すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「囚人のジレンマ」 リチャード・パワーズ (アメリカ)  <みすず書房 単行本> 【Amazon】
エディとアイリーン夫妻のホブソン家には長男アーティ、長女リリー、次女レイチェル、次男エディ・ジュニアの4人の子供がいた。6人家族は優秀な歴史教師である父エディを中心として、平凡ながらも恵まれたアメリカの良き家族となっていくと思われたが、エディの精神と肉体の崩壊により、危ういバランスを生き抜く運命共同体となってしまった。
にえ 舞踏会へ向かう三人の農夫」が私たち的にはかなりしんどかったので、もう読むこともないだろうなんて思っていたのですが(笑)、これは読みやすいということで読んでみました。
すみ 実際、しんどくなかったよね。
にえ うん、読みやすかった。内容的にもジョン・アーヴィングを彷彿とさせるような、ファンタジックさと残酷さ、温かさとほんのり美しさのある家族の物語だったし。
すみ 3つの物語が平行していくところは「舞踏会へ向かう三人の農夫」と同じパターンってことだけど、主軸がハッキリ定まっていてわかりやすいから、1本の本筋があって、それに2つが添えられているって感じで、混乱することもなく、スンナリ受け入れられたしね。
にえ 構造としては、1つは1980年代を生きるホブソン家の話、これが主軸。それに時おり、もっと先になって父を亡くしている子供たちのだれかが語る回想が挿入されるってパターンで、そこにもうひとつ、戦時中のまったく別のお話が時々出てくるのよね。まったく別というのは最初に受ける印象で言ってるだけなんだけど。
すみ そうそう、最初のうちはホブソン家の話とほとんど結びつかなかった。戦時中にウォルト・ディズニーがなにをしたかってことと、日系アメリカ人二世たちが収監されたって話で。
にえ 読みはじめのうちは、ああ、ここだけ歴史的な話が入って、アメリカの過去を表わす背景となっていくのね、なんて思ったけど、違うんだよね。あきらかに実話ではないエピソードとかが書かれていて、おや?と思いつつも読んでいくと、どんどんファンタジックになっていて、ストーリー性が出てきて。
すみ まあ、それについてはあんまりしゃべらないほうがいいのでこの辺で止めておくとして(笑)、ホブソン一家は最初から変な感じなのよね。いつからそうなったかというのはあとから徐々に語られていくの。
にえ 父親のエディはあきらかに精神か肉体がおかしくてその影響がどちらかに出ているか、もしくは最初からどっちも悪いかなんだけど、断固として病院には行かないんだよね。
すみ それでも他の家族が5人いるんだから、1対5で説得するなり、むりやり引っぱって連れて行くなりすればいいのにとも思うけど、ホントにもうずーっとその状態で、5人はジリジリとしながらもエディが決意するのを待ちつづけるような感じになっちゃってるというのは、なんとなくわかる気もする。
にえ うん、家族ってなんかそういうものって気がするよね。他人から見ると、さっさと片づけちゃえと思うようなことでも、慢性化してしまうような。
すみ エディはもと優秀な歴史教師だけあって、とても知的で、絶対に解けないようなクイズやなぞなぞを出してきたり、格言めいた言葉を次々に出してきたりと、なかなか一筋縄ではいかない様子だしね。
にえ 妻のアイリーンは大学に行き損ねてしまったことがずっとコンプレックスになっていて、エディの知的な話にタジタジとなっちゃってるみたいだし、踏んづけられるばかりのお人好しキャラが定着しちゃってるみたいだし。
すみ 結局は、夫のエディが引きこもりになっちゃって、アイリーンが働いて一家を支えているんだけどねえ。いろいろストレスは溜まっているようだけど、慣れすぎてしまってもいるような。
にえ 4人の子供も、それぞれに対処法を身につけてしまっているって感じだったしね。
すみ アーティは自己抑制、リリーは積極的な自己犠牲、レイチェルは鈍感さを装ったおふざけ、そして一番下のエディ・ジュニアは社交性を身につけて外の世界へってところかな。4人はしょっちゅうトランプをやる仲の良さで、でもまあ、小競り合いも絶えないような、そういう関係。
にえ 結局は父親というひとつの大きな問題を抱えている同志だもんね。
すみ けっこう途中までは、面白いけれどダラダラと進んでいく家族の物語かな〜なんて思ったりもしたけど、けっこう最後のほうではガーッとまとまっていって、そういうことかと驚く事実があったりもして、単なるホームドラマではなかったよね。
にえ そうそう。けっこうビックリした。結果的にはかなり読みごたえのある小説だった。
すみ まさにこういうのが読みたいのよってところを突いてるアメリカの小説かな。好きそうだったらかなりオススメですってことで。
 2007.7.15