すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「別離のとき」 ロジェ・グルニエ (フランス)  <みすず書房 単行本> 【Amazon】
<幻滅の専門家><陽気なペシミスト><挫折の小説家>ロジェ・グルニエの八十代になってからの短編10編を収録した短編集。
別離の時代/あずまや/モンマルトルの北/菩提樹のしたで/オスカルの娘/お生憎さま/シンメトリー/その日、ピアフとコクトーが……/一時間の縫合/秘密
にえ 私たちにとっては長編「シネロマン」から久しぶりのロジェ・グルニエです。
すみ 「シネロマン」は私たちにとっては、特にお気に入りの小説のひとつだよね。すっごく、すっごく良かった。古めかしいスローテンポの展開で、客の減っていく映画館の雰囲気に酔いしれるのが嫌じゃない方にはオススメですっ。
にえ ここで「シネロマン」の宣伝をしてしまうか(笑) でも、お気に入りだから、やっぱりファンが増えてほしいよね〜。
すみ そうでしょう、そうでしょう。で、こちらの短編集なんだけど、まだ2冊目の私たちがロジェ・グルニエらしいな〜と言いたくなるような作品群だったよね。
にえ 「シネロマン」もそうだったけど、この本に収録された作品も大部分が<幻滅>とか<挫折>とかがテーマというか、そういった傾向になっているんだけど、不思議と読んでいて暗く、重苦しくなっていく感じじゃないんだよね。
すみ <陽気なペシミスト>って称号が、ロジェ・グルニエには一番合ってるのかな。でも、陽気っていうのも違うような。サラッと笑える…いや、笑うのとはまた違うけど、なんかフランス語で「ああ、人生って…」なんて呟きながら、軽く肩をすくめてフッと微笑むような、そんな雰囲気なんだよね。
にえ そうそう、おおげさな絶望まで行かなくて、もっと身近で共感しやすい、人生の「うまく行かない」が描かれているんだけど、それがなんともやるせないんだけど、まあ、こんなもんだろうとも思ってしまうような。なんか逆に、やっぱりみんな、こんなものだよね、とホッとしてしまうような。
すみ 私たちが一番好きだったのは、「オスカルの娘」だよね。これはぜひ読んでいただきたい〜。ということで、初ロジェ・グルニエにもいいですよってことで、なぜだかやたら醸し出される古めかしい雰囲気と、この路線的なものが好きそうな方にはオススメです。
<別離の時代>
戦時中である1944年4月、パリの建築事務所で設計士として働くリュドヴィック・ジェスランは連絡がつかなくなった恋人ドミニックに会うため、クレルモンへの旅を決行した。途中、子どもを連れたサビーヌという女性と知り合い、惹かれあうものがあったのだが……。
にえ 恋愛はタイミングが大事よね。こういう思い出してみて、ああ、あのとき…って経験をしている人は多いんじゃないかなあ。
すみ ちなみにこの作品のタイトルは戦時中を指しているから「別離の時代」、本のタイトルは全体を総称しているから「別離のとき」だそうです。ものすごく納得してしまった。
<あずまや>
調査のためマウイに訪れた地質学者トマ・セルヴァには、「クロイツェル・ソナタ」にまつわる思い出がある。二十歳の頃、ロシアから来た少女アニューシカ・シニャーコワの弾くヴァイオリンにピアノ伴奏をする機会を得た。アニューシカに惹かれるトマは思いきって、自分の家で練習をしないかと誘ってみた。
にえ これはキーワードとなる「クロイツェル・ソナタ」が本のタイトルと楽曲のタイトル、両方を指して、ひとつの思い出を形作っているところが上手いな〜と思ってしまう作品だった。ちょっとまあ、ストーリー的には先は読めちゃうけど(笑)
<モンマルトルの北>
1942年、われわれの部隊の演芸班は途中の宿営地の町々で公演を行った。そのなかでもっとも私が惹きつけられたのは、師団随一の道化師であるシュネルという男だった。それもそのはず、シュネルはモンマルトルの住人で、多くの著名人と知り合いだった。
すみ これはなんというか、<幻滅の専門家>ならではの作品なんだけど、オチがついてて、そこの思わず、なるほど〜と笑ってしまった。
<菩提樹のしたで>
ノルマンディーのドンフロン地方の農場の娘マリは、牛に同じマリという名前をつけられて不機嫌だった。しかし、ドイツ人捕虜の作男としてやって来たのをきっかけとして農場で働く、コンラート・リュッケルトは牛のマリをことのほか大切にしていた。
にえ 話の始まりから結末に至るまでの展開が鮮やかというか、ありゃりゃ〜というか、でもまあ、そんなものよねと納得したりもする感じでした。って、説明になってないか(笑)
<オスカルの娘>
ピレネ山脈のふもとにある小さな町の住人は、サイレント時代に一人の映画スターを、そして、現在、映画プロデューサーとして活躍しているオスカル・ガルランを輩出したことが自慢の種だった。オスカルの娘ニーナを少しばかり知っていた私は、彼女のおかげで映画業界の一員に加わることができた。
すみ これは良かった〜。どうなるんだろうとストーリーに引き込まれて、あまりにも当たり前な最後の一言でジンと来てしまった。
にえ やっぱり映画がらみが良いのかな、この方は。映画の話じゃなくて、映画にまつわる人たちで、監督とか俳優とかって中心じゃなくて、もっともっとのその周辺にいる人たちの話が良いのよね。なんか独特の雰囲気が出るみたい。
<お生憎さま>
やがて四十歳になろうというのに、一目惚れというものをしたことがなかったマルタは、クリストフに出会い、初めて一目惚れを経験した。しかし、残念ながらクリストフは既婚者だった。
すみ これは、あらまー、そりゃそうよ、当然そうなるわよね、ってお話でした。人間は愚かで切ないですねえ。
<シンメトリー>
私と同じ六階の部屋に住む女は、離婚して幼い男の子と暮らしていた。ある日、その女がエレベーターに閉じ込められた。
にえ シンメトリーとは左右対称。で、人の世話を焼くのもいいけど、自分はどうなのよってお話。
<その日、ピアフとコクトーが……>
女優のエディット・ピアフが亡くなった。私は以前から用意されていた原稿の仕上げを任された。かつて花形記者だったクロード・プレヴァル女史は、コクトーの死亡記事を書くことになった。
すみ これはよけいなストーリー説明をしないほうがいいかな。とにかくクロード・プレヴァル女史は、戦前は美人で有能で有名だった記者なんだけど、今では情けない状態になってるの。
<一時間の縫合>
レミ・ラファルグは空港の階段で転んでしまった。眼鏡が割れて目のまわりを切り、縫合手術を受けることになったが、そこで美しい看護婦に出会った。
にえ この作品だけは、なんか前に読んだ気がしたんだけど、気のせいかなあ。それはともかく、主人公は望んだわけでもないのに独身を通して老年に入った男性で、こういう経験はけっこうだれしもが日常的にしていて、共感してしまうんじゃないかな。
<秘密>
ただ人に従って生きてきたジェルマン・ドバは読書が趣味だった。だが、蚤の市で見つけた、ある司祭の研究書に触発され、これまでとはまったく違う生き方を思いついた。
すみ まあ、人生そんなものですよ、って、切なくなる前に妙に納得をしてしまうお話でした。まあ、それでもよかったんじゃないの、みたいな。あ、あと、ロジェ・グルニエの好きな作家や本がたくさん出てくるのも楽しみどころですっ。
 2007.3.24