すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「コレラの時代の愛」 G・ガルシア=マルケス (コロンビア)  <新潮社 単行本> 【Amazon】
フベナル・ウルビーノ博士が亡くなって、72才のフェルミーナ・ダーサは未亡人となった。それは、76才のフロレンティーノ・アリーサが待ちつづけた瞬間だった。フロレンティーノ・アリーサは13才のフェルミーナ・ダーサを初めて見たときから彼女を愛し、待ちつづけてきた。
にえ G・ガルシア=マルケスの最新刊です。とはいえ、原書が出たのは1985年。先日読んだ「わが悲しき娼婦たちの思い出」が2004年発表の作品だから、19年も前の作品ってことにはなるみたい。
すみ そのわりには「わが悲しき娼婦たちの思い出」と共通するところも多かったよね。さまざまな女性遍歴のある老人のたった一つの愛ってところなんて、けっこう同じといえば同じのような。
にえ でも、「わが悲しき娼婦たちの思い出」の老人は、老人になってから恋をするけど、こちらのフロレンティーノ・アリーサは17才から続く恋だからね。
すみ でもさあ、一人の男性が一人の女性を生涯をかけて愛する物語、まあ、ロマンティック! と思ったけど、読んでみたら意外とそうでもなかったね(笑)
にえ うん、なんか、一人の男性が一生一人の女性を愛しつづけるというファンタジーをリアルに書くとどうなるのかっていう挑戦のようでもあったような。
すみ そうなんだろうなあ、そんなもんだよなあ、なんて、妙に納得しながら読むところも多かったかも。
にえ なんかちょっと滑稽でもあり、哀しくもあり、かなり残酷だったりもして、現実をそのまま書いたって感じではなくて、小説そのものではあるんだけど、リアルに人生を描いてるな〜って感触があったよね。
すみ ヒロインとなるフェルミーナ・ダーサが、かなり変わった女性ではあったけどね。
にえ そうそう、いったんは嫌悪を感じた男性のことを、すぐにそんなに悪くなく思いだしたりするし、けっこう長いこと恋愛関係になってたあとで別れた人なのに、あとで会ってもまったく感情が動かなかったり。
すみ けっきょくは自分しか愛せない人だというようなこともチラッと言われてたね。彼女を愛するフロレンティーノ・アリーサにしても、フェルミーナ・ダーサが普通ではない女性だってことは強く意識しているみたいだったし。
にえ フロレンティーノ・アリーサが女性的で、フェルミーナ・ダーサが男性的だと思えるところも多々あったよね。
すみ フロレンティーノ・アリーサにしても、自分しか見えていない人っていうようなことは言われていたし、フェルミーナ・ダーサを愛するあまりに、というだけでは説明できない、この人はもともとこういう人なんだろうと思わせるような自分勝手さというか、まわりの人への思い遣りの足りなさみたいなものは感じられたけど。
にえ う〜ん、フェルミーナ・ダーサのことも本当にちゃんと見ているのか、幻想を抱いているだけなのかってところはあったね。特に最後のほうではその傾向が強くて、永い歳月を想像の中で生きすぎて、現実が見えなくなってるっぽかったりもして。そのへんもリアルに書いてあるから、ロマンティックで片づけられなくなってしまったんだけど。
すみ とにかく時間的に長い長い物語で、いろんなことがあるんだよね。フロレンティーノ・アリーサが一途な愛を抱きつづけるとはいえ、現実にはいろんな女性と知り合って、さまざまな関係を結ぶし、フェルミーナ・ダーサが別の男性と幸せな結婚をしました、と言っても、やっぱり長い結婚生活のなかにはいろんなことがあるし。
にえ これがホントに愛なのかなあ、なんて疑ったりもしてしまうけどね。
すみ 執着のようでもあり、幻想のようでもあり、もうここまで来ちゃったら、愛と認めてあげるしかないのかってところもあり。というか、これが愛の本当の姿なんだよと言われると、たしかに、と思ってしまうような(笑)
にえ ホントに不思議な気持ちにさせられる話だったよね。感情移入することもなしに、うねうねと続く物語を夢中になって読んでしまったよ。いろいろ起きるから飽きるところもなかったし。
すみ あとさあ、「コレラの時代の」ってところが気になっていたんだけど、コレラは爪痕が色濃く残ってはいるけど、過去の印象だったよね。どちらかというと「内戦の時代の」なんだけど、これはたぶんわざとなんだろうな。
にえ 内戦=コレラってことでもあるのかな。なんか読んでいると、コレラ=愛のような気がしてきてしまったけど。どっちも考え過ぎか(笑)
すみ あと、鳥がやたらと象徴として使われていたよね。死体に集まるクロコンドル、ウルビーノ博士の言葉がしゃべれるオウム、愛人が飼っているオレンジムクドリモドキ、美しい人妻が世話をするハト、などなど、鳥の印象がけっこう鮮烈だった。
にえ 南米独特の植物もけっこう出てきたけどね。植物はさりげなく比喩的な表現のときに使われることが多かったような。とにかく鳥や植物、時代背景、文明の流れ込んでくる様など、南米色はかなり堪能できたかも。
すみ なんでしょう、オススメなのかな。夢中になって読んだけど、まだ咀嚼しきれていないような。考えれば考えるほど、かなり不思議なお話でしたってことで。
 2006.11.21