すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「恐怖の兜」 ヴィクトル・ペレーヴィン (ロシア)  <角川書店 単行本> 【Amazon】
【ミノタウルス】 頭が雄牛、体が人間の異種混合の怪物。本名はアステリウスという。クレタ王ミノスの妻パシファエが、ポセイドンから王に贈られた白い立派な雄牛と交わって生まれた。恐怖におののく王はミノタウルスが人目に触れないよう、お抱えの工人ダイダロスにラビリンスを造らせ、その中に閉じ込めた。ラビリンスは広間と迷路が錯綜した迷宮で、決して出口がみつからないようにできていた。
 この怪物は毎年、ミノスがアテネから生贄として連れてくる7人ずつの少年少女を餌として与えられた。アテネの王子テセウスは、これを退治するため、食われる運命にある可哀想な若者たちの中に紛れ込んだ。ラビリンスに入った英雄は見事ミノタウルスを倒し、彼を愛していたミノスとパシファエの娘アリアドネが渡してくれた糸玉で、来た道をたどって外に出ることができた……。(ルネ・マルタン「図説ギリシア・ローマ神話文化事典 松村一男訳・原書房」 ―「恐怖の兜」巻頭ページより引用)
にえ <新・世界の神話プロジェクト>の1冊です。これで5冊めかな、私たちは1冊飛ばしちゃってるんで、4冊め。
すみ 今回はギリシア神話のミノタウロスの話。もとの話がわからないと、どう新しくなったかもわからないので、上にもと話を書いておきました。わかってる方も念のため、再確認をっ。
にえ ヴィクトル・ペレーヴィンはロシアのSF・純文学作家で、ロシアでもっとも人気の高い作家の一人、欧米でもかなり高い評価を受けているみたい。
すみ 邦訳本もあるけど、日本ではまだあんまり知られていないよね。これを機会にってことになるといいかもっ。
にえ でも、これしか読んでないけど、けっこう小難しいタイプではあったよね。他の作品もこんな感じなのかな。
すみ うん、この小難しさは喜ぶ方と、う〜んって方にハッキリ分かれそう。
にえ まずはどんな感じかというと、なんと、全編がチャットなんだよね。
すみ そうなの。ある日突然、ミノタウルスのラビリンスに閉じ込められてしまったらしき8人の男女。8人はそれぞれ部屋の中にいて、そこにはパソコンらしきものがあって、互いが迷宮のなかのどこにいるかはわからないけど、そのパソコンを通じてチャットで会話ができるの。
にえ パソコンらしきものは8人でのチャット以外では使えないんだよね。で、チャットじたいも介入されることはないけど、厳しく監視されてるようで、個人を特定するようなことを書こうとすると、そこは伏せ字で「]]]」となっちゃう。だから、名乗り合うことすらできないの。
すみ それぞれのハンドルネームはあるけど、それも勝手につけられた名前で、自分で選んでつけたわけじゃないんだよね。
にえ 男性は「オルガニズム(^O^)」「モンストラダムス」「ナッツ・クラッカー」「ロミオとコイーバ」「サルトリスト」、女性は「アドリアネ」「ウグリ666」「イゾルデ」。なぜか「オルガニズム(^O^)」だけ顔文字がついてるんだよね。
すみ 8人は区別がつきやすかったよね。それぞれの個性もハッキリしているし、名前もそれぞれ変というか、特徴があるから、混乱しなくて済んだ。
にえ 8人は会話のなかで、ここはどこなのか、なんの目的で閉じ込められているのか、どうしたら助かるのかってことを模索していくのよね。そのうちに、いろんなことがわかっていって。
すみ 一組カップルも成立しちゃうしね(笑)
にえ とにかく最初のほうはけっこう楽しいの。不思議な状況のなかに辛辣なユーモアも混じって、グイグイ引き込まれていく感じ。
すみ ただ、途中で急に難しい話になるんだよね。それが謎を解く鍵ともなるんだけど。
にえ 理解しきれないながらも、ラストはけっこう圧巻だった。そういうことか〜みたいなところがあって。
すみ 途中の難しい話は、何度も読み返してもなんとなくだったけどね。できれば図で説明してほしいっ。というか、自分で図を描けばいいのかっ(笑)
にえ 全体としては、チャット形式ってことで会話文のみだから、サクサク読めちゃうんだけどね。その中にさまざまな人間模様とか見えてきて、かなりおもしろいし。
すみ 決め手はやっぱりこの小難しさを面白がれるか、辛くなるかだろうね。それにしてもこの作家さん、広範囲にファンがいるというのには納得。神話ってことで存在に気づかない人も多そうだけど、好き嫌いの極端に分かれるSFが好きなタイプの人とかに、ぜひお試しいただきたい作品だな。確実にファンになる人がいる作風でしたってことで。
 2006.12.26