=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「大統領の最後の恋」 アンドレイ・クルコフ (ウクライナ)
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1983年、学生でもなく、勤めているわけでもなく、母親のスネをかじっているだけの青年セルゲイ・ブーニンは、たいして好きでもないガールフレンドが妊娠して、できちゃった婚をすることになってしまった。2003年、副大臣を務めるセルゲイ・ブーニンは、軽めの統合失調症である双子の弟ジーマをスイスの療養所に入れることにした。ジーマは同じ病にかかったワーリャという美しい女性と恋をしていた。セルゲイもまた、ワーリャの姉であるスヴェトラーナに恋をした。2015年、大統領であるセルゲイ・ブーニンは、政敵と戦いながらも、心臓移植の手術を受けた。心臓のもとの持ち主である亡夫の心臓から離れたくないと主張する、マイヤ・ウラジーミロヴナ・ヴォイツェホフスカヤという女性と官邸で同居することになってしまった。 | |
アンドレイ・クルコフは「ペンギンの憂鬱」につづく、2冊めの邦訳本です。 | |
この小説もウクライナが舞台で、前作同様、自然や町の美しさとともに、暗くてどこかグロテスクな雰囲気がビシバシと伝わってきたよね。 | |
「ペンギンの憂鬱」では寒中水泳をするのはペンギンだけど、この小説では人間だったけど(笑) | |
内容としても、前作はペンギンの魅力が強くて、人間の不条理劇は薄味の印象だったけど、こちらはしっかり主人公の心理に焦点が当たってたよね。 | |
「ペンギンの憂鬱」はザラッと後味の悪さって言ったけど、こちらは明るい希望も見えるしね。ただ、主人公が3分裂しているのだけれど。 | |
そうなのよね、ひとつずつがかなり短い章で、数で言うと全部で216+エピローグ、そのなかには1975年ぐらいから始まる、まだ頼りなげな青年セルゲイ・ブーニン、2003年あたりから始まる、副大臣として頑張っているセルゲイ・ブーニン、2013年あたりから始まる、大統領となっているセルゲイ・ブーニン、と、同一人物なんだけど、年代が違って3人の主人公がいるみたいに話が並行して進んでいくんだよね。 | |
私は最初、各章につけられた何年何月ってのを見ていなくて、混乱しそうになった(笑) | |
そうそう、最初のうちは、何年なのかきっちり確認してから読みはじめないと、わけがわからなくなっちゃうかも。 | |
一番若い、青年の頃のセルゲイ・ブーニンは、かなり軽〜い感じなの。学校へ行けと言われて、母親が手配してくれたから行くことにして、知り合った人がここで働けって言うから働くことにして、子供ができちゃったから結婚してくれと言われたから結婚することにして、みたいな。 | |
いい出会いもあるよね。ダヴィド老人っていうユダヤ人のおじいさんと心の交流を持って、深く繋がっていくような関係になるの。 | |
なにげにお母さんが凄くなかった? 父親が早くに亡くなって、母子家庭で育つんだけど、お母さんはなんだかものすごい遣り手みたいで、何かをしようってことになると、パパッと裏で手を回して、実行してしまうの。 | |
そういうときは金を惜しまないみたいだしね。本人は古くて、ちょっとみっともないぐらいの服をずっと着ていて、息子のためには何でもやってのけても、自分にはお金を使わない人みたい。 | |
セルゲイもお母さんにはかなり感謝してるみたいだったよね。ガミガミ言われてうざったいと思っても、あとで、それでもやっぱりお母さんには感謝しなくちゃって、いつも考えて、プレゼントを買ってあげたりする、やさしい一面も。 | |
セルゲイには双子の弟がいるんだよね。統合失調症で、病院に入るしかなくなってしまうんだけど。この時期にはセルゲイは月に一回ぐらいしか、会いに行っていないみたい。 | |
この青年がどうなったら大統領になるんだと、かなり不思議な感じだよね。それがだんだんと道が開けていくの。もちろん、他にもいろんなことが起きて、けっこう人との繋がりにジーンと来たりするんだけど。 | |
その次が副大臣の頃のセルゲイだよね。この頃には、弟の経済的な面倒を完全にセルゲイが見ているみたいで。 | |
この時代の話の中心は、弟のこととスヴェトラーナのことだよね。スヴェトラーナは、セルゲイが一生に一度だけ真剣に愛したと思っている女性。 | |
この時代の話はけっこう辛いよね。それだけに印象的だけど。 | |
そして大統領時代。心臓移植をきっかけに、マイヤという女性と関わりを持つんだけど。 | |
政敵のさまざまな陰謀があったり、味方の人たちにもいろいろ思惑があったりして、かなりややこしいことになっていくよね。最後のほうには、そういうことだったのかとわかって、ミステリを読んだような気分がしたかな。 | |
だけどさ、3つの話が最後にはひとつにまとまるのかなと思ったら、繋がりがしっかりと見えて、そういうことかとは思うけど、最後まで平行のままのような感もあるよね。なんとなく、これだけの話のわりに、ラストはこんなものかって気もしなくもなかったけど。でも、3つの話それぞれに分けて考えると、3つともかなりおもしろかった。というか、それぞれに深い感動があったかも。 | |
うん、長い話だから、ついドカーンと来る大団円を求めてしまうけど、そうでもないってところはあるかもね。それよりも一人の主人公の人生で3つも満足できるお話が読めたってことに感動を覚えたほうがいいんでしょう。そういった意味ではかなり良かったです。ということで、オススメっ。 | |
2006.12. 3 | |