すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「砂の都」 マルセル・ブリヨン (フランス)  <未知谷 単行本> 【Amazon】
20世紀、中央アジアのシルクロードで、マニ教の壁画を調査していた考古学者は、突然の砂嵐から逃れるため、洞窟に入った。そのまま数日を過ごすうちに、砂とともに時間の観念まで吹き飛ばされ、洞窟を出た時に広がっていたのは、13世紀のオアシス都市だった。
にえ 前から気になっていたマルセル・ブリヨン(1895〜1984)ですが、初めて読みました。最初に読むのはこれで良かったのかとビクビクしながら(笑)
すみ とりあえず、これはこれでよかったよね。『千夜一夜物語』を彷彿とさせる記述の多々あるアラビアン・ナイトの世界の幻想小説だったから。
にえ 船乗りシンドバッドと軽子のシンドバッド」のルフ鳥とか、肩に乗っかっちゃう老人の話とかが挿入されたりしてたよね。
すみ そういうところもそうだけど、商業が中心の暮らしとか、見知らぬ旅人への親切さとか、そういう全体の感じが『千夜一夜物語』そのものだった。
にえ うん、そうだね。登場人物の気品の高さなんかも『千夜一夜物語』を彷彿とさせたし。あくまでも西洋人の書いたアラビアン・ナイトの世界ではあるんだけど、なんかそれなりにスンナリ読めたかな。
すみ けっこう不思議な感じで、わからないまま読み進めちゃうところもあったりする話だけど、そのわりに滞りもなく、スルスルッと読めちゃわなかった? なんか流れるように進めて行けたって感じだった。
にえ うん、スルスルッと行けたねえ。それが逆に不安だったりもしたけど、こういう話だから、雰囲気に酔いしれてスルスルッと読んじゃって、読み終わってからなんだったんだろうと考えればいいのかも。
すみ 20世紀から13世紀にタイムスリップしちゃうって大筋じたいが、裏表紙に書かれた作品紹介を先に読んでなかったら、わからなかったりもするんだけどね(笑) なんか行くにしても戻るにしてもあまりにも滑らかで、はい、今行きましたよ〜って説明が入るわけじゃないから、よくわからないまま通り過ぎそうになっちゃう。
にえ そこがわかっていれば、なるほど、こういう話かと、あとは読んでいて理解できるよね。理解できると言っても不可解さの残る不思議な話ではあるんだけど。
すみ 要するに、主人公はタイムスリップして、13世紀のオアシス都市、人々の行き交うバザールのなかで暮らすことになるんだけど、そこに教団<星々の息子たち>の存在があり、使徒を導く<師>や<しるしの母>がいるんだよね。
にえ その教義が、なんと言うか、宗教というよりは哲学で、わかりやすくはあるけど奥深いって感じの言葉がいろいろ提示されるの。
すみ 最初にマニ教の壁画を調べてるから、マニ教なのかなと思ったけど、そうでもないような感じだったよね。アラビアン・ナイトの世界とはいえ、イスラム教徒も全然違うし。
にえ とにかくまあ、そんな宗教が存在しながらも、バザールで暮らすことになった主人公の身にも、その周りの人たちにも、都市にもいろんなことが起きることになるのよ。
すみ 主人公が関わりになる登場人物がまた雰囲気出てたよね。素晴らしく興味深い話なのに、不思議と記憶に残らない話をする講釈師のバルドゥクとか、シンドバッドのように繰り返し旅に出る金銀細工師のカルケイドスとか、ペルシア人と呼ばれつづける男とか。
にえ 水売りのマハドとか、麗しき娼婦ダクリとか、金銀細工師の娘アラトとかもいたよね。
すみ あと、絨毯などの織物とか、刺繍とかの美しさもエキゾチックな魅力たっぷりだったし、ルビーとかサファイヤとかコハクとか、宝石がいろいろ出てくるところも千夜一夜物語に通じるものがあったし。
にえ フワ〜っと幻想的なんだけど、いかにも単なる夢想っていう浮ついた感じはなかったし、わからないながらもシックリいってしまうところがあったりもして、なんだろう、身近になったけど質が落ちていないダンセイニって感じかな、そんな魅力があったかも。
すみ そうだね。ストーリーがすっごくおもしろいとか、登場人物に感情移入して夢中に読んじゃったよってタイプではないんだけど、なんかよかったよね。こういうホントに「幻想」って呼びたくなる幻想ものが好きな人にはオススメでしょうってことで。
 2007.5.25