すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ヒストリー・オブ・ラヴ」 ニコール・クラウス (アメリカ)  <新潮社 単行本> 【Amazon】
レオポルド・グルスキ(レオ)はニューヨーク、ダウンタウンのアパートで独り暮らしながら、年老いて死にかけている。母と弟を殺され、ポーランドから渡ってきたユダヤ人であるレオは、錠前屋として50年働いた。レオは今、57年ぶりに小説を書いている。それは愛した女性のためなのか、会うことも赦されない息子のためなのか。 アルマ・シンガーは14才、7才で父を亡くし、翻訳家の母と自分を「隠れた義人」だと信じる弟と暮らしている。ある日、母のもとに、世の中から忘れ去られてしまっている1冊の本を翻訳してほしいと依頼があった。ツヴィ・リトヴィノフ作「愛の歴史」。実はアルマという名前は、この本に出てくる「すべての少女」にちなんでつけられた名前だった。
にえ 唐突ですが、この本はヤバイ時期に読んでしまった。まだ1月も半ばってときなのに、年間ナンバー1かもしれない予感。
すみ うん、たしかに去年末に読んでいたら、これを1位にしていたかもね。
にえ なんというか、この本を読み終わったあと、おおげさな表現じゃなくてホントに、しびれてしばらく体が動かなくなってしまった。どう褒めればいいのか、陳腐な言いまわしかもしれないけど意外に使っていない「感銘を受けた」という言葉でしか表現できないような。
すみ あとから読む人のために、あんまり違った方向の期待をさせちゃったりとかしないようにするためにあえて言えば、サクサク読めるって感じではないし、地味と言えば地味だよね。
にえ うん、でも、なんと言うか、とにかく凄かった。まず文章。流れるような美しい文章という言い方もちょっと違うかもしれないけど、とにかく嫉妬心さえわいてきそうな文章で、読みはじめから、こ、これはっとドキドキしてしまった。
すみ 著者はもともと著名な詩人なんだってね。だからこの卓越した表現とか、ポイントとなる言葉の繰り返しとか、いろいろ効果的な手法を使っているんだろうな。
にえ そういえば、この小説のなかにたびたびブルーノ・シュルツの「肉桂色の店」の本が登場するよね。中身にはいっさい触れられていないけど、やっぱりこういう作品に惹かれるような作家の書いた小説なんだなとシミジミ納得してしまった。
すみ ブルーノ・シュルツに似てるってことはないけどね。でも、詩ではなく、起きた出来事を綴っていく小説で、こういう文章の流し方をするってホントに凄いよね。私も読んでて何度かゾクゾクっと来たよ。
にえ そしてストーリー。最初のうちは、まったく結びつかない別々のお話が、1冊の本によって少しずつ繋がりが見つかっていき、結びついていく。そして明らかになっていく真実。うー、なんだろうなあ、たぶん、読んだ人全員が感動しまくるって小説ではないんだろうけど、ばらつきがあろうがなかろうが、この小説はホントにホントに凄い、ぜったい凄いっっ。
すみ 興奮状態だね(笑) でも、この本、私たちにとっては初めての作家さんだったし、好みではないタイトルだったりもして、正直あまり期待していなかったから、見つけた!って気持ちは強くなっちゃうよね。
にえ そうなの、ホントにやられた、やられた、悩殺された。とりあえず、ちょっと間をあけてもう一度読みたいっ。
すみ どんな話かというと、まず、レオポルド・グルスキ、通称レオという80才を過ぎた老人の話。レオは自称死にかけで、同じ孤独な身の上のブルーノという親友がいる以外は、ほとんど他人との接点もなく、みすぼらしいアパートに暮らしているの。
にえ レオはユダヤ人で、ポーランド移民。ポーランドでは母親に命じられて一人の森の中に逃げ、どうにかこうにか生き延びたの。
すみ 恋人がいたんだよね、まだ十代ではあったけれど、心から愛し合い、結婚を誓い合っていたの。その恋人はずっと先にアメリカへ渡ったんだけど、アメリカで再会する約束に。
にえ そして、レオは今、ニューヨークの片隅で孤独に暮らす老人。一度も結婚したことはなく、言葉を交わしたことすらない息子アイザック・モーリツは著名な作家。レオはアイザック・モーリツの新聞記事なんかを必死で集め続けているけど、アイザック・モーリツはレオの存在すら知らない。
すみ で、もうひとつの話は14才のアルマという少女のお話なのよね。アルマは7才で父親を亡くし、まだ若さも美しさもある母親を素敵な男性と結婚させようと奮闘中。
にえ 弟のバードは、父親の記憶があまりないぶん、気持ちを神様に向けちゃってるみたいなのよね。ちょっと変な信仰心の示し方で、自分を「隠れた義人」だと信じていて。
すみ アルマという名前は、亡き父が大切にしていた本「愛の歴史」に出てくる少女からもらった名前なのよね。その本の著者であるツヴィ・リトヴィノフが最後に愛した少女の名前。
にえ ツヴィ・リトヴィノフの話も挿入されているよね。年の離れた若い妻ローサが、亡き夫ツヴィ・リトヴィノフについて語るの。
すみ さあ、これらの話のなにがどう結びついていくんでしょう?って感じだよね。
にえ ストーリーのなかには、レオが書いた小説や、アイザック・モーリツが書いた小説、それに「愛の歴史」からの抜粋も紹介されていたりして、入れ子細工のような、物語が重なっていく複雑さ。なんだろうと思いつつ、一つ一つの話に魅了されたり、登場人物の息苦しいまでの状態にウウッとなったり、14才の少女の上手くいかない恋にホロッとしたりしながら読み進めていくと、最後には…ということになるの。生きる辛さも優しさも、全部ひっくるめて込められていて。って、あー、ぜんぜんこの小説の良さが語れない(泣)
すみ うん、私もうまく言えないけど、読むうちに、物語のうねりのなかに飲み込まれていくような感触があるよね。時間にして約60年、場所はポーランドとアメリカ、そのあいだに何人かの思いが交錯し、ややこしく縺れてしまった糸が最後にはほぐれてシンプルになる、そういうお話。まあ、とにかく強くオススメするので読んでみてください。あなたが気に入っても気に入らなくても、これは凄い小説ですよってことで。
 2007.1.15