=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「林檎の木の下で」 アリス・マンロー (カナダ)
<新潮社 クレストブックス> 【Amazon】
広く一族を含めた先祖たち、両親、そして自分…三世紀にわたる家族の自伝的短編集。 | |
「イラクサ」に続く2冊目のアリス・マンローのクレストブックスです。 | |
アリス・マンローですから、もちろんこれも短編集なのだけど、「自伝的」ってことで、ちょっと様子が違ってたよね。 | |
アリス・マンローと言えば、いぶし銀の魅力って感じなんだけど、これはさらに、いぶってたね〜、いぶしまくってた(笑) | |
自分の先祖や家族、自分のことを書いてるんだけど、なんというか、そんなにドラマティックではないんだよね。ドラマティックではないんだけど、書き方とか、目の付けどころとか、う〜ん、さすがって唸るような上手さ。創作ものよりずっと地味めな話になるから、そのへんは際立ってたよね。 | |
うん、まあ(笑) <第一部 良いことは何もない>は両親も含めた自分より前の世代の人たちの話になるんだけど、なんかちょっと想像で書いた部分が風変わりじゃなかった? なんかちょっと登場人物の行動に首を捻るようなところがあって、でもまあ、そんなこともあったかもなあとも思ったり。 | |
最初の「良いところは何もない」は小説というよりはちょっと楽しい報告書って感じなんだよね。先祖にはこういう面白い人がいたみたいな紹介ともなっていて。 | |
そのあとの「キャッスル・ロックからの眺め」の女性二人は、ちょっと歪み気味な人物像だったし、「イリノイ」に出てくるウィリアムの息子の行動もなんかちょっと危険性があったし、「モリス郡区の原野」のウィリアムの子供たちもなんというか、どう受け取ればいいのかなと迷わすようなところがあって、なんかムニュ〜っとした気持ちになったりもしたんだけど。 | |
「生活のために働く」は母親よりも娘のほうが保守的な考え方を持っていたりするところが面白かったよね。 | |
そうそう、続けて読んでいくと、アリス・マンローってけっこう旧弊的な階級意識とかを根強く持っている人だとわかったりとか、保守的な考え方をする人だとわかったりして、逆に作家としては珍しいかも、なんて思ったりした。 | |
<第二部 家>では、そういう気質がありつつも、少女らしく嫌いな女の子を邪険にしたり、見栄を張ってみたりするところも垣間見えて、なんか共感できたよね。 | |
うんうん、「雇われさん」の冒頭の部分なんて、わかるわかる、やっぱり上手いなあ、ここから書くって、なんて思ったりした。あと、「チケット」はラストでジンときたなあ。でも、「家」で継母に言ったセリフは、やっぱりこの人って、ってところがあったかな(笑) | |
では、「イラクサ」よりかなり渋めでストーリー的に期待されると厳しいところもあるけど、さすがに上手い方ですよってことで。 | |
第一部 良いことは何もない
「良いことは何もない」 スコットランドのセルカーク州エトリック・ヴァレーは、教区牧師に「良いことは何もない」と書かれるような場所だった。その地で、羊飼いのレイドロー一族の一人、ウィル・オファープは脚の速さで伝説になっていた。 「キャッスル・ロックからの眺め」 アンドリューは一家を率いてアメリカに向かう船に乗った。船のなかで、父の老ジェームズはエトリックに伝わる不思議な話を次々に披露して人気者になった。妻のアグネスは船上で女の子をぶじに出産した。姉のメアリはアンドリューの息子ジェームズを溺愛している。弟のウォルターは裕福な商人の娘と親しくなった。 「イリノイ」 1830年代初頭、アメリカに渡ってシカゴ近郊のジョリエットに腰を落ち着けた弟のウィリアム・レイドローが亡くなった。アンドリューはウィリアムの妻メアリとその子供たちをカナダに連れてくるためにジョリエットへ向かった。 「モリス郡区の原野」 ウィリアムの子供たちは未開拓の原野を目指して旅立った。アンドリューの息子ビッグ・ロブもこれに同行した。 「生活のために働く」 母は毛皮を売るためにアメリカ人旅行客が集まるマスコカへ行き、みごとに成功を収めた。父は鋳物工場で働くようになった。 第二部 家 「父親たち」 近所に住んでいた2才年上のダリアは、成績優秀でバスケットボール部の花形選手だったが、暴力を振う父親を憎んでいた。シカゴから来たフランシスは、喘息持ちのちっぽけな女の子で、みんなにからかわれていた。 「林檎の木の下で」 13才でハイスクールの一年生だった私は、競走馬の調教をやっているミリアム・マカルピンのところで厩務員として働く少年、ラッセル・クレイクとつきあうようになった。 「雇われさん」 17才の私は夏のあいだ、島のモントジョイ家でお手伝いさんとして働くことにした。モントジョイ家には10才になる娘のメアリ・アンがいた。 「チケット」 二十才で結婚することになった私は、祖母と祖母の妹のチャーリーおばさんが暮らす家を訪れた。チャーリーおばさんは祖母の昔の恋人の話をしてくれた。 「家」 私は父とイルマの暮らす家をよく訪ねた。父の新しい妻であるイルマは、勝ち気で快活な人だった。歳をとった父は具合が悪くなり、入院することになった。 「なんのために知りたいのか?」 60才を超え、地質学者である二番目の夫と暮らす私は、乳房に小さなしこりのあることがわかり、検査を受けることになった。 エピローグ 「メッセンジャー」 2004年の夏、私はジョリエットを訪ね、曾曾祖父であるウィリアム・レイドローの足跡を探した。 | |
2007.5.2 | |