=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「ソフィーの選択」 上・下 ウィリアム・スタイロン (アメリカ)
<新潮社 文庫本> 【Amazon】 (上) (下)
1947年、出版社を馘になった22才のぼく、通称スティンゴは、家賃の高いマンハッタンから、ユダヤ人が多く住むブルックリンへと引っ越すことにした。幸運に恵まれてちょっとした金を得ることができたので、しばらくは働かず、小説を書いて作家を目指すつもりだった。 スティンゴが選んだ貸部屋は、ピンク一色の驚くべき建物の一室だったが、そこではネイサンとソフィーという年上のカップルとの素晴らしい出会いが待っていた。 1980年全米図書賞受賞作品 | |
著者のウィリアム・スタイロンは去年(2006年)11月にお亡くなりになりました。で、この「ソフィーの選択」は全米図書賞受賞作品でもあり、いつかは読もうと思っていたので、重い腰を上げてようやく読むことにしました。なんか絶版みたいなんだけど。 | |
どうでもいいような話だけど(笑)、これを読むまで、なんか両方読んでなかったせいか、「ソフィーの世界」とよくゴッチャになっちゃってたんだけど、これでようやく区別がついた。あちらは「一番やさしい哲学の本」として知られるノルウェー発の本、こちらはアウシュビッツを扱ったアメリカの本、お間違えなく。 | |
ついでに言えば、アウシュビッツ? またホロコースト本かと思った方、ちょっと違いますよ〜。 | |
ホントそうだよね、そういう単純な受けとり方はできない小説だった。 | |
どういう話かというと、語り手は22才の頃の著者そのままみたいな感じなんだよね。南部出身で、海軍帰りで、実名入りの出版社をホントにクビになっていて、「ソフィーの選択」の前に発表された「闇の中に横たわりて」を書いていたり、その次の「ナット・ターナーの告白」の構想を練っていたりもするし。 | |
この小説がすべて実話ってわけではないんだよね、ただ、現実とあまり区別をつけずに書きたかったって感じかな。 | |
渾名のスティンゴで呼ばれる語り手は、南部出身で、22才で童貞、作家を夢見る健康で、見た目も悪くない青年なのよね。 | |
南部といえば黒人差別、ニューヨークでは南部出身ですと言うだけで、おまえらは黒人を虐待しつづけた野蛮な奴らで、しかもナマリのキツイ田舎者で、とさんざんな言われかたをする時代だったみたい。 | |
本当のところ、スティンゴのお父さんは、今以上に黒人が権利を獲得する日が遠からず来るはずだし、それをなにより楽しみにしているって公言してはばからないような人なんだよね。 | |
このお父さん像は、かなりウィリアム・スタイロンの本当の父親に近いんだろうね。愛情あふれる書き方だし、この小説じたいも父親に捧げられたものだし。 | |
知的で、しかも思い遣り深くてやさしくて理解があって、本当に素敵なお父さんだよね。スティンゴもお父さんの待つ南部に何度か帰ろうとするんだけど。 | |
スティンゴをブルックリンに引き留めるのは、ネイサンとソフィーの存在なんだよね。たまたま借りた下宿で、上の部屋に住んでいたのがネイサンとソフィーなの。 | |
二人は30才ぐらい。ネイサンはファイザー社の研究所に勤める生物学者のユダヤ人、ソフィーはアウシュビッツで20ヶ月を過ごしたポーランド人で、ユダヤ人ではないの。 | |
この本を読むまで知らなかったけど、ポーランド人もおおぜいアウシュビッツに送られ、殺されていたんだね。しかも皮肉なことに、ポーランド人のユダヤ人嫌いは当時ひどいもので、ユダヤ人を隔離するゲットーも、ポーランド人が考え出したものらしいの。 | |
ソフィーは腕に数字の刺青を入れられてしまっているけれど、ポーランド人ということでユダヤ人より後回しになってすぐには殺されず、収容されて20ヶ月後には、アウシュビッツを生きて出られることに。 | |
ドイツ語がポーランド語以上に得意だったことも幸いしたみたいね。父親も夫も大学教授で、その手伝いをするためにドイツ語の速記も得意だったから、だいぶ有利だったみたい。 | |
父と夫は大学教授だったために、ドイツ軍に殺されてしまったんだけどね。 | |
ソフィーは金髪の「悩殺美人」で、スティンゴも一目見るなり夢中になってしまうの。ネイサンとは最初のうち反目しあうけど、打ち解けてみれば、ネイサンほど頭がよくて、楽しい人はいないと思いはじめて。三人はいつでも一緒の仲良し三人組に。 | |
ただ、ネイサンは突然、怒りにかられて我を忘れてしまう時があるんだよね。そういう時、ソフィーへの嫉妬心は凄まじくて、暴力沙汰になったりもするんだけど。 | |
ふだんは本当に仲が良くて、素敵なカップルなんだけどね。 | |
で、ときおりソフィーはポーランドにいた頃、アウシュビッツで過ごした日々について語るんだけど、そこには嘘が混じっていたり、故意に隠された事実があったりすることが、次第にわかっていくんだよね。 | |
ソフィーだけじゃなく、ネイサンにもまた、隠されているものがあったことを知ることになるんだよね。 | |
ということで、ホントに読み深い小説なの。アウシュビッツの真実を伝える内容ともなっているし、次第にわかっていく真実に驚愕するサスペンス的な要素もあり、南部出身青年のニューヨーク青春物のような味わいもあり、いろんな方向から堪能できる小説だった。とても丁寧に描き出されていくし。 | |
その要素一つ一つがすべて小説1作分の充実した内容だったしね。あと、ソフィーが何度か人生の岐路に立って行う「選択」について考えさせられた。これは読後も考えさせられちゃうな。今からでも読む価値ありの小説でした。読む気がある方には間違いなくオススメってことで。 | |
2007.1.6 | |