後半に起きたさまざまな話と多重進行になっていくの。 | |
19世紀後半の話はさまざまで、ロナルド・ロスより前からマラリアの研究をしていた学者や、ロナルド・ロスは カルカッタの軍医になるんだけど、その前任者の話、それから女優であり、作家でもあるソナリって女性が母親から聞いた話などなど、別々のようなんだけど、 じつはひとつのつながりがあるのよね。 | |
まず、多くの話に共通して存在するラッチマンという男。この男の名前はさまざまに変化するんだけど、どうも同一人物の様子。 | |
それから、浮かびあがってくる「彼女」の存在よね。そして、題名の「カルカッタ染色体」とはなんなのか〜!! | |
もうストーリーから雰囲気から、なにもかもが素晴らしく濃厚で、インド独特の匂いがあって、最初から最後まで引きずられまくっちゃった。 もちろん、複雑にからまりあっていても、キッチリと話が出来上がってるし。 | |
これはオススメだよね。濃いめで、頭を使わされることは覚悟しておいてほしいけど、 わかりづらい話ではないから、キチンと読めば、振り落とされることはないと思うよ。この作家はタダモノじゃない!! | |