=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「マジック・フォー・ビギナーズ」 ケリー・リンク (アメリカ)
<早川書房 単行本> 【Amazon】
ローカス賞短篇集部門を受賞した、ケリー・リンクの第二短篇集。書き下ろしを含めた9篇を収録。 妖精のハンドバッグ(ヒューゴー賞・ネピュラ賞・ローカス賞受賞作品)/ザ・ホルトラク/大砲/石の動物/猫の皮/いくつかのゾンビ不測事態対応策/大いなる離婚/マジック・フォー・ビギナーズ(ネピュラ賞・ローカス賞・英国SF協会賞受賞作品)/しばしの沈黙 | |
「スペシャリストの帽子」がとっても良かったケリー・リンクの第2短篇集ということで読んでみました。 | |
やっぱりスゴイ作家だなとあらためて思ったよね。よくこういうふうに書けるな〜とか、巧いなあってところがたくさんあって、やっぱりタダモノじゃないという印象が強まったかも。 | |
うん、素晴らしい才能だよね。ただ、ひとつだけ難を言わせていただくと、1作ごとではどれも褒めるとこ満載って感じなんだけど、短篇集としてまとまった形としては、ちとクドくて、ウンザリとまではいかないんだけど、次にまた似た感じで出されたら、読むのをためらっちゃうかな〜なんて思ったりも。 | |
う〜ん、ちょっと、ゾンビだ、霊だ、死者だという著者のこだわりがしつこく繰り返されてしまったかなというところと、難しくはないんだけどひねりまくった話が多くて、サッパリ味が恋しくなるってところはあったかもね(笑) | |
そうなのよ。1作ごとが良いから、まとめて読むとかえってもったいないって気がするな。これから読む方には1作ごとにあいだをあけることをオススメしたくなるような。 | |
「スペシャリストの帽子」はバランスも良くて、テイストもいろいろあって全体としてもとっても良かったんだけどね。 | |
やっぱりスゴイ作家だ、間違いないってのは私もこの本で確信に変わったというか、やっぱり読んでよかったという思いは強いよ。見逃すのはもったいなさ過ぎる。ただ、次はもうちょっと違う感じで、というのも願いたい。 | |
それでは、基本的にはオススメだけど、そういう感じだというのも覚悟の上で読んでねってことで。 | |
<妖精のハンドバッグ>
バルデツィヴルレキスタンなんてところの出身だと言い張っていたゾフィアおばあちゃんの死とともに、ハンドバッグが消えてしまった。それはただのハンドバッグではない。二百年以上前からある、とんでもない秘密が隠されたハンドバッグなのだ。 | |
これは最初に読むってのがもったいなくなるような素晴らしさだった。ヒューゴー賞・ネピュラ賞・ローカス賞受賞というのも納得。 | |
ゾフィアおばあちゃんのハンドバッグについてのとんでもない話も面白くて、それが本当か嘘かわからない設定も面白く、語り手である孫娘の淡い恋とうまいことからまっていくところも巧くて面白いのよね。 | |
<ザ・ホルトラク>
エリックとバトゥはカナダの国境近くにある終夜営業のコンビニに住んでいた。近くにある「聞こ見ゆる深淵」からはゾンビたちが店にやってくるが、なにを求めているのかはわからない。エリックはチャーリーという女性に恋をしていた。チャーリーはシェルターの犬を殺す仕事をしているが、殺す前の犬たちを緑のシボレーに乗せ、このコンビニに立ち寄るのだった。 | |
これはコンビニに当たり前のようにゾンビがやって来るという話なんだけど、そのことはあんまり気にせず、むしろバトゥの変人ぶりとかエリックの恋とかに注目が行くところが面白かったり。でも、なぜゾンビが来るコンビニ? ってのは意外と最後のほうになって、そういうことかとわかったり。 | |
読んでて日本にもコンビニがあって良かったとシミジミ思ったよ。あまり車も通らないような辺鄙な場所、まっ暗な道の脇に建ち、煌々と灯りを照らすコンビニの存在感がクッキリと浮かんでくるの。あのなんとも言えない感じを知っていて良かった。 | |
<大砲>
大砲についてのQと、それに対するA。大砲の名前はモンズ・メグ、デュレ・グライテ、マリク=イ=ミダン……。「スウィート・マウス」や「未亡人」などと呼ばれ、夫たちからは「人魚」と呼ばれていた。 | |
これはなにげに、これの前の短編<ザ・ホルトラク>で、ゾンビが言ったことと内容がつづいているのよね。 | |
やっぱりゾンビの言うことはわかりづらい(笑) でも、最後まで読むとなんとなくわかった気もしてくるよね。 | |
<石の動物>
