すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「記憶の書」 ジェフリー・フォード (アメリカ)  <国書刊行会 単行本> 【Amazon】
理想形態市の崩壊から8年後、のどかながらも交易が盛んになったウィナウの村で、クレイは薬草を売り、出産の手伝いなどしながら暮らしていた。マスター・ビロウの支配から逃れ、平和が訪れたかのように思われたが、ある日突然、「それ」がやって来た。空を飛ぶ金属の鳥である「それ」は、ビロウの声で挨拶をし、爆発した。人々は眠り病に冒され、起き上がることができなくなった。治療薬を手に入れるため、クレイはマスター・ビロウのもとへと旅立った。
にえ こちらは「白い果実」の続編、というか、三部作の第2部です。
すみ 読む前はリライトの方が変わって、文章が大丈夫かとそればっかり心配していたけど、大丈夫だったね。
にえ うん、今度は詩人の方だからどうなんだろうと思ったけど、「にっこり」を「莞爾」と書くこだわりがご愛敬ぐらいで、けっこうスッキリして読みやすかった。
すみ もしも本屋さんで先に巻末のあとがきだけ読んでいたら、ビビッただろうけどね(笑) なぜか途中から読点打つのを忘れたかのような文章には驚いちゃうけど、小説本文のほうでは適度な読点が打たれてますのでご安心を。
にえ 私は「白い果実」では、どうも何を目指しているのかわからないようなところがあったんだけど、これを読んでようやくわかった。けっきょく、愛がテーマなのね、この方は。行きすぎて笑ってしまうようなグロテスクさとか、悪趣味すれすれの小道具とか、独特の美意識とかに目を眩まされて、そっち方向なのかと期待すると肩すかしを食らっちゃうけど、愛がテーマなのかとわかったとたん、なんかストンと腑に落ちた。
すみ なんかこの第2部は、第1部よりまとまりもよくて、わかりやすかったよね。
にえ うん、最初から目標もしっかり設定されていたしね。観相官だったクレイは、美薬の呪縛も逃れ、マスター・ビロウからも逃れて、原始にかえったような村で平和に暮らしているんだけど、そこにビロウの手が伸びてきて。
すみ 村の人たちが次々に眠り病にかかり、その治療薬を手に入れるため、マスター・ビロウのもとへと旅立つのよね。もちろん、殺す覚悟。
にえ 旅立ちのときのクレイの姿は、ドン・キホーテ風でちょっと笑いどころかな。
すみ でも、一緒に行く犬がけっこう頼もしかったよ。
にえ なんと今回は、マスター・ビロウの頭の中を旅することになるの。
すみ ビロウの記憶が元になった世界だから、美薬とか、グレタ・サイクスとか、白い果実とか、猿のサイレンシオとか、懐かしいものの登場もたくさんありよね。
にえ マスター・ビロウの過去もわかってきて、これが結構おもしろかったというか、興味深かったりもしたしね。
すみ 今回のヒロインとなるアノタインという女性がまた凝った設定だったし。
にえ 愛よ、愛っ、愛なのよ!
すみ たしかに愛がテーマかもしれないけど、男女の愛には限らなかったけどね(笑)
にえ とにかくまあ、なんだろう、私が慣れたためなのかもしれないけど、かなり良かった。なんだか最後の最後まできっちり展開が出来上がってるって感じだったし。
すみ 第1部で解決したとは言い難かったクレイの精神的な部分もなんか落ち着きどころを見つけたし、読後感も良かったよね。第1部を読んでる方なら、やっぱり迷わず読むべきでしょうってことで。
 2007.2.25