すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「チャパーエフと空虚」 ヴィクトル・ペレーヴィン (ロシア)  <群像社 単行本> 【Amazon】
詩人ピョートルは好ましからざる新聞に載せた詩がもとで、政治犯と疑われ、ピストルを撃ってペテルブルグの家に来た秘密警察からどうにか逃げのびた。 ピョートルはトヴェーリ並木通りで偶然にも、旧友グリゴーリイ・フォン・エルネンに再会し、部屋へ連れていってもらった。ところがグレゴーリイはチェーカー活動員になっていて、ピョートルを連行しようとするのだった。
にえ 私たちにとっては、「恐怖の兜」から2冊目のヴィクトル・ペレーヴィンです。
すみ 本格的な長編小説としては、今回が初紹介ということになるみたいね。この方はかならずと言っていいほど「ロシアの奇才」と紹介されていて、「恐怖の兜」がかなり風変わりな感じだったから、なんとなくなるほどと思っていたけど、この本でようやく、たしかに奇才と納得した(笑)
にえ おもしろいよね〜。私はかなり気に入った。でも、これは人を選ぶかも。そうだな〜、似ているか似ていないかは別として、ピンチョンをおもしろいと思って最後まで読める人だったら、こっちも確実に最後まで読めるだろうし、けっこうおもしろがるんじゃないかと。
すみ うん、私たちが読んだかぎりじゃ、ピンチョンが一番近いかもね。とにかく、この方の場合は、行き過ぎかなってぐらいの知的悪ふざけが満載で、このやろ〜とか思いながらもニヤッとしてしまうというか。
にえ このやろ〜と思うよね(笑) だいたいタイトルからして人を食ってるし。「チャパーエフと空虚」ってタイトルだったら、普通、主人公の名前がチャパーエフなのかなと思うじゃない? 残念でした、主人公の名前は「空虚」のほうでした(笑)
すみ 幻覚というか、夢というか、そういった世界の中でのことだから、信じちゃいけないと思いつつ、信じちゃうってところも多かったよね。なんかやたらと、実在した人物の名前がビシバシ出てきて、もっともらしく書いてあるから、つい引き込まれちゃうみたいな。
にえ そう、たとえば、「胡蝶の夢」の話をする地下活動家の荘子を銃殺した「黒のバロン」と呼ばれるユンゲルン・フォン・シュテルンベルクという人が現われるんだけど、この黒のバロンはほぼ実在の人物らしくて、1886年生まれの方で、まあ、時代的にストーリーと合うからここは実話か〜なんて一瞬思ったけど、荘子は紀元前の思想家じゃないの〜、このやろ〜っ(笑)
すみ そうそう、そんな感じでもっともらしく大ボラ吹いてくれるよね。精神病院で一人の夢をみんなで共有する治療をやってて、その時の夢のひとつに日本人が出てくる話があるんだけど、そこを読むと、この方の嘘のつき方のパターンがつかみやすいかも。
にえ いいかげんなことばっかり書いているようでも、けっこう知識の裏付けがあるんだなとわかるよね。その夢ではタイラ商事という会社のカワバタという人が出てきて、タイラ商事はミナモト・グループと敵対関係にあったりするんだけど。
すみ アケチ・ミツヒデとかアリワラ・ナリヒラなんて名前が出てきたり、耳なし芳一の話が挿入されていたり、「七人の侍」とか「仁義なき戦い」なんて映画名が出てきたり。
にえ とにかく時代やらなにやらメチャクチャだったりして、薄っぺらい知識を適当に拾い上げて書いているだけかな〜と思って読んでいると、意外とそうでもなかったりして、う〜ん、こいつ、侮れないっ、と思ったよね。
すみ まあ、とにかく大変な方ですよ。そういうのが好きな方なら、かなりハマれると思うよ。実際、おもしろかったし。
にえ いろんな方面の知識が盛り沢山に入ってるよね。宗教だって、仏教、キリスト教、ユダヤ教などなど。中国についてもいろいろ書かれてるし、映画名もいっぱい出てくるし。あ、アーノルド・シュワルツェネッガーも出てくるし(笑) とにかく、ここまで詰めこむかってぐらい。
すみ ロシアの文豪はほぼ全員名前が出てきたよね。ゴーリキイ、トルストイ、ナボコフ、ドフトエフスキイ……どうやってさりげなく入れられてるかは読んでのお楽しみってことで(笑) でも、タップリ詰めこんであるわりには、そんなにごった煮って感じもしなかったような。話は入り組んでたりするんだけど。
にえ 元がわかっていても、あえて無視して自分の小説に組み込んでるからじゃない? チャパーエフについてもモデルがいるらしいけど、あんまり原形にこだわっていないらしいし。
すみ ただ、頭の100ページぐらいまでは、ちょっとキツかったな。地の文はわかりやすいからストーリーは追えるんだけど、会話文が難しすぎて、ほぼ理解不能で。
にえ うんうん、イヤになりそうになった。でも、ぐっと堪えて読み進めたら、100ページ過ぎたあたりからはそう難しくもなくなって、前の100ページ分の会話文については、ほとんど理解できてなくても、とりあえず支障なく楽しめるのかとホッとしたり。
すみ 全体としてはどういうストーリーかというと、最初は主人公のピョートル・プストタ(空虚)が逃亡中に殺人を犯して、その殺した相手になりすましてってところから始まるんだけど、そこから先は二つの世界に分かれるの。
にえ ひとつは、精神病院に収容されて、治療を受けているピョートルなのよね。患者仲間もできて、一人の夢をみんなで見るって治療を受けてて。
すみ もうひとつの世界は、赤軍の将校チャパーエフに連れられて、白軍との戦争に巻き込まれ、アンナという機関銃手の女性に恋をするというお話。
にえ どっちが現実で、どっちが夢かは、幻想小説ならではのことが片方の世界で起きるからすぐにわかるけど、じゃあ、その前のことは幻覚だったのか現実なのかって問題はいつまでも残っちゃう。それは最後の最後にわかるのよ。わかったあとで、もうひと展開あるけどね。
すみ だれに勧めたらいいかわからないけど、嫌にならないどころか、好きになっちゃうかもな〜という予感がした方にはオススメ。ハマれば確実におもしろい! ハマらなかったらごめんなさいってことで(笑)
 2007.4.20