ヘンリーとキャサリン夫妻は郊外にある素敵な家を買うことにした。価格が安いのは、それなりの理由があるからだった。キャサリンはその話を聞いていなかったし、ヘンリーはその種のことを信じなかった。庭には兎たちが集まり、家族が持ってきたものは次々に憑かれていった。それでも素敵な家であることに変わりはない。 | |
これは典型的なゴシック小説の流れを汲むホラー、呪われた家に引っ越してきた家族って話なの。これのオチはどうかなあ。これはこれでいいんだろうけど。 | |
だけど、みんな行動がおかしくなるのに、家だけは常に「家はいいのよ」とかばわれつづけてたよね。なんか呪われた感じとか、やたらと庭に集まるウサギとか、そもそもその家で過去になにがあったのかとかはいっさい説明なし。 | |
<猫の皮>
宿敵ラックによって魔女は毒殺された。魔女は死ぬ前に三人の子供に遺産を与えた。一番年上の少女フローラには空っぽにならないハンドバッグを、二番目の男の子ジャックにはすべての本を、一番年下の男の子スモールにはヘアブラシと火口箱とマッチと、そして復讐を与えた。魔女が死んで、上の二人の子供が出て行くと、スモールのもとには<魔女の復讐>と言う名の猫が現われた。 | |
これは大人のためのエログロありの童話って感じ。魔女と魔女の宿敵の魔法使い、いかにも魔女が遺しそうな品々、三番目の子供だけが言いつけに素直に従うところ、お姫様や王子さまが出るところなど、かなりキチンと童話しているんだけど、テイストはぜんぜん童話っぽくないという面白さ。 | |
高熱なのにお酒飲んで寝たら見た夢みたいな悪夢っぷりだよね(笑) | |
<いくつかのゾンビ不測事態対応策>
車のトランクに小さな額入りの油絵を持っているソープはパーティーをやっている家に忍び込み、そのままゲストの一人のように振る舞った。キッチンで緑色の目をした黒人の女の子カーリーと親しくなると、ソープはゾンビについて質問した。カーリーはソープがなぜ刑務所に入っていたのかを知りたがった。 | |
これはキリッとしまったオチのついた話。ソープが刑務所に入れられた経緯が不思議なお話で面白いんだけど、面白がっていると足もとを掬われるような。 | |
<大いなる離婚>
アラン・ロブリーとラヴィ・タイラーは夫婦だったが、ラヴィ・タイラーは結婚する前から死者だった。二人のあいだには三人の子供がいたが、産まれたときから死者だった。生者と死者の結婚は今や珍しくはない。ただ、この夫婦が離婚しようとしているところは珍しかった。 | |
これは生者と死者の結婚が当たり前になっている世界の話。設定としては面白いけど、これの前の話でゾンビが語られたあと、すぐこのお話でなくても良かったかな〜。 | |
というか、著者が趣味に走りすぎてて、ちょっとその愉しみっぷりについていけないって感も。 | |
<マジック・フォー・ビギナーズ>
ジェレミー・マーズという15才の少年とその母親は、亡くなった大おばからラスベガスにあるウェディングチャペルとラスベガスから60キロくらい離れたところにある電話ボックスを遺産として受けとった。ジェレミーも母親も『図書館』というドラマに夢中で、ジェレミーには同じ『図書館』ファンの4人の仲間がいる。夫婦仲がこじれたため、母親はジェレミーを連れてラスベガスへ旅立つことにした。ジェレミーは『図書館』の続きの放送と仲間4人、とくにどちらのことがより好きかわからないエリザベスとタリスと別れることが気がかりだった。 | |
これは表題作だけあって素敵なの。5人の少年少女、その中でもそれぞれに恋心が絡み合う男の子二人と女の子二人の四角関係と、『図書館』という摩訶不思議なドラマがうまくまとまって、こういうの好きってときのスティーヴン・キングを彷彿とさせるような。 | |
<しばしの沈黙>
ジェフ、ボーンズ、エド、ビートの4人はよく集まってカードをやる。4人とも人生はさほどうまく行っていなかった。ゲームを自作するのが好きなエドはずいぶんと不気味な家を買ったらしい。妻のスーザンとは別居している。スーザンは弟のアンドルーを心から愛していたが、弟はいろいろと問題を抱えていた。 | |
これは入れ子細工の極みって感じ。最初に出てきた4人が電話をかけて、スターライトという女性の話を聞くんだけど、それがチアリーダーと悪魔のお話で、そのお話のなかで、チアリーダーがスーザンという妻を持つエドという男の話をはじめて…というふうに。 | |
読んだ時はちょっとクドイかなと思ったけど、他を読んでなくて、これ単独で読んでたら、けっこう絶賛してたかもねって気も。 | |
2007.9.15 | |